乙子ルート 第7日目⑩ 終
⑩
液晶を見ると達人からだった。
「もしもし」
「メシまだだろ? 出て来いよ。駅前のワックで待ってるからな」
そんなお誘いを受け、一路達人の元へ。
朝と合わせて八時間近く寝ている計算になるので、特にだるさはない。
通い慣れた道を通ってワックにたどり着く。
そこには乙子の顔もあった。
「あれ? 乙子も来てたんだ。珍しいな」
「達人に呼ばれたのよ」
「達人に?」
「まあ、たまにはな。昨日はあんま話できなかったし」
二人の席にはそれぞれのメニューの乗ったトレーがあった。
来たばっかのオレは当然まだ何もオーダーしてないわけで。
「んじゃ、オレもなんか買ってくるからちょっと待っててくれ」
そんなわけでオレも適当にオーダーすると、二人の待つ席に着いた。
「お待たせ」
「おう」
席に着き、軽く雑談しているとカウンターに呼ばれる。
頼んでいたメニューを受け取り、再び席に着き食べ始める。
その後もいつも通り、食事を取りつつ、なんてことのない話をしていた。
そんな日常の中。
「ほら、貞君、口にケチャップついてる」
「ん」
そう言うと、乙子はオレの口の周りを汚していたケチャップを拭き取ってくれた。
「サンキュ」
「まったく、いつまで経っても子どもみたいなんだから、貞君は」
そんなオレたちのやり取りを見て達人がポツリと言った。
「お前ら……ヤったな?」
「ぶっ!」
達人がいきなりそんなことを言い出したので、飲んでいたバニラシェイクを吐き出してしまった。
一方、乙子はと言うと、耳まで真っ赤にしていてうつむいている。
「よくわかったな」
「わからいでか。ヤった男女にしか出せない濃密な空気を出してっからな」
相手が乙子じゃなかったら即報告したんだろうが、一番親しい友達である達人にそのことを知られるのは何となく気恥ずかしくて、そんな気にはなれなかった。
「ま、いいさ。何となく話し難い気持ちはわかっからさ。お祝いって言ったらなんだけど、ここはオレがもつからお前ら好きなもん頼め」
「んじゃ、オレはスペシャルギガワックバーガー三個追加!」
「それじゃ、あたしはスペシャルギガワックシェイク追加で」
照れ隠しにオレと乙子はけっこう無茶な注文をした。
てっきり止められるもんだと思ったのだが、達人はそうはしなかった。
「止めねーのか?」
「いいさ、そんくらい。ダチのお祝いにしちゃ安いもんだ。それに貞君お前明日誕生日だろ、ハタチの」
こういう時の達人はとにかく気前がいい。
男前だ。
オレがもし女だったら抱かれてもいい。
……ひくなよ、オイ。
あくまでも「オレが女だったら」という仮定の元に成り立つ話ですよ?
オレはノンケなんだってば。
「あんた、何気にいいヤツ?」
「今さらでしょう」
そんな二人のやり取りを見ていると、オレの心もほこほことあったかくなる。
「幸せだなぁ……。僕は君たちといる時が一番幸せなんだ」
「何言ってんだか」
「ホント、貞君って時々よくわかんないよね」
オレの奇妙な言動を二人がそろって非難する。
けど、それは本気で非難してるわけじゃない。
「仕方ないなあ」って感じのあたたかいものだ。
本当にオレは幸せだ。
ここぞという時は頼りになる親友がいて、かいがいしく世話を焼いてくれる彼女がいる。
これ以上望んだらバチ当たるってもんですよ。
そんなことを思いつつ、オレたちの優雅な夜の時間は過ぎていくのだった。




