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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者65 現実感の喪失

 交代で警戒をする役目には俺は含まれていない。


 一応はやると言ってあったのだが、俺の存在がこのギルドの士気に関わるとしてダンジョンまで基本的に休むことになってしまった。


 もしも交代の必要が出たら言ってほしいとは伝えてあったものの、次の日の朝を迎えて彼等はにこやかな表情で起き抜けの俺に食べ物を差し出した。


 こんな戦地に居る以上、食べ物に贅沢は言えない。そう思って覚悟はしていたのだが、朝に出てきたのは普通にカレーと味噌汁のセットだった。


 銀色の皿は御飯とルーが乗り、赤い木の茶碗には豆腐とわかめの味噌汁。


 流石にレトルトだろうとは思うも、そうだとしてもいきなりキャンプで食べるような物が出てきて驚いてしまった。


 勿論、これが俺だけのメニューである訳でもない。


 皆が揃って同じ物を準備して、出来上がった順にさっさと口にカレーや味噌汁を運んでいる。


 食べる勢いは速く、無言だ。食べられる時に迅速に食事を済ませようとしているのか、味の良し悪しについてもわざわざ口にしない。


 最低限の味の保証があればそれで良いのかもしれない。俺も食べてみたが、想像以上にレトルトのカレーそのものだった。


 母親の作ってくれた物よりは悪いが、こんな場所で食べられるなら花丸レベルだ。


 食事が終わると、俺の前に榊原がやってくる。彼女は普段通り元気な様子で、朗らかな笑みさえ浮かべながら口を開いた。


「おはようございます。 寝心地はいかがでした?」


「まるでキャンプみたいですよ。 正直、こんな場所で良い物が食べられるだなんて思っていませんでした」


「ギルドは自衛隊ではありませんからね。 わざわざレーションにする必要はありませんし、今後の活動でここまで集団で動く回数は少ないと思います。 なので可能な限り市販品で済ませてしまおうというのが我々の判断です」


「確かに。 私達は公務員ですが、軍人ではありません。 ダンジョンに潜る人員も然程多くはない筈なので、各々で準備をすることになるでしょう。 支給品自体は作った方が良いとは思いますが」


 一応、俺達は国家の犬ではある。


 自衛隊と同じく日本を守る立場に居るが、軍程の縛りは無い。今後様々な会社がダンジョン向けの製品を作った時、そのどれを使うかを選択するのは本人だ。


 加えて各ダンジョンによって持ち込む物品も変わってくる。その準備をわざわざこちらでするのは大変だろう。


 いや、申請書に用意してほしい物を書いてギルドが用意すること自体はした方が良い。でも、自身の私物で準備出来るのならそちらを使ってもOKくらいにはしておきたい。


 冒険者の中には生産職の者も居る。彼等と懇意になって自腹で準備出来たなら、中身をギルドが確認するだけで十分だ。


 支給品と私物の持ち込み。双方を事前に組み込んでおけば、それを前提にした管理体制も出来る。


 恐らくは老人もそれ自体は解っている筈。だからこそ、今回いきなり自衛隊が使っているような物を敢えて使わない選択を取った。


「ちなみにこれは自腹なんですか?」


「いえいえ、ギルドの経費で落ちるそうですよ。 食い尽くしちゃっても大丈夫です!」


「ははは、了解です」


 にこやかに会話を終わらせていると、海側の方から巨大な船が豆粒サイズで見えてくる。


 深夜に出航させたのだろう。俺が寝ている間にギルドにも連絡が入っているのか慌てた様子は無く、あの距離なら船もこちらを捕捉しているだろう。


 一直線にこちらに向かってくる船を他所に、俺達は俺達で誰を外に向かわせるかを決める。


 敵はギルドが想定した以上の数で襲い掛かり、俺にとって想定内の数で終わりを迎えた。中国全土にまで根を張ろうとしている現在、やはりどうしても敵の数はまばらだ。


 此処はこの程度の数だったが、首都に近付けばもっと数は少ないかもしれない。反対に自然豊かな地帯に入ればいきなり数は二倍三倍に膨れ上がるかもしれない。


 バラつきがあるとどれだけの戦力を用意すれば良いのか予測し辛い。この程度で大丈夫という安全ラインがはっきりせず、そうなると不測の事態に備えなければならなくなる。


 自然、備えれば備える程に数も物も増える。だからこそ、未来で相手の戦力をある程度把握している俺が人数と欲しい職を指定しなければならない。


 現在の彼等のレベルは揃って一桁。二桁なのは俺だけであり、けれど榊原や山田を含む少数がそろそろレベル二桁に到達する。


 個人が挑むとすれば、俺達のレベルは安全域とは言えない。安定を望むなら挑むべきではないし、数も可能であれば増やすべきだろう。


 とはいえ、それで外側の戦力を増やしては此処を守る冒険者が不足する。


 二ヶ月もあるのだ。ちゃんと休みながら戦っていかないと途中で気絶しかねない。


 自衛隊と連携して此処なら安全だと思えるラインを確保しつつ、なるべく多くを外に向かわせる。


 以前に見たダンジョンの位置と現在の位置を脳裏に描く。普通に向かえば歩き続けて一日は掛かる計算だが、道中には様々なモンスターの妨害があるだろう。


 ダンジョンの傍まで行けばモンスターの数自体も多い筈だ。発生源が手薄になっていると思う馬鹿は居ない。


 如何にダンジョン内から出たとて、帰巣本能自体は備わっている。


 彼等がダンジョン近辺を住処とするのは自明の理であり、一番危険なのは意外にも道中なのかもしれない。


 その上で、選ぶのは純攻撃系の冒険者だ。


 攻撃は最大の防御。守っても数が増えて結局手に負えなくなるのは明らかであり、ならば倒すことを第一として進んでいった方が逆に安全を保てる。


 戦士を五名。魔法を三人。俺と榊原も一緒に向かい、拠点に残る人間の中から数人の責任者を用意する。


 榊原の代わりに全体の纏め役を担うのは、俺の秘密を知る人間だ。


 これは事前に決められている。緊急事態に責任者が居ない場合を想定するのは常識だ。


 警戒させている冒険者を除き、他の面子をテントに集める。


 集まった面々も俺達が何を言おうとしているのかは解っているので、皆が顔を引き締めていた。


 誰がどんな役割になろうと、絶対に戦闘からは避けられない。これからの二か月間は常に生死を奪い合う生活になる。


 どちらの立場が危険かは敢えて言わない。目標は取り敢えず、平和を手に入れることだ。


「――では行きましょう。 速ければ速い程全体の総数は少なくなります」


『了解ッ』


 俺の言葉に、皆が返事をして準備しておいた荷物が詰まっているリュックを背負う。


 外に出ると決められた面子が横一列に並んでいた。彼等とは言葉を交わさず、ただ互いに頷きあって動き出す。


 自衛隊に挨拶は要らない。これは既に決まっていた話。俺達は予定が遅れない限りは行くと自衛隊側に宣言してある。


 それを止められないなら、向こうも承知済みの筈だ。


 起きてからまだ二時間も経過していないが、ゆっくり待つ気は無い。俺と榊原を中央に、戦士が前を歩いて人気の無い道を静かに歩み始めた。


 ルートは基本的に直線状になっている。


 だが通れない道も多く、瓦礫の山や土砂崩れが原因で塞がれた場所は迂回した。


 同時に、種々様々なモンスターの襲撃もある。これまでは小鬼や小動物、虫といったスタンダードな敵が襲い掛かってきていた。


 その全てを俺達は殲滅し、彼等の死体はダンジョンに消えずにそのまま残される。


 基本、ダンジョン外に居るモンスターは燃やすなり埋めるなりをしないと動物の死体と一緒だ。悪臭を放ち、周囲に疫病を齎す病原体になる。


 通常なら放置は無しの一択なのだが、今はそうしている暇が無い。


 中国で新しく増えたモンスターは、鉄の鎧で構築された無人の鉄巨人や三メートルに到達する四足歩行の骨と皮ばかりの狼。色とりどりのスライムの姿も確認し、ますますファンタジックになっていく景色にはちょっとした興奮すらある。


「凄いですね……」


 榊原の感想に首肯を返し、元は町だったのだろう場所を通り抜けていく。


 日本も本来はこうなっていたかもしれない。誰も居らずに化物の巣窟になっていく様子に、およそ現実味は皆無だった。

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