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07:あの頃あった事

いよいよマジホリRSを始めたコウヤは、疑問点を父に尋ねるのだが……

07:あの頃あった事


父が会社から帰ると、コウヤは憤慨しながら質問攻めにした。

危うくローカルプレイを始めて時間を無駄にする所だったじゃないか!……と。


「あ~ やっぱりもうRS始めちゃってたか。

開発に参加してたのも、もう少し秘密にしといて、父さん達が作ったんだぞーってイイ所でバラして驚かせようと思ってたのになぁ」


「いやもう十分驚いたから」


父は特にグラフィッカーという訳ではなかったが、工業機械の設計に携わっており、3Dのモデリング(コウヤにはそう見えた)に携わる事も多く、暇な時に昔のロボットアニメをポリゴンで再現してはニヤニヤしていたりもした。

その出来は、あまりカッコイイとは言えないものではあったが。


「グラもかなり古いし、あれくらいの3Dなら父ちゃんでも十分参加出来るんだな」


「ふっふっふ、騙されているな息子よ。

マジホリはポリゴンを一切使っていないのだぞ!」


「えっ! マジ!?」


マジホリ当時に、あれだけ大量の敵をポリゴンで表示するのは、マシンの性能的に不可能だった。

つまり、ポリゴンで作った敵を、2Dの静止画像にして、擬似的な3Dでモンスターを描写しているのだ。

動き一枚一枚を画像化し、アニメを作るようにキャラのモーションに合わせていく形になる。

かなりの手間暇が掛かる作業だったが、一枚一枚の画像はかなり小さいので、容量的には大した負担にはならなかった。


「ロードの、王子様っぽいアレはダサいと思ったけど、バンパイヤとかいいんじゃない?

でも、女モンスターはちょっと趣味に走りすぎじゃね?」


「はっはっは! 父さんはスケベだからな!」


「あと、あのお姫様が若い頃の母さんって、マジ? それはちょっと勘弁して欲しいんだけど」


「えっ、あっ、その…… まあ、ね。 うん……」


「なにその微妙な反応」


(その話は後でな! 母さんのいない所で!)


母に聞かれたくないような話なのか。

意外と、モチーフは父の元カノだったりするのか?

とりあえずは気を利かせて、これ以上追求しない事にする。

そして、コウヤは聞きたかったシステム上の話ではなく、当時いかにマジホリが盛り上がっていたか、とか、RS開発時の熱狂ぶりとか、脇道に逸れた話を延々聞かされる事となった。


明日から定時にオンラインで集合し、少しずつ攻略していく事になったと告げると、父は「それがマジホリの遊び方の鉄板だな」と言ってくれた。

が、それでいて素直にRSを教えなかった父のもったいぶりに腹も立つ。

ユウリの知識が無ければ、今も熱心なプレイヤーがオンラインプレイしているとも知らず、四人だけでインフェルノへの挑戦を始めていたところだ。

オンラインなら、色々な先輩プレイヤーと交流出来るはず。

あくまで「目的は自力クリア」。直接的な手助けは望んでいないが、達人プレイヤーとの出会いは楽しみにしていた。


だが……


コウヤは一番気になっていた所を尋ねてみることにした。


「あんなデカいロビーチャットエリアがあるのに、なんで誰もいなかったん?

まだまだマニアが遊び続けてるって言う割に、そんなに過疎ってるの?」


「ああ、それはな……」


曰く、マジホリは最大10の大部屋に100人ずつプレイヤーを割り振る形になっていて、その割り振りはレベルが近い者同士がマッチングするように作られている。

当初は最大1000人までしか同時プレイできない事を心配していた時期もあったが、プレイヤーの総人口が減った今となっては他のプレイヤーと出会う機会を失わせる物でしかなく、かなり前に、4部屋に設定を変更されてしまっていた。

それでも尚、プレイヤーの殆どが年季の入った玄人となった今、このゲームには既に初心者という物が存在しないも同然で、大体はガチ勢とエンジョイ勢の二部屋しか使われないようになっていて、コウヤ達のような新キャラは、誰もいない大部屋に回される結果になってしまっているのだ。


「三つ目のルームはいつも過疎ってるし、今も熱心にプレイしている人口は、200人くらいって事だな。

で、三つ目のルームにしても、殆どはレベル80は越えてるだろうし、第四ルームのコウヤ達と出会う可能性があるのは、アイテムの受け渡しの時だけ使うサブキャラくらいの物だろうな」


「あー、倉庫キャラね。

でも、RSは倉庫めちゃくちゃ拡張されてるし、倉庫キャラ必要なくない?」


昨今のゲームと比べると、マジホリのアイテム保管用スペースはかなり小さい。

そのため、後で使いたい装備は、別キャラを作って、そのキャラの倉庫に保存するという対処法もある。

面倒臭さはあるが、片付けや断捨離の出来ないコウヤは、先のベリーハードまでのプレイにおいて、早々にこの方法を使っていた。

マジホリRSでは倉庫の大きさが倍。しかも10個の倉庫を切り替えられるようになっていて、実質二十倍の量が保管できるように改造されている。

そう簡単には物が溢れる事はない。


「そうなんだけど、まあ、使えるキャラが三倍くらいいるからな。

 作るだけ作って育ててないキャラを抱えてる人も結構いるから、育成用装備の受け渡しなんかで出会う可能性はあるかもな」


「俺も色々使ってみたいんだけど、まずは慣れたパラディンからだなって」


「ああ、そうだそうだ。色々キャラを作って試すなら、オフラインでやるんだぞ」


「え?なんで? オフでやったらオンに入れなくなるでしょ?」


「うん…… コウヤ、スパムって、知ってるか?」


スパムと言えば、くだらない詐欺メールを大量に不特定多数の人間に発送し、うっかり騙されてしまう人間を釣る、フィッシング目的でのスパムメールが有名だが、ここで言うスパムは、少し違う。

大量のキャラクターを次々作っては消し、RSのサーバーに負荷を掛け、ゲームをプレイできない状態にしてしまおうと言う荒らし行為の事を言う。

当時は荒らし対策も手探りで、父のような門外漢ではお手上げ状態だったらしい。

自分の意見が通らないからと、RS開発メンバーを抜けた、キレやすいタイプの男が一人、これを執拗にくりかえし、サーバー攻撃を続けていたと言う。

結局、その男はインターネット接続業社や警察に通報され、ようやく荒らし行為は止まった。

以降、本来RSでは1ユーザー毎に32キャラまで作れるはずだったのだが、今では8キャラに設定変更されている。これも、過去の事件が原因だった。


「いるいる、そういうヤツ!

結局キレるヤツってすぐゲームやめるから、さっさとやめてくれた方がかえって嬉しいんだよな」


「ところが、本当に嫌なヤツっていうのは、やめてからも延々、悪質な嫌がらせをずーっと続けるんだ。

コウヤも、変なヤツがいたら一々相手したりしないで、極力関わらないようにするんだぞ」


「分かってるって」


「あと、どうしても見過ごせない荒らしがいたり、ずっと付きまとってくるようなのがいたら、父さんに言いなさい。

父さん、関係者だからね。運営の人に言いつけてやるからな!」


最後は半ば冗談で、笑いながらの話だったが、荒らしが許せないというのは本音でもあるのだろう。

過去の事を話している間の父の表情は、かなり苦々しいものだった。


「まあ、もう長いことほったらかしだし、父さんのキャラも消えて、忘れられてるだろうけどね」


そう言う父は、少し寂しそうでもあった。

定期自動メンテナンスで、プログラムが機械的に捨てキャラを凍結するようになっていて、さらに超長期放置する事でキャラは削除されてしまう。

これも荒らし対策の弊害と言える。


「また復帰したらいいじゃん」


「そうだな。まだRS内で育てたことのないキャラもいるしな」


父と息子は、こうして語り明かし、夜が更けていった。







「鑑定前モンスター!? 嘘だろ? あり得ないだろ!」


「いたんだよ! マジで! 超つええの!」


MOD開発者が用意した隠しボスモンスターの中には、弱点属性や持っている能力の分からない、「鑑定前」モンスターが存在する。

一度倒すまで能力や弱点は判明しないため、手探りで攻略する事になる。流行っていた時期のトップフレイヤー達は、これらのボス攻略で大いに盛り上がったものだった。

外見は真っ白な一枚板にハテナマークが書かれたもので、一度パーティーメンバーが接近しなければその本当の姿は分からない。

彼、MURAMASAMUNEの遭遇したソレは、画像サイズは最大、大型ボスタイプであると見て取れた。

そのため、彼はまずは牽制として、「武器投げ」を使って、短刀を発射した。

だが、ダメージは0。全く効果が無い。

レア度「エピック」の武器なら5回は投げられるはずなのだが、命中後に地面に落ちるはずの短刀がその場で消滅。このまま一人で戦うのはあまりに危険だと判断した彼は、ボスを放置して撤退する事にしたのだった。

流石に、地下200階で死んでしまっては、装備の回収も難しい。味方がいればワープポータルを開いてもらって復帰する事も可能だが、ソロプレイでの復帰地点は151階であり、200階で単独死するのはかなりのリスクを伴う。


「スクショは撮った。俺のブログ見てくれよ」


「・・・・・・

マジで、まだ誰も知らないボスがいたのか……」


「能力不明に斬りかかる訳にもいかないだろ?

ちょっとガチ勢8人集めようかなって」


「いいねぇ、いいじゃないか! やるやる、やるよ、俺も!」



マジホリ界最後の「祭」が、今、始まろうとしていた……!





「鑑定前モンスター」は本作独自設定です。

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