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11:恐怖の洞窟

アクト2に突入したコウヤ達は、地下洞窟の探索を始める。

11:恐怖の洞窟


「よっしゃ!キューブゲット!!」


コウヤは一人自室で快哉の叫びを上げた。

アクト2は蜥蜴人間(リザードマン)の神殿を回っての探索がメインとなるのだが、その道中の一つに、マジホリでも最重要アイテムと言える、ミスティカルキューブが手に入る。

いわゆる、アイテム合成をするためのクラフトシステムだ。このキューブに複数のアイテムを収納し、別のアイテムへと作り変える事が出来る。

後は他の神殿を探索し、部品を集めて「邪神の祭剣」をクラフトすれば、アクト2のラストダンジョンへの門を開き、ボスの所まで辿り着けるようになるのだ。


今回のクエストは、そのパーツの一つが隠されている地下神殿の所在地が、実は拠点エリアであるガラインの町の真下という事が分かり、地下水道を通って中ボスを倒しに行く……という展開になる。


『きちゃない ひどい』


ここまで、可愛さや綺麗さとは無縁のこのゲームの世界にもよくよく耐えてきたユウイだったが、ネズミや昆虫がコソコソカサカサと走り回る地下水道……と書いてあるものの、実際は下水道であろう……の臭いまで漂ってきそうな緻密なグラフィックに、たまらず苦情を書き込み始める。


『すまん、ここから先、もっとヒドイぞ』


『我慢できなかったら、ここだけ飛ばしてもいいよ』


この先の地獄に配慮し、コウヤとマヤがユウイに声を掛ける。

地下水道を抜けた先のエリア名は、「蟲の巣窟」だ。

そして、当然……


『無理 帰る』


ユウイは撤収。

他のエリアで一人で経験値稼ぎを行う事にした。


『流石にこれは 仕方ない』


ユウリも納得する。

キャラクター二人が辛うじて並んで歩ける程度の、極めて細いアリの巣のような洞窟に、ムカデのような足の多い昆虫がワラワラウネウネと、床を敷き詰めるような数で襲いかかってくる。

毒対策さえしていればどの難易度でも怖いMAPではないのだが、いかんせん、視覚的攻撃力が高すぎた。


「ボスもこれだしなぁ……」


コウヤもボヤく。

蟲軍団の女王、超巨大なウジ虫のようなボスが、身体のあちこちから毒液を飛ばして攻撃してくる。

ここだけは毒ダメージが致命的になるので、町で買っておいた防毒ポーションを飲んでから戦闘を開始する。

三人で戦っても、やはりノーマル難易度のボスは大した事のない相手であり、あっさりと撃破出来てしまう。

黄緑色に濁った体液を断末魔と共に噴水のように吹き出しながら、ボスはバタリと絶命し、体内に飲み込んでいた宝石をドロップする。

ここで手に入れた「邪神の祭石」を、祭刃、祭柄、の二つと合成する事で、「邪神の祭剣」が完成する。

そして、コウヤ、マヤ、ユウリの三人は、ユウイのキャラクターアイコンをクリックして、ユウイを対象にしたポータルを開き、ワープして合流する。


『あれは見ない方がいい』


『次の難易度でも飛ばそう』


ボス一体分経験値の差が付いてしまう心配はあったのだが、細長いダンジョンで進行に時間が掛かった分、ユウイもじっくりザコ狩りをする事ができ、レベル差は発生していなかった。


『まあ、基本、女の子がするゲームじゃないよね』


マヤもしみじみと語る。

産まれる家が違っていたら、きっとマヤだってこんなゲームには手を出していなかったはずだ。

線の細いイケメンや可愛い美少年と一緒に明るい世界を冒険した方が楽しいに違いない。

どうしてこうなった、と、少々陰鬱な気持ちにもなるのだが、この王道を外れた路線を少々自虐的に楽しむ事こそが、マヤの最大の喜びであった。

こんなゲーム遊んでいるJCはいねーだろ、という誇りを胸に、マヤは戦っているのだ。




「ふぅん…… 意外と簡単ね」


運良く、いや、運悪く、と言うべきか。近所のリサイクルショップで、彼女は手に入れてしまっていた。


「日本語版は価格高騰しているようだし、いい買い物が出来たわ」


マジカルホーリーストレングスの初期バージョン、しかも英語版であった。

幼くして語学堪能な彼女にとってみれば、このようなシンプルな英語文章はさして苦でもなく、スムーズにゲームを進める事が出来た。


「古い割に絵も綺麗だし…… 古典ファンタジー、悪くないわ」


「綺麗……? うーん……」


クラスで流行っているから、と言って気持ち悪いパッケージのパソコンゲームを買ってきた娘を心配する母親だったが、英語をスラスラ読んでテキパキゲームを進め、満足そうにしている娘を見て、幾分安心してしまっていた。

これが酷い沼の深みに足を踏み入れる第一歩だとも知らずに。


「英語の勉強になりそうだからいいけど、それでもゲームは程々にしておくのよ、カナリ」


「はい、ママ」


そう答えたものの、カナリの頭には母の言葉は届いていない。

この、下衆で汚らしい憐れな醜い化物どもをプチプチとすり潰すように殲滅していく感覚…… カナリの本性は、この快感にすっかり酔いしれてしまっていた。


「うわっ……」


蟲の巣窟のボスがドバドバと体液をブチ撒け、強烈な初見殺しの毒ダメージを浴びせ始めた時も、素早く防毒ポーションを飲んで的確に対処する。

理解の速い秀才の感覚で、この場合こういう事もあろうという予測を立て、予め幾つか防毒ポーションを買い込んでいた。


「なにこれ、酷い」


ボス部屋の床を埋め尽くすように、ドロドロの体液が飛び散り、凄惨な光景となる中、言葉とは裏腹に、カナリは恍惚の表情を浮かべていた。

この「品の悪さ」が、彼女の裏の顔にピタリとハマッてしまっていた。

が、しかし、その愛らしい顔を醜く歪めるような邪悪な笑顔も、毒々しいグロテスクなゲーム内容も、母親の視界には入っていなかった。


CANARIA レベル22 戦士(ウォリアー)

彼女は初日でコウヤ達に追いついてしまっていたが、彼女はまだ知らない。このゲームプレイに恐るべき罠が潜んでいる事を。





『そろそろ階ボスだ 油断すんなよ』


『OK』


MURAMASAMUNE率いる、新ボス討伐隊は、細心の注意を払ってインフェルノダンジョンを進行していた。

このダンジョンの仕様は特別で、全部で4層に分かれているのだが、一度ポータルを確保するとダンジョン内の以前のポータルは使用できなくなる仕組みで、他の層で戦っているプレイヤーとは共闘できない。

熟練者に引率してもらう事すら難しい作りになっているのだ。

特に、最深部であるこの第四層、151階から200階のエリアには、四体のボスと八人で同時に戦うという激戦に勝利したプレイヤーしかたどり着けない仕組みになっていて、ソロプレイヤーはここで挫折を味わう事になる場合も多い。

つまり、この探索に参加出来るのは、最低でも500レベル以上の歴戦のキャラクターのみであり、マジホリの現状を考えれば、八人集めるだけでも大変な苦労があった。


サムライ、ニンジャ、ファランクス、ウォリアー、パラディン、ドールマスター、アーチャー、ソーサラー、と、即席チームにしてはバランスも取れていて、全員がレベル600越えの強力なパーティーとなった。

現在のRS界において、活発にプレイしているアクティブメンバーの中では最強の布陣と言ってもいい。

互いに馴染みのあるメンツばかりだが、決して仲は良くない。いや、むしろ仲はかなり悪い。

だが皆、このRS最大最後の大発見、真の隠しラスボスを倒し、伝説になろうと集まった者達だった。

胸を高鳴らせ、興奮で鼻息を荒くしながらも、ジリジリと索敵行動を怠らずにじっくりゆっくりと198階を進行していた。

いくら最強の布陣と言っても、ここまで来るといくらでも即死の恐れがある。

ニンジャとドールマスターが召喚スキルを使い、通路の先に敵がいるかどうかを確認しながらゆっくりと進む。

先を急いで前に出れば出るほど、一度に多くの敵が出現し、危険性が増す。

召喚した式神と鉄ゴーレムをMAPの先まで歩かせ、一体一体、敵がこちらに向かってくるギリギリの距離から誘導を行い、各個撃破するのが戦い方の基本だった。


幸い、この198階は「蟲の巣窟」のMAPデータを再利用したエリアで、細長い洞窟の一本道地形が多い。

パラディンとファランクスが最前列で耐えてくれるので、余程の事が無い限りは安心だ。

安心の、はずなのだが……


『おかしい、ゴーレムが消えた』


ドールマスターの召喚したゴーレムがいつの間にか消えていた。

モンスターの姿は見えず、こちらに向かってくる敵もいない。

このダンジョンではMAP機能も制限され、敵の位置を赤く目立つ点で示すレーダー機能は封印された状態で戦う事になる。

召喚NPCによる牽制索敵は、常にプレイヤーの視界外で行われるため、敵の誘き出しに成功するまでは、その動きは戦闘の音とアイコン(召喚NPCの体力が減る=戦っている)で判断するしかない。

ゴーレムが戦闘を開始したのであれば、ガキンガキンと金属音が聞こえてくるはずなのだが、まさか射程外から一撃でやられたとでも言うのか。

この階のボスと戦ってもかなりの長時間耐えられる硬さのはずだが……


『式神もやられてる! 残機が!』


ドールマスターが慌てて地面にアイテムを捨て、それを触媒に新たなゴーレムを召喚していたその時、ニンジャのプレイヤーも異変に気付き、仲間に警告を発した。

彼女の画面上では、召喚した式神の数が召喚アイコンの上に数字で表示されているのだが、20体いた式神が既に8体まで減っている。

視界の外で、音もなく召喚NPCがやられているのか。


『まさか、もう、ここで?』


謎の鑑定前ボスモンスターは、階を越えて移動するのか!?

八人のプレイヤーは、視界外の暗闇に潜む脅威を前にし、緊張と興奮にギラついた目でモニターを凝視していた。





10回目を書いた後、自分用に登場人物リストを作りました。

色々新しく面白そうな展開も思いついたのですが、いつ「そのシーン」を書けることやら……

あと、廃人8人部隊のうち、設定を考えているのは今の所四人だけです。

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