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NTR人間、自身の末路を知る  作者: オーメル


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冒険者61 予定通りと予想外

「始まって早々、問題ばかりだな……」


 執務室に入った直後、老人のぼやきが耳に入った。


 ノックをして入ったのだが、どうにも相手はあまり聞いていないみたいだ。俺と一緒に入室した男が咳払いをすることで初めて顔を上げ、こちらを漸く視認した。


「おお、すまないな。 仕事が立て込んでいて聞こえていなかった」


「構いませんよ」


 冒険者の男が居るので外向きの声で老人に答える。


 彼の執務机の上には僅かに書類の山が出来上がり、ノートパソコンのキーを打つ指は依然として止まっていない。あの画面の中で一体どんな情報のやり取りをしているのかは解らないが、触れない方が良いだろう。


 突いて藪蛇になっては大変だ。ただでさえこっちも余裕があるとはいえないのに、これで更に余計な仕事を請け負いたくはない。


「一度動き出すと調整に時間が掛かってな。 まだ始まったばかりだというのに、方々から結果はまだかと急かされているのだ。 ……まったく、これだから上級国民とやらは面倒極まりない」


「貴方もその一員では?」


「私は歯車の一つに過ぎんよ。 上から指示を下せる立場とはとてもとても……」


 謙遜する老人だが、彼の居る地位も一般の人間では中々辿り着けない場所だ。


 縁も裏工作も利用して今の席に座っているのだろうが、こうして苦労しているととてもあの地位に座りたいとは思えない。


 楽をしたいなら結局は平の方が良いのだ。その分だけ切られてしまう可能性が高まるが、使える人間であると証明している内は早々に切られはしないだろう。もしも切ってくるなら、その判断を下した人間がよっぽどの無能であるだけだ。


「……さて。 では作業をしながらになるが説明をしよう」


「お願いします」


 自分で来客用の椅子に座ると、老人は静かに話し始める。


 中国政府からの助けの声は日に日に高まっていた。国内には冒険者が生まれ、まだ軍が壊滅に陥った訳ではないものの、追い詰められている状況は何も変わっていないのだ。


 軍は兎に角モンスターを倒す。或いは遠くに誘導するに苦心していた。時に政治家の命令で国民を餌に自身の住んでいる首都からモンスターを離れさせているが、当然彼等は無事に生きて戻れはしない。


 時間経過で人間の数は減っていき、インフラを維持するのにも既に支障が出ている。これ以上日本の助けを待つのは不可能の域だ。


 後一ヶ月も放置すれば、中国の政治家は虐殺され尽くすだろう。そして、冒険者と彼等に守られた国民だけが生き残って別の都を作り上げる。


 そこに他国の人間の横槍が入るのは間違いない。散々に迷惑を掛けてくれたのだ。土地を奪われたとて中国は文句など言えはしない。


 が、それでは日本にとって旨味が無いのも事実。


 どうせなら日本主導であれこれ弄りたいのが我々の政府の思惑だ。人民の救済だとか、国家の立て直しに協力するなんてのは所詮は建前である。


 向こうもそれは解っている。解っている上で、彼等は表面上は受け入れることにしたのだ。


 内側で反抗の意思を燻らせ、然るべきタイミングで爆発させる気だろう。


 それはそれで俺は構わない。政府に利用されるなんて個人的にまっぴらごめんであるし、俺の目的はあくまでも自身のレベル上げ。中国の人間がどうなろうと、俺の生活に大した変化は生まれない。


 強いて言えば強力な冒険者が減ってしまうことくらいだが、まぁ自国内にも有能な冒険者は生まれている。


 わざわざ外部から人を招く必要は一切無い。


 今回、俺は自衛隊の面々と一緒に向かうことになる。


 移動手段はヘリ一択。空港が既に使い物にならない以上、大陸端に多数のヘリを向かわせてその場のモンスターを一先ずは殲滅する。


 端とは言ったが、ダンジョンに最も近い端だ。必然的にモンスターの数も多くなり、冒険者達の第一戦闘エリアは先ずそこになるだろう。


 ヘリの燃料が続く限り飛行してもらい、俺達はそのまま降下。最速で安全圏を構築していき、ヘリを着陸させて臨時拠点を作成する。


 臨時拠点は本当にちょっとしたものだ。足止め目的の侵入防止柵と、大型のテントを張るくらいが関の山。本命は俺達が飛んで行った後に到着するだろう大型輸送船だ。


 あちらに大量の資材を持ち込み、無事が確認されたら岸に停泊して拠点を大きくしていく。


 勿論、俺達が降りると予想される地点には港は無い。整備されていない場所に船を止める場合は少し距離を取る必要があり、資材の運び出しには苦労するだろう。


 まぁ、その点は冒険者が何とかすればいい。彼等の膂力なら複数人で大量の資材を運び出せる。


「君達は既に知っているが、我々の活動期間は二ヶ月。 その間に拠点から直接ダンジョンに乗り込み、可能なら即日に攻略する予定だ。 ……ダンジョンの攻略は可能な範囲なのだろう?」


「ええ。 正直即日となると厳しいですが、数日の時間さえあれば攻略は難しくありません。 攻略担当の人間を教えていただければ情報の共有もしておきますよ」


「うむ。 それは後でお願いしよう。 占拠後は特にモンスターが発生している箇所に冒険者を派遣して殲滅してもらうことになる。 蟻の子一匹も逃してはならないと言いたいが、我々が出せる戦力も少ない。 最優先はダンジョンの攻略そのものと、都市の安全そのものだ」


「……二ヶ月で終わりますかね?」


「終わらそうなどとは考えていないとも。 確かに助ける気はあるが、自分の命を賭ける程ではない。 どうなろうとも二ヶ月で打ち切りだ」


 事前に把握していた情報と大まかな部分は変わらない。


 あくまでも俺達は出来る範囲で敵を倒す。だが、中国国民の安全を守る訳ではない。二ヶ月が経過した頃には幾らかの平和が訪れると思うものの、その後に彼等が積極的に冒険者を優遇していかなければ似たような状況に戻るだろう。


 だが、舵取りは政府がしなければならない。政権が変わるにせよ、冒険者が頂点を取っては彼等を基準にした社会が誕生してしまう。人間の世界は、どうあろうとも人間が統治しないといけないのだ。


 そこで老人は少し黙った。顔を見ると、言うべきか言わざるべきかを悩んでいるような表情でこちらを見ている。


「どうかしましたか?」


「……いや、君の御両親や親戚には勘付かれてはいないか?」


「大丈夫です。 こんな事実を知っていたら私の家族は絶対に黙ってはいられませんよ」


「そうか。 ……君が居ない間、私が全力で家族を守ろう。 既にその手配は済ませてある」


「……ありがとうございます」


 老人の言葉は、俺にとって当然のものだ。


 そちらを助けているのだから、こちらも助けてもらう。持ちつ持たれつが現状の俺達の関係であり、わざわざ老人がそれを言うのは少しおかしい。


 何かあったのだろうか。いや、これから何か起きるのか。


 感謝を口にしながら、じっと老人を見る。老人も暫く俺と見つめ合い、向こうが根負けしたのか小さく息を吐き出した。


「……君が中国に行く前に話すべきか悩んでいたのだが、事は御家族にも影響するかもしれない話だ。 今、言っておこう」


「――何かあるんですか?」


 自然、声が鋭くなった。意識してはいなかったが、心なしか声も低くなっている気がする。


 俺の傍で立ちっぱなしの冒険者の男が喉を鳴らす。場の雰囲気は急速に緊張に包まれ始めていた。


「一部の議員が他国の人間と接触しているのが確認された。 見つかったのは一ヶ月程前だが、漸く漠然とした目的を先日ウチの人間が見つけてくれた」


「政治絡み……ですか」


「君の派遣を他国が求めている。 いや、移籍と言っても過言ではないな。 多額の援助と共に君を他所の国に売り飛ばそうとしているのだ」


 唐突な老人の情報に、俺は声を失った。

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