12:アクト2、異空間の聖人
コウヤ達は手に入れたクラフトアイテムを使い、アクト2終盤へと突入する。
12:アクト2、異空間の聖人
<我が名はラーテ。聖なる力により、封印を守護する者……>
クラフトした「邪神の祭剣」によって、古代遺跡の祭壇に空間の裂け目を作ると、霧のようなオーラの漂う空間に出る。
そこには大量の書庫が立ち並んでいて、眼鏡を掛け、白いローブに身を包んだ長い銀髪の長身の男が椅子から立ち上がり、話しかけてくる。
男の名は聖者ラーテ。彼は、過去数々の魔王や邪神と戦い、破れ、地上から姿を消した善神の下僕である。
ストーリーを牽引するキーマンではあるが、現時点では謎の男でしかない。
『かっこいいじゃん……』
ユウイすらも認める、本作唯一とも言っていい正統派イケメンキャラである。
このイケメンはストーリーのメインクエストの案内人のようなもので、次々無茶ぶりをしてくるキャラなのだが、旅の冒険者に世界の命運を託す他人任せっぷりから、その印象はあまりよろしくない。
ここでも、魔王軍が解放した第二の邪神を倒して欲しいと依頼してくる。
邪神を倒した後に出現するコアストーンをこの空間に転送してくれれば、彼がその封印を請け負うと言う。
このゲームに登場する邪神や魔王は、体内にコアストーンと呼ばれる石を持っていて、それを砕かない限りいつか復活する。
だが、このコアストーンを破壊すると邪悪な魔力の爆発で広範囲が呪われた不浄の地となり、プレイヤー自身も呪いで死ぬ……という設定になっている。
先程ルクラフトして手に入れた魔剣は、その石を地上に戻って来れないように異空間に飛ばすために使う、物語のキーアイテムでもあるのだ。
武器としては大した性能ではなく、コウヤも装備せず、持ち運んでいるだけだった。
が、度々ストーリーの展開上使用する機会があるため、手荷物枠を圧迫してでも、パーティーの誰かが必ず携行している必要がある。
聖人ラーテからクエストを受け、異空間から古代遺跡へと戻ると、ボスの待つ地下へと下っていく。
古代遺跡の最下層では、壁の一角が崩れていて、大きな坑道のような洞窟がポッカリと開いている。
この先が、ボス部屋だ。
『俺が正面で耐えるから、殴られない距離で攻撃して』
突進攻撃を喰わなければ怖い相手ではない。
軽い説明だけで、コウヤ達四人はボス戦へと突入する。
アクト2ボス、悲しみの神・ドゥゲム。
説明書を見る限り、恐ろしげな悪鬼、といった姿なのだが、ここでは宿るべき適切な肉体が無く、地底の巨大昆虫と合体した醜い姿をしている。
前回戦ったウジ虫女王にも少し似ている。
(これもある意味女体化……?)
マヤはどうでもいい事に気付いてしまい、一人でウケていたが、ネットの向こうの三人には分からない。
コウヤが足止めし、数を増やしたマヤの骸骨軍団とユウイの狼達がドゥゲムを袋叩きにし、マヤとユウイの本体は中距離攻撃、ユウリは遠距離攻撃、と、瞬く間にボスを袋叩きにしてしまう。
やはり難易度ノーマルのボスは大した強さでもなく、あっさりと撃破。
力尽きて倒れたドゥゲムの体内から、アクト1ボスと似たような丸い石が転がり出てくる。
魔剣を装備してから石をクリックすると、異空間への裂け目が出来て、石はその中へと消えていく。
裂け目の向こうから聖者ラーテの感謝の声が聞こえてくると、町へのポータルを開いてくれる。
自分は座って待っているだけなのだから、せめて送迎くらいはしてやろうという彼の心遣いなのだろうが、ボイス演出を待たずに自力で帰還ポータルを開いた方が速いのが玉に傷だった。
『やっぱり弱い』
『この難易度は大体こんな感じだぜ』
『僕のアーチャーもノーマルじゃオーバーキル気味ですね』
『ヌルいのは今だけよ』
四人は今回も拍子抜けのボスバトルを終え、戦利品を回収して砂漠の町へと帰還。
砂漠の街に、魔王軍に襲われたと知らせるエルフ族の使いが駆けつけ、プレイヤー達はエルフの里のあるジャングルを目指す事となり、戦利品を整理した後、今度はアクト3、アーチャー=エルフの故郷クレサントへと旅立つ。
ここで合間に挿入されるデモムービーは……
アクト1の神殿で邪神を復活させた謎のローブの人物が、「目覚めさせたのは間違いだったか」と言いながら、エルフ達の目を忍んでジャングルの古代遺跡へと侵入しようとしている。
と、どこからともなく響く魔王の声により帰還を命じられ、彼はワープポータルを開いて消える。
ウネウネした触手の塊のような不気味な魔王が現れ、「敵が迫っている。迎撃の準備をしろ」と命じ、ローブの男は一礼して去っていく。
……と言ったような内容になっている。
ローブの男がポータルを開く際、プレイヤー同様、「邪神の祭剣」を手にしている事が分かるのだが、何の説明もなく、この時点では言われないと分からない程度の演出になっている。
トカゲを蹴散らし、虫を潰して手に入れた魔剣だが、あっさり手に入る割に、ストーリー上重要なアイテムなのだ。
『それじゃ、また明日な~!』
夜も遅くなっていたので、本日の定時プレイはここでお開きとなる。
二回に分けてじっくりプレイできたので、アクト2が一日で終わった。なかなかいいペースだ。
コウヤは満足の笑顔と共に、明日の打ち合わせのメールを書き始める。
明日は休日の土曜。たっぷり時間を取って一気にアクト3も終わらせ、4の途中くらいまでは行けそうだ。
「・・・・・・」
ユウイは、不機嫌だった。
ゲームは確かに難しくはないのだが、冒険の仕方を先に知っている兄達から説明を受けて、行き先の分かっている目的地へとそそくさと走っていき、弱すぎるボスを倒して回るだけ……
ユウイの嫌う、「子供扱いされてる感」が、段々と強くなっていた。
ストーリーはあって無いようなもので、イケメンも仲間になってはくれない。
あまりにサクサク進むためメリハリが無く、盛り上がりどころが無い。
敵がキモい。きちゃない。
(このゲーム、つまんないかも……)
敵をバッタバッタとなぎ倒し、上手くキャラクターを操れている自信はあったが、どにうもこの手応えのなさでは、皆に褒められても実感が伴わない。
兄達が言うには、この先難しくなってからが本番との事だが、このまま淡々と続けていていいものだろうかと、不安になり始めていた。
だが、しかし、ユウイの目的は他の三人とは違う。
(いやいやいや! ここは頑張らないと!!)
こんな事で弱音を吐いてどうする。
私は、コウヤさんと仲良くなるためにゲームをしているんじゃないか!
何せ、あれだけかっこよくて優しいんだから、彼の年上のクラスメートも放っておくはずがない。
自分とコウヤとの接点はマジホリくらいしかない。
だから、彼がドハマリしているマジホリには、自分も本気になってついて行かなければ!……と、ユウイは再び闘志を燃やし始める。
ピンポロリン♪ と、メールの着信音が鳴る。
明日もコウヤの家に集まってマジホリ会。そのお誘いだ。
フフフ、どうだ、見たか。私は素敵な先輩からメールが来て、自宅に誘われているんだぞ。
ボスを倒したらハイタッチでもしてやろうか。いやいや、わざとやられて慰めてもらうのも手だぞ。
いや、この難易度で敵に倒されるのは不自然だ。自然に倒される難易度になってからが狙い目か。
それより、どうすれば抱きついてもOKなシチュエーションになるだろうか。
ムフフ、と、ユウイは妖しい笑顔になる。
不純な動機であれ、ユウイもまた、本気でマジホリをプレイする仲間である。
動機があるからこそ、熟達も速い。
秀才の兄と同じ遺伝子を持つ、優秀な8才女子なのだ。
あえて四人の反応を省き、淡々・ダラダラとマジホリのストーリー進行を書き、ユウイの退屈さが表現出来ればいいなと思った。