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21:最初の犠牲者

「虚無」調査隊は、リスクを織り込んだ上で油断せず探索を続けていたのだが……

21:最初の犠牲者


山田マンが近接武器に持ち替えて階を降りたのを見て、残る四人もリスクを背負う覚悟を決めた。

探索隊の五人は、一階降りる毎に、交代で偵察を出す事にした。

万が一、階段を降りた瞬間に五人同時に「虚無」にやられてしまったら、装備の回収は絶望的だったからだ。

万全を期し、一名が階下に降り、安全ならすぐにパーティーチャットで報告し、それから残る四人も降りる、という手順を踏む事になった。


インフェルノダンジョンの攻略はスムーズに進行。

193階のボスを倒し、194階へと降りる、その時。


『それじゃ、行きますね』


今回は、防御力最強の重装兵(ファランクス)でガチガチに防御を固め、マジホリRSの全プレイヤーの中でも一番「硬い」と思われるカベの番だった。

緊張感を維持したまま、粛々とやるべき事をやってきた五人は、これがベストの方策だと信じていた。

まだ、この時は。


カベが階下に降り、数秒が経った。


チャットは返ってこない。


それからまた、十秒以上が過ぎた。


まだ、反応は無い。


さらに時間が経過し、ここで山田マンが異変に気付く。


『パーティーアイコン!!』


パーティーを組んだ仲間キャラクターのアイコンは、画面の上に並ぶようになっているのだが、気付いた時には、カベのアイコンが無くなっていた。


『どうなってやがる!?』


万が一が起きたのなら、この眼の前の194階行きの階段の前で虚無がやってくるのを待てばいい。

虚無がゆっくりと歩を進め、人が通れる分のスペースが出来た後、その背後に瞬間移動でもすれば、死体の回収に向かう事は可能だ。

だが、仲間が死体の場所に辿りついてから、ポータルを開いたとしても、カベがパーティーメンバーにいなければ、ここに呼ぶ事は出来ない。


『落ち着けよ まず階段から距離を取れ』


ムラマサ達が考えあぐねて狼狽えている中、ブッチーが警告する。

階段のすぐ下に虚無がいたのだとすると、もう、今この瞬間にもここに姿を現し兼ねないのだ。


よりにもよって一番性格の悪いブッチーに諭されるとは、とムラマサは内心舌打ちし、素早く後退。

四人はその瞬間を待った。


そして、?マークの白い四角は、その直後に姿を現した。





コウヤ達は魔界の荒野で敵軍に捕まった天使を解放しながら、MAPをどんどん進み、魔王城に突入。快進撃である。

が、ここでコウヤの行動が鈍る。

近接殺しと名高い「物理攻撃反射」能力を持ったザコ敵、「暗黒騎士」にビクビクしながら前進していたからだ。

その動きを見て、ユウイが告げる。


『RSには即死級の反射無いから、大丈夫だよ』


兄に倣い、妹もみっちりと予習復習を欠かしていない。

既に、知識だけなら、MOD無しでしかプレイしていないコウヤを追い抜いているのかもしれない。


RSでは、本家であまりに悪名高い、「モンスターに与えたダメージがそのまま全て戻ってくる」反射システムは撤廃されていた。

この辺りのモンスターの体力が1500前後あるのに対し、プレイヤーの体力は前衛キャラでも600程度。

そのモンスターを瞬殺する火力を持っているのが当たり前のゲームでは、反射持ちに手を出したが最後、一瞬で死んでしまう。

基本、あらゆる部分で難易度を上げているRSではあるが、こういった誰もが不快感しか感じないような理不尽な部分は修正している。


『あれひっでーもんなー 流石神MOD』


コウヤはホッと胸を撫で下ろし、メイスで暗黒騎士に殴り掛かる。


『げっ!!』


即死はしなかったが、パラディンは近接スキル『高速打撃』で秒間5~6発の武器攻撃を繰り出すため、反射ダメージの被害を受けやすい。

初見殺しにならないように調整されているとは言え、ゴッソリと体力を減らされてしまう。


『RSでも係数が違うだけで、反射はあります 油断しない方が』


『先に言えって!』


コウヤは前衛を召喚NPCに任せ、暗黒騎士以外の敵を殴りに向かう。


多少ビクビクしながらの進撃ではあったが、間もなく城内を制圧。ポータルの確保に成功する。

後は中ボスの魔王軍四天王を倒し、魔王との決戦に挑むだけ。明日の準備はバッチリだ。


『時間余った どうする?』


マヤが尋ねる。まだ夜のマジホリ回が終わるまで30分程余裕がある。

言葉は足りないが、どこか他所を回ったらどうかという提案だった。


『アクト3のサブクエやろ? ダメージ10UPのやつ』


これに応えたのは、ユウイだった。


ストーリークリアを優先してきたので、脇道に逸れるクエストは飛ばしてきた。

報酬として「永遠にプレイヤーが敵に与えるダメージが+10される」薬が貰えるサブクエストも、そうやって飛ばしてきたもののうち一つだ。

微々たる効果しかないとは言え、永続的に火力が底上げされるのは魅力的だ。

このクエストを飛ばした理由は、クエストで討伐を要請されるモンスターが「宝部屋」にいる相手だったからだ。

アクト1で寄り道をして痛い目を見たように、アクト3到達時点ではかなり厄介な敵ではある。

が、今ここまで来た時点の戦力なら、あまり苦労せずに倒せるはずだ。


知識で武装してきたユウリとユウイは、今行くべき場所はそこだと、すぐさま思い当たったのだ。


『よっしゃ、行こうぜ!』


四人はポータルを開き、アクト3へと戻る。

エルフの森の古代遺跡の奥深く、広大な地下迷路の片隅にある、『冥府の酒場』で悪魔サリガを倒し、『不滅の血』を持って帰り、エルフの薬師にダメージ+20のポーションを作ってもらうという流れになる。

場所は地下MAPの四隅のどこかにランダム生成されるのだが、前回アクト3を探索した際にユウリはしっかりとこれをチェックしていて、四隅のうち二箇所がハズレである事は分かっていた。

素早く残り二箇所を確認し、酒場の位置を特定。四人は悪魔サリガを討ち取り、ポーション作成クエストを終わらせた。


本日のマジホリ回を終え、明日の準備を整えたコウヤは、カナリにメールを送り、明日の予定を伝える。

放課後、四時~五時頃にコウヤ宅に集合しよう、という呼びかけだったのだが、コウヤは肝心な所を理解していなかった。

カナリが家の場所を知らないという事に、思い至ってなかったのだ。


コウヤはやるべき事を終えた満足感と共にさっさと寝てしまっていたため、カナリから混乱気味のメールが返信されている事にも気付かなかった。





193階に姿を現した「虚無」。

調査隊の残り四名は、遠巻きに虚無を囲みながら、効かない飛び道具を撃ち続けていた。

背後にドライアドを配置して敵ザコを警戒させながら、虚無が視界ギリギリに入る距離を保ち、ジワジワと引き撃ちを続ける。

攻撃が無駄なのは分かっている。

虚無の前進を待ち、背後の階段へと瞬間転移で飛び込むスペースが出来るのを手持ち無沙汰に待っているだけだ。

消えたカベがどうなったのかも気になるが、今手を放す余裕は無い。カベから連絡が来るのを待てばいい。死体のロストまで時間の余裕はまだあるのだから、いずれカベはロビーからパーティー参加申請を送ってくるはずだ。

だから、今は虚無をどうにかする事は諦め、やり過ごして194階に降りる事を優先する。


『そろそろいいだろ ムラマサ、頼んだ』


山田マンは階段に飛び込む役を自分で引き受けようとしたが、ブッチーとキツネがこれに反対した。


体力の消耗と引き換えに、どんなキャラでも瞬間転移のスキルを使用できるようになるアイテム、「ジグラットの聖印」を持参しておくのは、最下層に挑むプレイヤーにとっては常識とも言える備えだった。包囲を受けた状態から自力で退避する手段を持たないキャラはみんな持っている。

ここは残る四人の中で最も硬いサムライが行くべきだ、と、ムラマサは納得して危険な役目を引き受けた。

虚無がいてもいなくても、ここは最難関エリアなのだ。二重遭難の恐れもある。

だが、カベはムラマサにとって一番の相棒。そのくらいのリスクを背負わなければ、犠牲になったあいつに顔向け出来ない。

既に、四人の身代わりとなる貧乏くじで、死亡ペナルティ(経験値と所持金の激減)を食らっている。この上、彼の究極とも言える鉄壁の装備の数々をロストさせることだけは何としても回避したかった。


『行くぞ! 降りたらすぐポータル開いて合図出すからな!』


『k』


『おけ』


『はよいけ』


そして、ムラマサはジグラットを装備。虚無に向かって距離を詰めていく。

ある程度接近しなければ、虚無の背後の空間をクリックする事が出来ない。

緊張の瞬間だった。


死の白い壁に向かって突き進み、その背後の画面端に着地点を十分確保できた瞬間、ムラマサは右クリックにセットした転移を発動する。


(よし!!)


やはり、触れなければ大丈夫だ。

何事も無く、下への階段のあるボス部屋の中に戻る事が出来た。


が、しかし。




「嘘、だろ……」


ムラマサは言葉を失い、画面を凝視する。


それは、あまりにも想定外の事態だった……




はい、最初の犠牲者はカベさんでした。

果たして仲間たちは彼の装備を回収できるのか!?

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