表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/104

100:残り、一日

今度こそ、本当の最終決戦。

その前夜、最後の作戦会議が始まった。

100:残り、一日




皆、全力を尽くした。


1ダメージでも高い数字を出すため、徹底的なトレハンが行われ、奇跡のような数値を持った装備が、一つ、また一つとロビーに集められた。


一日中周回BOTを走らせた者達は、次々と+10ポーションをロビーに積み上げ、また周回に戻って行った。


さして興味を持たない者、ゲームをインストールしない者達も、情報の拡散という面で貢献してくれた。

ニュースサイトでは連日事件の動静が記事になり、PCゲーマー界隈ではちょっとしたブームといっていい状態。


しばらくPCゲームから離れていた中年世代も、こぞってマジホリとRSMODをインストールし、古臭い、もしくは、懐かしいゲームを楽しんだ後、+10ポーションをロビーに置いていった。


ロビーが頻繁に動画配信者に中継されていた事もあり、悪意をもってアイテムをかっさらうような悪人も現れず、全プレイヤーが総力を結集し、最終決戦の支援体制は、効率よく、万全な物となっていった。



最後の二日間、コウヤは24時間体制でPCを起動し続け、学校に行っている間はBOTで自動稼ぎを行い、宝部屋で経験値を稼ぎ、帰宅してからは延々とインフェルノダンジョンに潜って、現時点で望み得る最高の効率で経験値を稼ぎ続けた。


「あいつ」に、同情の念は強く感じてはいても、好印象は持っていない。

コウヤにとって、未だに彼はイヤなヤツのままだ。

それでも今は…… クラガのやり方を見習うべき時だ。


残された時間、コウヤはパラディンの育成に全てを賭けた。



全プレイヤーの支援を受け、コウヤ達、虚無討伐隊候補の8人……

いや、エンチャンターを除く7人は延々とダンジョンに挑み続けた。


その周回プレイは虚無が一層02階に出現するまで続き……

結果、コウヤはレベル197に到達していた。




そして、決戦前夜……


虚無が02階を進行する中、ロビーにはトップランカー達が集まり、集まった虚無討伐隊候補の面々の戦力確認を行った。


『ポーションは、KOUYA_DXに託す。異論は無いな?』


司会進行を行っているのは、ムラマサが新たに作ったソーサラー、「WURAMASA」だ。


本気でレベル上げを行っていた面々の多くは二層以降の階層にしか出撃できず、また、直前までサムライの育成に人気が集中していた事から、彼らの平均レベルはあまり高くない。

経験値稼ぎでは最高の時間効率を誇るインフェルノダンジョンとは言え、虚無の進行によって進める階層がどんどん狭くなっていた。

可能な限りの集中プレイを行ったとは言え、かつてのクラガのような強烈な育成速度を叩き出す事は不可能だった。


そんな中、最終的に、ずっと一体のパラディンを使い続けてきたコウヤが選ばれる、という形になった。

197というレベルは、集まったパラディンの中で、最も高い数値だ。


『じゃあ、獣の精霊を担当するドルイドは、YUIYUIさんに決定だ。

よろしくお願いします!』


『それじゃ、計算に入るわねー』


7人の選定が無事終了し、キツネの新キャラ、アサシンの「FOX-HUNT」が全員の装備、スキルを入念に確認し、画面写真を撮っていく。

ダメージが100万に到達するのかどうか、事前にシミュレートしておくためだ。


ここで100万にとても届きそうもない場合、より優秀な人材と交代できれば交代する、というのが予定の行動ではあるが、結局ここにいる面々以上の人材は他にいないだろう。

十分な準備期間も無く、8人は、互いに誰がどういう人間なのかも知らないまま、即席でチームを組む事となるが、もうこうなったら、仲間を信じてベストを尽くす他無い。

それぞれの覚悟は強く、間に合わせの面々と言えど戦意は高い。


作戦の鍵となるエンチャンター。

彼はギリギリまでBOT放置を続けると言う事で、合流も決戦直前と言う事らしい。


獣の精霊による物理ダメージ底上げ担当のドルイドは、ユウイが選ばれた。


雄叫びを担当するウォリアーは、サムライを使った決戦計画の時と同じ、ハンドルネーム「大巨人」だ。


この三名に、五人のパラディンが加わる。

それぞれが、物理強化、炎強化、氷強化、雷強化、三属性同時強化、の五種の「加護」を発動する。

この中には、三層で虚無に倒されてから再び育成を始めて間に合わせて来た剛の者や、長年少しずつマイペースにプレイを続けてきた熟練プレイヤーも含まれていた。


そんな「先輩」達を追い抜く形で、コウヤが選ばれた。

その事に、疑問を持っている者もいないでもない。

急速なレベリングでのし上がってきた小学生。

また、あの時のクラガの二の舞になるのではないか、と書き込む者もいた。

だが、そんな事を言っているのは、所詮「部外者」だ。


足繁くマジホリのロビーに通っていたプレイヤー達は、皆、知っている。

小学生らしい無邪気さで、ロビーチャットで雑談する彼らの声を、ずっと聞いてきたのだ。


お調子者の、クラスのムードメーカー。


新人を助け、先人に学ぶ、屈託のない明るい性格。


真っ先に走り出し、泣いている友達を助けに行く正義感。


仲間と一緒に攻略を楽しむ事だけを考えていた純粋さ。


マジホリに、若い息吹をもたらした功労者。


ひたすらパラディンと向き合い続けてきたストイックさ。



……あいつなら、任せてもいい。



ロビーに通い続ける者ほど、彼の噂を耳にしていた。



『始めた者が終わらせるなら、相応しいんじゃないか?』


と、山田マンも自身を省みて、発言していた。

大した事をした訳でもなく、たまたまそれらしいポジションに偶然居合わせただけの、普通の小学生。

それでも……

彼がここまで生き延び、今ここに辿り着いている事は、たとえそれが偶然だったとしても、心躍る、素敵な偶然ではないか。


冒険の終わり、ラスボスを倒す者として、相応しい。


少なくとも、トップランカーを含む、数多くの現役プレイヤー達は、そう考えていた。




そして、キツネ達による計算が、完了する。


『現在集まっているポーションを全て投じた場合の予想ダメージは……

824227 です!』


100万まで、あと175780ダメージ。

ポーションの数が、約5170個、足りない。


『あと24時間無い状態で、5200個ほど……

相当にキツいですね』


『だが…… もう、行くしかねぇだろ、これは』


マジメイジがぼやき、ブッチーが答える。


彼らにもう、迷いは無い。


『作戦開始だ! ポーションの投入を開始するぞ!』


ムラマサが合図を出し、集められた約31000個の+10ポーションが、次々とトレード機能を使ってコウヤに手渡されて行く。


『飲みます!!』


コウヤはカーソルをポーションの上に合わせ、右クリック連打のマクロを走らせる。



全てのプレイヤーの願いを結集させた、最後の切り札が……

今、コウヤの聖騎士の身体に注ぎ込まれていく。







ムラマサの「M」をひっくり返して「W」……ウラマサ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ