乙子ルート 第3日目⑦
⑦
「ほれ」
さっそくゲットしたぬいぐるみを乙子に差し出す。
「くれるの?」
珍しく困惑した顔を見せる。
「そのために取ったんだろうが。今さら『いらない』とか言うなよ?」
「言わないわよ。それにしても、あんたって本当に役に立たない技術だけは豊富よね」
乙子が言ってはいけない言葉を口に出す。
けっこう気にしてるのになぁ、オレ。
「もしかしてオレって人生ムダにしてる?」とか。
スイカ割りとかババ抜きとか、日常ではまったく役に立たないスキルを最高レベルまで極めてたりする。
まあ、ハマってる最中は楽しいんだけどさ。
乙子の言葉を聞いて、オレはこの時、未来からやってきた某ネコ型ロボットのセリフを思い出していた。
「だれでも何かとりえがあるもんだねえ。こういうくだらないことだと、きみはじつにうまい」
そう、無害そうな顔をして、平気で毒を吐く青ダヌキだ。
乙子の言動はヤツにそっくりなわけで。
まあ、言った本人に悪気はないんだろうけど。
だからこそ、余計にタチが悪い。
なんてことを考えていると、
「でも、ありがとう」
「お、おう……」
「せっかく貞君に取ってもらったぬいぐるみだから大事にするね」
そう言って微笑む乙子。
そんな乙子を不覚にもかわいい、とか思ってしまったわけで。
まあ、いいか。
こんなに喜んでくれるなら。
さっきのオレを深く傷つけた心のナイフの件も水に流そう。
なんと言っても、オレは「心の広さは四畳半・微妙に心の広い男」だからな。
えっ? 広くないって?
どこの富裕層だ、お前は。
四畳半もあれば十分すぎるほど人間らしい生活が営めるだろうが。
そんなわけで、「狭い」とか思ったぜいたくなキミはお兄さんと少し便所裏でお話をしようか。主に拳で。
なんて風に、また脳内でキレるオレ。
いかんな。カルシウムは足りてる筈なんだけど。
きっと大腸のせいだ。
絶対そうに決まってる。
やっぱ大腸よね~。




