06:ゲームスタート
四人はいよいよ、マジホリRSのプレイを開始する!
06:ゲームスタート
結局、マニア向けの追加キャラクターに手を出すのはやめて、事前の打ち合わせ通りの、本来のマジホリのキャラクターで挑む事に決めた。
攻略wikiにも、まずは基本キャラを極めてからMODキャラに挑むのが良いと書かれていた。
ウォリアー(♂) KOUYA_DX
ネクロマンサー(♀) YA_MA
ドルイド(♀) -YUI-+(>o<)+-YUI-
アーチャー(♂) SHADOU_MARU
まだ一度も冒険に出ていないキャラクターでゲームをスタートすると、そのキャラクターはどのプレイモードで生まれたかの判定が付与される。
これで、四人のキャラクターは、「ライジングサン」出身のキャラクターとしての判定を持つようになった。
つまり、もう通常のマジホリは遊べない、RS専用のキャラクターとなったのだ。
四人のキャラクターが始まりの町、グラストラムに降り立つ……!
「おーっ すげー! 復興してる!」
コウヤは、見慣れた廃墟の町が完全に復興した姿に改変されている事に感動する。
「アマチュアが制作したにしては、よく出来たグラフィックですね」
ユウリも出来栄えに関心しているようだ。
「ウチのパパ、ポリゴンのツール得意みたいだし……」
マヤは、まだCADというツール名までは覚えていなかったが、父の本職とする技術がゲームに応用出来る事は理解していた。
「雰囲気暗い……」
ユウイは、やはりこの陰気な海外ゲームの雰囲気には馴染めないようだった。
四人が思い思いの反応でキャラクターを歩かせ、ゲーム内容を確認して回る。
ユウイはマウス操作に慣れるのに苦労しているようだったが、意外と飲み込みは早いようで、しっかりと三人に付いてきていた。
「姉ちゃん、やっぱりもう始めてたな?」
操作に慣れた様子で、町の外に出る前に使用しておいた方が良いスキルをそそくさと展開するマヤのネクロマンサー。
初期装備のナイフが緑色に光っているのは、初期習得スキル「付与毒」を使用済みの証拠だし、「骨の盾」もキャラクターの周囲で回転を始めている。
プレイ開始の瞬間からこの動きをするというのは、経験者のそれであった。
「ノーマルクリアしただけよ。ドルイドで」
ゲームの基本は把握しているという事だ。ありがたい。
ユウリの方は事前知識はバッチリで、こういうジャンルにも慣れているようだから、心配なさそうだ。
問題はユウイの方だ。
「ユイちゃん、ドルイド、教えたげよっか?」
「大丈夫! 大体分かった!」
操作に慣れた事を誇るように、ユウイのドルイドがマヤのネクロマンサーの周囲をグルグル回る。
外に出る前にしっかり狼を召喚し、スキルを使って減った分のマナも既に回復し始めている。
召喚系のスキルは消費が大きく、時間で自動回復するシステムのこのゲームでは、開始早々に出し切って準備を整えてから出発した方が効率的だ。
町の中では回復速度が高速化する事もあって、この準備もそう面倒なものではない。
そういった原理はよくわかっていなくとも、見よう見まねで学習する速度は速いようで、ユウイはマヤの骨の盾召喚を見て覚えたのだ。
「ファンタジーライズと似てるね、お兄ちゃん」
「ああ、言われてみれば、システムの基本は近いかもな」
レベルファイトの作った子供向けアクションRPGの内容は、言う程マジホリと近い訳ではないのだが、あまり多くのRPGをプレイしていないユウイにとって一番近いタイトルなのだという事は分かっていたので、頷いて妹に同意して見せる。
だが、この四人が向き合ってノートパソコンを置いて同時プレイするという感覚は、昨今の携帯ゲーム機で協力して狩りをするのに似ていたし、案外的外れでもないな、とユウリも考え直していた。
RPGの過去はしっかりと今に受け継がれているのだと、マニア心がうずく思いがした。
「よっしゃ! じゃ、まず最初のクエスト行こうぜ!」
このゲームは、プレイ開始時の所持金はゼロで、装備は最初から最低限の物を持っている。
後は、町の外に出るだけだ。
四人は闇に包まれた門の外の空間へと歩いて行った。
町を出ると、今度は廃墟の町……本来のスタート地点が出現する。
復興状態の町から廃墟の町に辿り着くのは不自然な流れではあったが、アクト1のクエストを進めるためには仕方の無い仕様だった。
改めて門の外に出ると、薄暗い夜の草原が広がっている。
このゲームは、遠くは暗くなってよく見えない状態になっていて、接近すると明るくなるのが基本であり、終始陰鬱な雰囲気の中での戦いになる。
やや陰気なこの作りが、かえって「渋い」「シリアスでいい」と、マニアには受けていたりする。
「この辺りのザコはよわっちいから、気にしないでボコボコにしてこーぜ!」
大ネズミやゴブリンが散発的に現れては、蹴散らされて消えていく。
敵の落とす資金やアイテムは、各プレイヤーで奪い合いになる事はない。
例えば、今コウヤの画面に見えている「ヒビの入った杖」はユウリの画面上には存在していない。
出たアイテムは遠慮なく全て自分で拾って、いらない物は売り、優秀な物は自分で装備し、優秀だが必要の無い物……例えば、パラディンが装備しても意味の無い弓なんかは、交換機能を使ってユウリのアーチャーにプレゼントすればいい、という形になる。
最近のオンラインゲームは意外と色々交換関係に制限が掛かっている事も多いので、所持金含め、ありとあらゆる物を交換に出せるこの自由度は、コウヤにとって有り難いものだった。
面倒臭ければ、トレードに出す必要すらなく、アイテムを捨てる事で素早く味方に拾わせる事も出来た。
一度拾ったアイテムを捨てれば、そのアイテムはプレイヤー全員から見えるようになり、自由に回収が可能になるのだ。
よく大規模MMOを遊んでいるユウリにとっては、トレード機能くらいは当たり前の事ではあったのだが、ここまで自由度が高いゲームは珍しい、というのは分かっていた。
「ダメージ+6のメイス出た。コウヤいる?」
「サンキューねーちゃん!」
それぞれの得意武器に関しては、互いに融通して、効率よくキャラクターの装備を固めていく。
とにかく最初は装備が全然足りないので、ザコの落とす最低級のアイテムですらありがたく、次々装備を入れ替えてキャラクターを強化していく。
まだ難易度ノーマルの今の内はそこまで気にしなくても楽に進めるのだが、とにかく今は資金がまるで無い。どんなゴミアイテムでも拾って資金に変換しておきたい時期だった。
コウヤはその辺りのアドバイスをユウイに話しながら、素早く一直線にゴブリンの巣へと仲間を案内する。
難易度が変わる度に同じクエストをやっているのだ。もう手慣れたものだ。
「ここに入ると、ゴブリンがワラワラ出てくるから、回復の用意はしとこうな」
道中のザコが赤いポーションをよく落としていたので、ストックは十分。
数字キーで使用する事を教えてから、コウヤはゴブリンの巣がある洞窟へと突入していった。
「火炎攻撃だけ気を付けてればいーから!」
「ま、ここは楽勝よね」
経験者二人は、一人でプレイしてもここが全く脅威では無い事が分かっている。
だが、出し惜しみしても意味はない。マナはすぐに回復するのだから、手早く片付けた方が効率が良い。
四人は覚えたてのスキルをフル活用して敵を蹴散らしていく。
パラディンはゴブリンを次々仕留めながら「守りの加護」を発動。味方の防御力が引き上げられる。
レベルが3になったネクロマンサーは、敵の死体を素材にして「骸骨兵士」が召喚出来るようになる。マヤは早速スキルを習得し、これを前線に加わえていた。
ドルイドは召喚した狼と共に、「炎の精霊」を付与した棍棒で前線を支える。
そして、アーチャーは的確に「マジックアロー」をボスゴブリンに命中させ、あっという間にゴブリンの軍団は壊滅。
洞窟の奥の結界の石を取り戻す。
こうやってストーリーを進めてアイテムを集めて行き、町に人が戻って来るようになった所で、次のアクト2に進めるようになる、という流れだ。
「はい、北の結界石終わり。次行こ、次」
「ちょっと待って。スキル習得中」
「いらないアイテム、売っておこうね」
「はーい」
こうして顔を合わせてプレイしていれば、チャットも必要無い。
初心者にしては上手くチームワークを発揮して、次々とクエストをクリアしていく事が出来た。
そうやってアクト1も終盤に差し掛かった所で、時刻も遅くなったという事で、今日はお開きにする事にした。
先に宿題を終わらせて、明日からは夜八時から九時までをオンラインプレイの時間に充てよう、という事で、今後の予定も立てて置いた。
欠席が出る場合は、集まった人間だけで進めて、遅れが出た場合は遅れたメンバーのクエストを先に進めるのを手伝う、という形に落ち着いた。
「ユイちゃん、結構上手かったね。えらい」
「へへへー」
マヤがユウイを褒めている。その通りだ。
最年少で、こういうゲームには馴染んでいないだろうに、予想外に素早く基礎を覚え、遅れる事なく三人に付いてきていた。
動き回る敵を狙って攻撃するのはまだ苦手なようだったが、自動で敵を追いかけて攻撃する狼のお陰で、ちゃんと戦力として機能していた。
コウヤは、自分だけが慣れていて他の三人と上手く息が合うかどうか心配していたが、この難易度ではそんな心配も無い。
まずまずの出だしに満足し、ワクワクしながら父の帰りを待った。
ライジングサンや、オンラインモードの事、色々聞いてみたかった。
(そう言えば、オンラインモードなのに、他のプレイヤーに出会わなかったな……)
冒険に出ると、そこから先はパーティーを組んだメンバー以外出現しないのだが、最初の町=ロビーエリアには他の不特定多数のプレイヤーが存在するはずだ。
やはり、これだけ古いゲームだと過疎ってしまい、こういう寂しい世界になってしまうのだろうか。
もっと賑わっている頃にハマりたかったな、と、コウヤは少し父を羨ましく思い始めていた。
「マジか! マジかよ!!」
サムライ・レベル789、ランキング第四位のプレイヤー、MURAMASAMUNE。
彼は、眼の前に発生した大事件に、驚愕していた。
エリア総数200。ディープホール・トゥ・ヘル、通称インフェルノダンジョン。
その奥底、最終エリア、地下200階。
そこに、本来存在するはずのない物が、ズルズルとゆっくり動き回っていた。
ここから本編です!
大まかなストーリーは脳内にありますが、後は適当に流れに任せて書いていこうかと。