表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
95/104

95:時を越えて

二体目の虚無、出現。

この日のために備えてきたトップランカー達は、ありとあらゆる手を打ち、総力を結集していた。

95:時を越えて





『じゃあ、抜刀さん、確かに渡したわよ』


『ああ。しかし…… これは、重いなぁ』


『責任重大ってヤツっすね』


虚無討伐隊の8名に、キツネが+10ポーションを分配し終えた。

そろそろ、かき集めたポーションを一箇所に集めるべき時が来ていたのだ。


予定の火力を出すために必要なポーション、約7万個を大きく上回る、8万個のポーションを、八等分して虚無討伐隊の面々に受け渡す。

ここまで大量のポーションを収集できるとは思っていなかった。SNS上での盛り上がりに感謝しなければなるまい。

ここまでの余裕がなければ、彼らのレベルではまだ100万ダメージに届かなかったかもしれない。


999個スタックし(重ね)た+10ポーションを、それぞれ10セット。所持品枠(インベントリ)10マス分、決戦の日まで各自で保管しておく。

万が一、虚無を倒す役目を負ったプレイヤー、「抜刀牙」のキャラデータが不意の事故で失われたとしても、残る七人が分散して保存しておけば、被害は最小限に留められるという訳だ。


『余った分はどうするんですか?』


『ああ、それは……』


尋ねるカナリに、キツネは……







『申し訳ないが、こちらも多少は補わねばいけないんでね……』


ムラマサは、マウスのサイドボタンに設定した自動処理(マクロ)を走らせる。

右クリックを連打するのと同じ動作が、そのボタンには設定してある。

たちまちに、580個の+10ポーションが消費され、ムラマサの基礎ダメージは+5800される。


『じゃあ、ちょっと待ち時間を稼ぎますわよっ……と』


コウヤ達にポーションを渡し終えた後、キツネは元の忍者に戻り、ムラマサ達に合流していた。


まだ、待つべき時間がある。

キツネは式神召喚を連打し、虚無の足止めを開始する。


『最後に計算し直しとか、しなくて大丈夫です?』


『土壇場で焦ってやり直したって、かえって計算ミスして混乱するだけじゃない?』


『それもそうか……』


マジメイジの問いかけに、キツネはのんびりとした声で返す。



一閃がパラディンの「加護」を多重発動し、+30%


発光大王子がロードの「号令」の重ね掛けをし、+50%


ブッチーがウォリアーの「雄叫び」スキルを使い、+15%


キツネがニンジャの「薬丸」をムラマサに投げ、+25%


辻スミスがエンチャンターの「対人強化」を掛け、+258%


前回、火力の限界に挑戦した際は、これで約86万のダメージに達していた。

今回、プレイヤー各員の努力によって底上げされた分を計算に加えると、89万まで加算される。

ここに、ムラマサが厳選に厳選を重ねたトレハンの成果、前回の挑戦で投げた『妖刀村正』を上回る、最高可変値の『無銘正宗』の火力を加え、90万。


そこにポーションの+5800分を加えても、まだ92万ほど……


あと一手が足りない。






四層、虚無迎撃戦、その前日。


日曜日。

山田マンとユウリは、ユウリの父と共にマジホリRSのサーバーのある故・カノザキ宅を訪れていた。


ある、上書き作業を行うために。


これは、今いるプレイヤーやアイテムのデータを書き換える物では無いため、新たなデータ抹消の恐れは無かった。

無論、動作中のサーバーに直接手を加える行為は、微細なリスクを伴うものではあるが、それでも、新たに「出来る」と確信に至ったこの手は、まさに救いの一手と言っていい確実性を持っている。

万難を排してでも、実行に移す価値があった。


『虚無を倒すのに、貴方の力を貸してください……』






そして、当日。


マジメイジと人形姫は、虚無を包囲する六人に万一の事が無いように、後方に陣取り、ランダム発生するザコモンスターの処理にあたっていた。

二人のキャラクターには味方強化の能力は無く、護衛役としての同行だった。


『はーい、準備OKのお知らせ、入ったわよ~』


携帯からの一報を受け、キツネがボイスチャットで合図をする。


『じゃ、代わるね』


『見届けられないのは残念だ! 録画、ミスらないでくれよ!』


人形姫とマジメイジが、パーティーを抜ける。


そして、代わりにパーティーに加わり、ポータルでロビーからこの場に姿を現したのは……



トップランカー、ランキング一位

レベル892、天使(エンジェル)♂ 「SUPER_Z」

通称、超Z



トップランカー、ランキング三位

レベル831、吸血鬼(バンパイヤ)♀ 「SUPER_ROSE」

通称、薔薇女王




『お待たせ。無事、凍結解除に成功したよ』


サイバラのその声は、やり遂げた清々しさに満ちていた。


解析班は、たゆまぬ努力の末、ついに……個別手作業ではあるが……凍結されたセーブデータの復旧に成功していた。

何度か他のキャラで実験し、成果を確認した後、本命のこの二体を復旧。

なんとか、今日この時に間に合わせた。


『なるほどねぇ、サイバラで、薔薇で、女王サマってワケね』


ランキング二位の「SUPER_LD」と合わせて、トップランカー1、2、3位全てにスーパーの文字が並んでいる事から、以前からこの三名は開発中核メンバーである、カミさん、バラさん、カンさんの三人だと予想はされていた。

ムラマサを遥かに上回るレベルの高さも、開発者ならば納得と言うものだ。

だが、本名である「サイバラ」を知ったのは最近の事だ。

ブッチーの納得も、ずいぶんと長い時を経た後の、「なるほど」であった。


『で、そちらは…… 君かい?』


一閃が尋ねる。


『ええ、僕です。 今度は……間に合わせました……

山田マンです』


超Zのデータでプレイしているのは、山田マンだった。


そして、そのキャラクター、ランキング一位の天使は……


『カノザキさんのキャラデータ、お借りしています。

仇討ち……とは違いますか……

彼の天使で、虚無を倒す……

必ず、やり遂げますよ』


山田マンの声は、緊張のせいか、少し震えていた。


『久しぶりに声を聞くな、山田!』


あえて、親しげに元気よく話しかけるマサムネ。


『ええ……』


怯えるように、小さく応える山田マン。


『ムラマサくん、今は……』


何かを言おうとするムラマサを、キツネが静止する。


『分かってますって、キツネさん。

ただ、これだけは言わせてくれ。

俺は待ってた。

ちゃんと、全部分かってる。

もういいんだ……

また一緒にやろうぜ! マジホリを!』


少しの、沈黙。


『ええ…… はい……

ああ! 倒そうぜ! ラスボス!』


山田マンも、力強く応える。

遠慮しがちな大人しい青年の声が、生意気な少年の頃の色を、僅かに取り戻していた。



『じゃ、そろそろ始めましょ?』


キツネが口火を切る。



『まったく、臭い事を言ってくれて……

ここ一番でリーダーらしくなるもんだ』


一閃は、楽しそうにつぶやく。



『一層の新人どもに、目にもの見せてやんねぇとな!』


ブッチーは待ちきれないといった様子で声を張り上げる。



『これが本当のチート…… 悪い大人の強さですなぁ!』


普段は落ち着いた口調のサイバラも、今日ばかりは興奮しているらしい。



『いやー いい時に復帰出来たもんだ。

この現場に居合わせる事が出来た事、本当に有り難く思ってますよ』


辻スミスは、相変わらず礼儀正しく、落ち着いている。



『場違いなのが一人混じっててすみませんて感じだけど……

あいつらの分まで、俺が仇を討ってやりますよ!』


発光大王子は、中堅勢として共に戦った、キャバ、みみか、ゴリ、つらぬき丸達の分まで俺がやるんだという、気負いを持っていた。



『カベの分も、な……』


今、お前はどうしているんだ?


親友の仇を、今度こそ。

ムラマサは、友に捧げる必勝の念と共に、ここまで長く苦しい戦いを続けてきた。


一度は潰えたと思った、この機、この時、今度こそ……!



(カノザキさん…… 俺、これで、許してもらえますか……ね……?)


自分の狂った妄執によって、どれだけの迷惑を掛けてきたか。

山田マンは、虚無を生み出した最大の原因は自分であると、正しく理解していた。

それは、自責の念でも何でもなく、厳然たる事実である。

自分が発生させてしまった、最悪の怪事件……

自らの手で、今こそ……


『カノザキさん、見ててください』


かすれるように小さな、それでいて、力強く、自信に満ち溢れた声で、宣言をする。




『作戦開始!』


すっかりリーダーが板についた、ムラマサが号令を発する。


天使の祝福スキルと、バンパイヤの連れてきた洗脳モンスターの持つ火力強化オーラにより、35%の強化が上乗せされる。


完全に終了した戦闘システムの解析と、システムに習熟したプレイヤー各員の計算により、十分に試算は重ねられている。

ダメージは確実に100万を越える。


確信がある。



サイバラの吸血鬼はただ立っているだけで貢献し、


カノザキの天使が祝福を重ねて放ち、


ブッチーの戦士が叫び、


発光大王子の君主が光り輝き、


一閃の聖騎士が加護を多重掛けし、


キツネの忍者が薬丸を投げ、


『今だ!』


ムラマサの合図で、辻スミスが「瞬間強化」を放つ。



『今度こそ……!』


その時が来た。


ただ、それだけの事として、無心で発動キーを押す。



画面上、795レベル、侍、MURAMASAMUNEが気合の叫びを上げ、虚無へと向かって刀が発射される。



武器投げのゆっくりとした弾速で、刀は十数フレームの時間、滞空する。



刀は、ついに虚無へ命中し……









ポップアップした数字は、僅かに1。


だが、それで十分。






『うぅぅおっしゃあぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!!!』


ムラマサは、吠えた。

八人が、思い思いに、叫んだ。



死亡演出パターンも、やはり「0」番。

虚無は、ダメージ1を受けた瞬間に死亡。

一瞬で画面上から消えて無くなった。



トップランカーによる虚無討伐隊、結成から三ヶ月以上の時を経て、ついに任務を完了。



虚無は、倒された。


虚無は、倒すことが可能だった。




後は……






<トップランカー上位三名>

SUPER_Z(天使) カノザキ 管理人のカンさん

SUPER_LD(君主) キタガミ 開発者=神、カミさん

SUPER_ROSE(吸血鬼) サイバラ バランス調整のバラさん


延々プレイしていたムラマサでも795レベルなのに、長年放置していたこの三人がこのレベルなのは、つまり……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ