乙子ルート 第5日目③
③
約一時間後。
「貞君、貞君!」
……なんか呼び捨てで連呼されると、「『さん』を付けろよ、デコ助野郎!」とかつっこみたくなるな。
オレは生まれついてのツッコミ気質なんだろうか。
英語で言うと、「ナチュラル・ボーン・ツッコミ」?
「貞君、貞君、今度はあれに乗るわよ!」
そう言ってオレの手を引っ張る乙子。
その手は思ってたよりもずっとちっちゃくて、やわらかくて、すべすべしていて、あったかかった。
こんな風に乙子と手をつなぐのなんて何年ぶりだろう?
「そんなにあわてなくても、乗り物は逃げませんよ?」
「いい歳してくるような所じゃない」あなた、さっきそう言いましたよね? 乙子さん。
……めっさ楽しんでるんですけど。
ま、それが目的で来たわけだし、いいんだけどさ。
「今度はあれに乗らない?」
そう言って乙子は文明とは無縁な『絶叫マシーン』とかいうものを指差した。
「さてお小腹が空いたね、乙子くん。何か軽く食べようか」
華麗にスルーするオレ。
「そんなこと言わないでさ。いいじゃない、乗ろうよ」
「こんなものに乗って時間を過ごすなんて人生の浪費以外何物でもないと思うんだ、僕は。どうしてもって言うなら、一人でお願いします」
「あんた、こわいの?」
「貴様ッ、この立里貞君が絶叫マシーン程度に臆したと言いたいのかッ!? いいだろうッ、この立里貞君、逃げも隠れもせんよッ!!」
「じゃあ決まりね」
「はい……」
そんな感じで、見事乙子の挑発に乗ってしまったわけで。
自分の真っ直ぐな気性がうらめしいぜ。
そんなわけで、数人が並んでいる絶叫マシーン「KITADAKE」に並んでいる。
ちなみに漢字で書くと「北岳」な。
日本で二番目に高い山だ。
二番目というところにそこはかとないマイナー臭を感じるぜ。
とか、豆知識を披露してる間にオレたちの順番が回ってきた。
座席に座り、きっちりと安全ベルトをして、もう一度確認。
冗談じゃなく命に関わるからな。いくら用心してもしすぎってことはない。
そんなオレのいつもとは違うマジな態度を見て乙子が心配そうに声をかけてきた。
「貞君、本当に大丈夫?」
「バッチ来いや!」
ムダにテンションを上げる。
全員の安全が確認できたところで、KITADAKEは静かに走り出した。
初めの内はスピードなんて全然出ない。
下がっているのではなく、上がっているからだ。
カタカタと乾いた音を立てて上がってゆくこの鉄の塊はオレにとってまるで死刑台のエレベーターのように思えた。
……(※あまりにみっともない光景であるため、お見せできません)。
………(※あまりにみっともない光景であるため、お見せできません)。
…………(※あまりにみっともない光景であるため、お見せできません)。
オレは死んだ。




