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89:みんなの力で

最後の希望が断たれた今、マジホリプレイヤー達は……

89:みんなの力で




第二層、51階の決戦……

それは、またも見送られる事となった。


集まった+10ポーションは、想定を7000も下回る23000個に留まり、どう考えても百万ダメージに届かない。

よって、見送り。


戦いはインフェルノダンジョン一層、50階~01階に持ち越される。


それは、第二層より絶望的な、言わば無理ゲー。


一層の戦力と難易度補正で戦うには、二層突入平均ラインと言われるレベル200のメンバーを八人揃えたとしても、54000個のポーションが必要となる。

例え、これを300レベルで揃えたとしても、45000個。


残る猶予、虚無の一層突破に要する25日間で稼げる数は、現状のままではどんなに頑張ったとしても20000個がせいぜいだろう。

虚無に挑むプレイヤー全員が300レベルという想定も、実際にはあり得ないものだ。

虚無討伐に本気で取り組んでいるプレイヤー達は、二層の決戦に合わせてキャラクターを調整してきた。

本気のキャラクター達は全員第二層に取り残されているため、また別のキャラクターを鍛え直さねばならないのだ。

半月で300レベルに到達したクラガの無謀を真似出来るような人間はそうそういないし、真似をする事自体も危険だ。

無理ゲーと言わざるを得ない。




一度は断たれた希望が蘇り、そして、また絶望へと変わった。

各プレイヤーの戦意は今までに無いほど下がった。

その絶望は、そのままポーション回収数の低下となって表れる。


マジホリプレイヤーの中には、諦めの空気が漂い始めていた。




だが、そんな苦悩とは無縁の者達がいた。

彼らは、目的からして違う。

虚無とは関係なく、あくまで一本のゲームソフトとして、マジホリに接している者達だ。


コウヤは、仲間と楽しむためにゲームを遊んでいるだけだ。

+10ポーションの回収にも多少協力はしているが、それはあくまで、ついでの事だ。


ハクスラというジャンルを知らない、このジャンルに始めて接する感覚を持った子供達。

だからこそ、マジホリを純粋に楽しんでいる。

子供らしい興味の持ち方で、虚無騒動に全力を出すでもなく、「楽しい」と思って自分達のためのプレイを続けている。

彼らにとってマジホリRSは、「今しか遊べない、期間限定のよく出来たフリーゲーム」のようなものだ。

そのついでに人助けも出来るとなると、話題にもなろうと言うもの。


だが、しかし、いささか話題になりすぎてしまった。


学校をサボってまでゲームに没頭し、その上、怒り狂って友達を殴る者まで出てくる……

教師としては、見過ごせない話になってきてしまった。






「それでは、今日のホームルームは、パソコンゲームの問題を話そうと思います」


保護者の間で問題視され始めたマジホリが、学校から禁止を言い渡されるのか否か……

それが、今日、このホームルームに掛かっている。

担任教師を上手く説得し、皆を納得させる。

その役割は、そもそもの発端である自分自身が担うべき、と、コウヤは覚悟を固めていた。。


(問題ない…… やれるさ!)


その表情には、緊張も怯えも無い。


「皆さん知っての通り、あるパソコンゲームが今、このクラスで流行っていて、それは他のクラスにまで広がり始めています。

ゲームのしすぎで勉強をサボったり、学校に登校して来なくなる生徒まで出ています。

皆さんのご両親の間から、様々な心配の声も寄せられています。

このゲーム、ええと……マジカルホーリーストレングスを、禁止するべきなのではないかと、職員会議でも意見が出ています」


ザワめく教室。

文句の声を上げる男子生徒もいる。


「はい、皆さん、言いたいことは沢山あるのでしょう。

ですので、今日はこの問題を話し合ってもらって、先生にも分かるように議論をしてもらおうと思います。

それでは、カナリさん、お願いしますね」


担任教師が後方に下がり、パイプ椅子に座ると、クラス委員長であるカナリが教壇に立ち、司会役を始める。


一瞬、その視線がコウヤに向けられる。

安心しろ、と言うかのように。


黙って頷くコウヤ。

その視線は、ユウリ、ハナミ、ソノカ…… 多くの仲間達とも交わされる。

確たる信頼の込められた強い眼差しが、立ち向かう力を与えてくれる。


「では、皆さん、この気持ち悪いゲームをなぜ流行らせてしまったのか、私に教えて頂けませんか?

なぜ、健全なゲームではなく、このような物をわざわざ遊んでいるのか……」


カナリは、不愉快そうに、つまらない遊びに興じる者達を見下すようにして、口火を切っていく。


そう、担任教師は知らない。

この生真面目で堅物の、最も信頼する生徒が、日毎夜毎に恋する男子に会いたいがため、足繁くその「気持ち悪いゲーム」に入り浸っている事を。

こんな、タダで遊べるからと流行り始めたという怪しいゲームなど、プレイしているとすら思っていない。

その信頼を利用し、彼女がこの場をコントロールする。

綿密な作戦会議を立て、準備は万端。


「では、まず、このゲームを最初に私達の中に持ち込んだコウヤくんに話してもらいましょう。

コウヤくん、順を追って説明してください」


「はい、委員長」


コウヤは、不敵な笑みを一瞬浮かべた後、勢いよく立ち上がる。


問題ない。

みんな味方だ。

あとは、上手く俺が喋ればいいだけ。


「最初は、ただ、父さんに何かいいゲーム無いかって、聞いてみただけなんだけど……」


今までの出来事を、ありのままに語るだけでいい。


嘘でも何でもない。

ただ、事実を語るだけ。


今は亡き開発者のため、みんなで力を合わせて頑張っている。

15年近く続く、愛好家達の集まる場所を、みんなで守っている。


それは、きっと、誰から見ても正しい事だ。


学校では学べない、マジホリというゲームでしか体験できなかった、この上なく貴重な、大切な経験のはずだ。


コウヤの想いは、そのまま言葉となって、教室に溢れていった。











今どきのホームルームって、どういう雰囲気なのかなぁ

今でもクラス委員が仕切ったりするのかどうか、当方には分からないのですが……

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