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99/104

99:最終作戦

必死のセーブデータ復旧が進む中、トップランカー達の決断は……

99:最終作戦



『え? 私? いいの?』


『来られる中じゃ、あなたが一番レベル高いのよ。お願い出来るかしら?』


『もちろん!』


キツネは、マジメイジ達と協力して作ったプレイヤーリストの中から候補を選出し、まず、ユウイのドルイドに声を掛けた。

召喚を得意とし、「獣の精霊」にポイントを集中している彼女は、十分に候補足り得た。






『元々そのつもりだったでしょ? 行けるわよね?』


『当たり前だぜ! 使いたくないBOTまで使って、レベル上げ続けてたんだからな!』


『OK、行きましょ!』


キツネは驚いた。彼が自分のポリシーをかなぐり捨てるタイプだとは思っていなかったからだ。

コウヤのレベルは171。「剛力の加護」のスキルランクも一層の装備で到達し得る上限。

装備も実に充実している。一層内の戦力としては十分だ。






「って事で、やっぱりアンタの出番ってワケ」


「今更、俺がどの面下げて……って言っても、俺に拒否権は無ぇんだよな」


「そういう事。大人しくおばさんに従ってもらうわよ?」


「チッ…… ま、礼はしねぇとな……」


キツネは、あえてチャットでもメールでも電話でもなく、直接出向いた。

彼を動かすにはこうするのが一番だと、この半月程で十分理解していた。


最初は、全てをダメにしてしまったクソ野郎がどんな人間なのかと、怒りをもって調べていただけだった。

ロビーチャットのログを読み、コウヤ達小学生グループの一員である事は以前から知っていた。

Quitterのアカウントもすぐに見つかり、住所まで割り出すのはさして難しい事では無かった。


そして、彼の日々のつぶやきを眺めるうち、母親にすら見放された少年の悲惨な生活を知った。


この、偏屈で我儘で孤独で寂しがり屋の少年には、直接会って、叱って、頭にゲンコツでも落として、良い事と悪い事の区別をちゃんと教えてやる大人が必要だったのだ。

だから、キツネは、もう一度子育てをするつもりで、度々彼の面倒を見に来ていた。


「今度こそ、あんたもヒーローになるのよ」


「つっても脇役じゃねえか…… あーあ、こんなはずじゃなぁ」


「贅沢言わない!」


「へいへい……」


文句を言いながら、キツネに背を向けたままマジホリを続ける。

そんなクラガの顔は、笑顔だった。






作戦変更は、偶然、予期せぬ形で優秀なエンチャンターが復活した事から始まった。


一層で望み得る最高ランクでスキルを整え、自身と仲間に最上の装備を受け渡す役目で作られた、サブキャラクター。

ここまで上げれば、後はロビーでアイテムのやり取りを繰り返すだけでいい。

エンチャンターとはそういうキャラだ。

この実戦向けではないキャラクターで四層を目指すような変わり者は辻スミスや一閃くらいだろう。

キツネ自身も一体育てた事があるからよく分かる。


そして、このクオリティのエンチャンターが存在するのであれば、話は変わって来る。

試算をするくらいは、やってみてもいいはずだ。




作戦変更の決断に至る、二番目のきっかけは、予想外の「士気の高さ」だ。


てっきり、この絶望的な状況で、SNSを通じて集まった皆の「祭」状態も終わるだろうと思っていた。

少なくとも、トップランカーの面々はそう思っていた。

好き好んで、こんな古いゲームのためにパソコンを24時間フル稼働にするような物好きは、そうそういないだろう、と、そう思っていた。


だが、彼らのような中年に差し掛かった世代には実感出来ていない、時代の変化という物があった。


今、この世の中、「グラフィックボードを備えた、余っているパソコン」は大量に存在する。

PCを買い替えた後、部屋の片隅で旧型機を眠らせている者も多かったが、何より多かったのは、完全にブームを終えて死に絶えた、仮想通貨のマイニングマシンである。

ゲームが出来るPCを転用しているだけあって、元々PCゲームが好きな人間も多かった。


彼らは、かつて自分の愛機だったオンボロマシン達に再び火を入れ、懐かしいゲームを走らせた。

一攫千金の夢に投資し、そして破れた……その残骸である機械達に電源を通し、再び起動させた。

目的は、ただ一つ……

今は亡き、カノザキという一人の男のためだ。


プレイヤーの六割壊滅という危機。

その事で、ムラマサ達の心は折れかけた。


だが、「祭」と聞いて駆けつけた野次馬達や、カノザキの追悼に加わりたいという善意の不特定多数の者達にとって、そんな事は関係なかった。

元々、キャラクターを作っては消し、作っては消して、ひたすらポーションを集め続けるだけ。

半自動収集BOTも基本職であるソーサラー用に作られており、追加職抹消の影響は比較的小さい。

多少の被害はあれども、彼らにはそのマイナスを打ち消すくらいの「熱さ」があった。


この絶体絶命の危機に際し、集まった各々がそれぞれで最善を尽くす事に熱意を燃やし始めたお陰で、ポーション収集の速度はむしろ上昇傾向にあった。





そして、三番目のきっかけは、「発見」。

ウォリアー歴の長いブッチーが、投げ武器を選定していた経緯から、一つの武器に目を付けてきてくれた。


ユニーク(茶色)武器、投げナイフ、「ラグナロクシュライク」。


弾数制限のある消費型飛び道具で、投げ武器用のスキルを持つウォリアー、アサシン、ニンジャ辺りにしか出番の無い武器だ。

投げ用以外の武器でも投げる事が出来るサムライにも使われる事はない。

そして、威力はナイフ相当であり、近接攻撃に使っても役に立たず、とても実用性があるとは言い難い。


だがしかし、この武器には一つ、サイバラの調整ミスが存在した。

四層で落ちる武器でありながら、装備に必要なレベルが僅か83なのだ。

このアイテムを作成する時、本来のマジホリに存在する「バトルシュライク」からデータをコピペし、色を変更し、各数値を調整したアップグレード版のMODオリジナル武器なのだが、その際に装備要求レベルの数字を改変し忘れたままになっていたのだ。


誰も使っていなかった武器だからこそ残された「穴」である。


威力は低い。

確かに、誰も使わないような武器だ。


だが、しかし、それは四層での話。

一層のプレイヤーにとっては、これが最強武器なのだ。


そして、使わないくせに各種投げ武器を厳選してコレクションしていたブッチーの持つ極上の一本は、まさに至宝。

「球数補充・修理は不可能だが1.5倍の威力」の効果を持ち、強化アイテムを嵌め込むスロットも2つ空いており、惜しげもなく最上級ルーンが投入されている。




『いいか、こいつは投げて使うワケじゃねえ』


集まった一層プレイヤーに、ブッチーは秘訣を伝える。


『投げて使えば、いくら一層ったって、大したダメージにゃならねぇ。

こいつを投げずに突き刺し用途で使えば、パラディンの「神罰の一閃」が乗るってワケで……』


『百万、行けるんスか!?』


『マジか!!』


集まったプレイヤー達は興奮し始める。

潰えた希望が甦ったかのように思えたからだ。


『いいや、ダメだ。

せいぜい66万てトコだな』


『なんだよ……』


『期待させといて!』


口々に文句を言う一層プレイヤー。


『でも、致命打が乗れば、話は変わりますよね』


『その通り!』


答えたのは、選抜メンバーの一人、大巨人こと、BIG_ATLAS2。

我が意を得たり、とばかりに画面の前でニヤつくブッチー。


『このナイフには、致命打+60%、なんてぇすげぇ効果が付いてるワケよ』


攻撃時に「致命打」が発動すれば、物理ダメージ限定でダメージが倍増する。

しかも、クリティカルと違い、その加算はモンスター側の防御判定前に行われる。

物理ダメージ限定とは言え、その効果は大きい。


『威力の低い投げナイフだからこそ許された効果だが……

さあ、そこでどうする?』


『装備で補えば、100%発動も、イケる!』


『正解だ!』


答えたのは、コウヤだった。


のんびりと、楽しむためだけにプレイした時とは違う。

今ではコウヤも目的を達成するためのプレイに移行していた。

だから、必要な情報は自分で調べ、学習していた。

苦手な学校の勉強とは違い、明確な目的があり、それを達成するための学習なら、苦にはならない。


『で、希望的観測でザッと甘く計算して…… 一撃88万ほどになる』


一層プレイヤーの間に衝撃が走る。

もしかすると…… と。


『お前達の装備構成次第ではあるんだが、簡単にひっくるめて説明すると、最終的に340%の補正が乗るってぇ、俺達は計算してる。

で、だ。

ポーションで補うとなると…… 36000個がボーダーラインって所だ』


36000個。

実に、微妙なラインだ。


残り時間は2日。

現在の+10ポーションの総数は、約26000個。

2日で、10000個…… 1日に5000個ずつ……


今まで一日平均は、+3000~4000程で推移している。

加速傾向にある今、不可能なラインではないが、相当な無理をしなければ届かないであろう、極めて微妙なライン。


『もっと装備を厳選出来れば、そのボーダーラインは下げられる!』


『そうだ! レベルだって2日あればもう少し上げられるぜ!』


『おお、そうよ! つまり後は時間との戦いってぇワケだ!

虚無が1階に辿り着く直前に、もう一回集まって貰って、だ、そこでダメージの計算をきっちりやって、ポーションが足りなさそうなら作戦中止だ。

予想だと、平日の夕方ってぇ微妙な時間帯になりそうだが…… なんとか頼むぜ!』


『おおっ!!』


『やってやるぜ!!!』


ブッチーの作戦伝授が終わり、一層プレイヤー達は散っていった。


ある者は+10ポーションを収集するPCを一台増やし、ある者は寸暇を惜しんでトレハンに勤しみ、またある者はBOTを使った高速レベリングへー……

各々、思い思いの方法で決戦に備え始める。



(ま、今の計算は、相当にあま~~~~~~~く計算しちまってんだけどな……)


キツネの試算では、38000個と出ていた。

そこを、少し甘く説明し、彼ら奮起を促して補う。

人の善意をアテにする、ムラマサらしい発案だ。


(侍は死んでも、リーダーとしてのムラマサはまだ生きてるってか)


敵わねえなぁ、と、ブッチーは一人、心の中でぼやく。


いつか、アイツを追い抜いてやる。

その一念で、マジホリを続けてきた。


恨みは無い。

憎しみは無い。


ただ、なんとなく、近接職同士、ライバル感を感じてしまっただけだ。


なんとなく、お行儀のいい、人当たりのいいムラマサの性格が好きになれなかっただけ、かもしれない。

使える物はなんでも使うこの俺が、あんな甘ちゃんに追いつけないという現実が気に食わなかっただけ、か。


ただそれだけの事に、何年を費やした?


あのクソ馬鹿野郎のクソガキのように、本当の意味で手段を選ばずにいたならば、とっくに追い抜けていただろう、という気付きもまた、ブッチーの気を滅入らせる。

本気度は、クラガの方が俺の上を行っていた。


そうやって、ただなんとなくでモタモタしているうち、何年が経ったか。


だが、アイツは……

アイツの侍は、もう、いない。


カベもキツネも消えて、実質的なトップランカーは、この俺。


これで念願が叶ったか?


答えはNOだ。


虚しさしか無い。


「ったく、なーーにやってんだろうな! 俺はぁ!」


一人、部屋の中で声を上げてしまうブッチー。


それは、心からの言葉。

貴重な有給休暇を使ってまで、一銭の得にもならないこんな事を、なぜ?

連日夜遅くまでのトレハンや作戦会議で、身も心もクタクタだ。


どうして? なぜ? こんな辛い事を、気の遠くなるような時間を掛けて?


「楽しいんだよなぁ…… ゲームってのは……」


終わらない戦いを競い合う、気心の知れた、気に食わないライバル達。


孤独な、常に神経の張り詰めたソロプレイ……

その困難を打ち消す、心強いチームプレイ……


時にライバルで、時に頼れる仲間。

気が向けば組むし、面倒なら無視もする。


そんな日々のプレイで、手に入るお宝に一喜一憂。

コレクションを埋め、性能を誇り、画面写真で自慢する。


「楽しかったなぁ…… マジホリ……」


明日、どうなるにせよ……

これから先、もう、「あのマジホリ」は帰って来ないだろう。


人が入れ替わり、システムが調整され、バランスも煮詰められるだろう。

もしかすると、サイバラはアイテムやモンスターを追加してくれるかもしれない。

変わるとすれば、きっといい方向に変わる。その確信はある。


でも……


もう、「あの頃」は、終わったのだ。


コレクションから極上の一本を持ち出し、7つしか持っていない最上級ルーンも2つ消費した。

新人を教える立場になり、愚痴ばかり言う悪癖も治っていた。


性格の悪い陰気な大学生も、今ではすっかり大人の男になってしまった。


その、時の流れが、今、ドッと押し寄せてくるのを感じる。



「もうひと頑張り、しねぇとな……」


座ったまま背伸びをし、ブッチーは画面に向き直る。

サブPCでポーション収集をしながら、メインでは一層のプレイヤー用のトレハンを続ける。


自分のためではなく、誰かのためにする無駄な努力。

こんなボランティアだって、泣いても笑っても明日までだ。


(疲れるなら、今のうちだぜ)


例え、どこからどう見ても、ロクデナシの駄目ゲーマーであろうとも……

こうなってしまった自分も、そう悪くはない。







時代設定は、現在より少しだけ先の未来、ですかね……?

いや、もうマイニング特需は終わったと見て、現在と捉えても問題ない?

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