乙子ルート 第7日目⑥
⑥
意を決してオレは切り出した。
「おとちゃん、一生のお願いがあるんだけど」
「なに?」
「おとちゃんの処女をオレにくれ。その代わり、オレの童貞をおとちゃんにあげるから」
「…………」
少し考える素振りをする乙子。
いかん、フライングしてしまっただろうか?
「……いいよ」
「おとちゃん、今なんて?」
「だから、いいよ、って……」
その言葉を聞いてオレはようやく胸をなで下ろした。
「心臓に良くないから! ガチで拒まれてると思ったから!」
涙目で訴える。
「ごめんね、別にもったいぶってたとかいうわけじゃなくて、どういう風に返事したらいいのかわからなくて……。結局簡単な返事になっちゃったんだけど、本当にごめんね?」
「ごめんね」を繰り返す乙子。
「いや、別に怒ってるわけじゃないから、そんな何度も謝らなくても……」
オレは生まれて初めて、童貞で良かったと思った。
何故なら、十年以上思い合った本当に好きな人と初めてを与え合えるからだ。
子どもの頃からずっとそばにいた乙子と今、キスをしてる。
いきなりディープキス、とかするほどオレは空気の読めない子じゃないんで軽く唇を重ねるだけに留める。
これで乙子とキスするのは二回目だな。
乙子とオレは昔一度だけキスしたことがある。
いや、したというか、されたんだけどさ。
しかも、ほっぺとかじゃなくて、唇に。
そこ止まりだけどさ。
お医者さんごっことかもしたことないし。
ウソじゃないですよ? 今のオレからは想像できないと思うけど、昔のオレはそりゃ引っ込み思案のおとなしい子どもだったから。
まったく、ちっちゃい頃の乙子はませた子どもだったもんだ。
……違うか。ちっちゃい頃の乙子は達人も言ってた通り、シャイな女の子だったし。
それだけ真剣にオレのことを好きでいてくれたってことだ。
「本当に思い出したんだ? ずっと忘れてるのかと思ってた」
「ごめん。正直に言ってさっきまで忘れてた」
「でも思い出した。おとちゃんのことを好きだった気持ちも、なんでヘタレだったオレがケンカに明け暮れるようになったのかも、あの日の誓いも全部」
「誓い?」
「そう、誓い」
「どんな?」
「一つは絶対おとちゃんを守れるくらい、強い男になること」
「もう一つは?」
「もう一つはおとちゃんを守れるようになるまではオレのおとちゃんを好きだって気持ちを絶対表に出さないこと」
「そっか……」
納得したように乙子がつぶやく。
「だからさーくんあの日からあんなに変わっちゃったんだ……」
「そういうこと」
「でも、今のオレはおとちゃんの知ってるさーくんであり、オトコの知ってる貞君でもあるんだ」
「さーくん……」
「体が大きくなって多少エロくもなったけど、気持ちは何も変わってないよ。あの日のままのおとちゃんが大好きなオレのままだ」
「さーくん……」
それだけ言って目を閉じる乙子。
その唇はキスのおかわりをねだっている。
再び口付けを交わす。
今度はぷにぷにとした柔らかな唇の感触を存分に味わう。
舌先と舌先が触れ合う。
お互いの口腔内を十分に堪能して口を離す。
「冷静に考えると、キスってエロいな」
何気なくオレは言った。
SEXは快楽を伴うけど、それはあくまでもおまけに過ぎない。
SEXの本来の目的は子どもを作ることだ。
まあ、最近は趣旨が逆になって気持ちいいからってだけで、みんなSEXしてんだけどさ。
その結果、できちゃった結婚が横行してるわけだが。
まったく最近の若い連中ときたら、避妊もせずにパコパコやるから。
と、まあそんなことは今はどうでも良くて。
キスにはそういった意味はまったくないわけで。
純粋に快楽を求めるだけの行為だ。
乙子を見つめる。
キスをする。
耳に、うなじに、首筋に。
次々とキスの雨を降らせていく。
こうして、おとちゃんこと中野乙子と、さーくんこと、オレ、立里貞君はお互いに清い体のままで結ばれたのだった。




