第三次会戦のはじまり
ヴェリスティア暦528年初冬、新ヴェリスティア帝国は半年の停戦を経てアーイエシルとの戦争を再開した。
第三次会戦の始まりであった。
新ヴェリスティア帝国軍本隊がライ島に上陸。
イエシル人はライ・ルルシェムをうまく利用した高方からの波状攻撃と精鋭部隊による帝国軍の攪乱を開始し、一方の帝国軍はライ・ルルシェムに取りつくことを第一の目的と設定し徐々にライ・ルルシェムへと接近していた。
飛翔能力をもたないオルイガの住人がアーイエシルへたどり着くための唯一の道だからだ。
だがイエシル人にとっても同じようにライ・ルルシェムは地上へと続く重要な道だった。
アーイエシルには巨大な鳥が生息しており、四、五人であればその背に乗せて地上まで運ぶことができるのだが、戦中にそんなことをしたら地上に近づいた時点で撃ち落とされるだろう。
ライ島は戦争をするにはあまりにも土地が少なく、帝国軍の銃撃を避けて着地するのは難しかった。
もともと、ライ・ルルシェムは古くからある巨大な鐘楼だった。
だが、ヴェリスティア暦473年、皇帝エリジェンドラ一世が帝都をライ島に移した際に、鐘楼から上に新たに塔を付け足し、更に高いものにしたのだという。
鐘楼までは塔内部の外壁とのあいだに狭い螺旋階段が作られており、ひたすら上へ上へと続く構造になっている。
鐘は塔の中ほどに設置されており、そこから上の階段は回廊のようになっている塔の外側を上ならければならない。
最上階は展望台となっていたが、アーイエシルとの衝突の際に崩れ落ち、現在はその場所にアーイエシルが存在している。
戦時中、イエシル人はアーイエシルと接しているその螺旋階段を使ってライ島へ下りるしか術がなかった。
身体能力はイエシル人のほうが勝っている。
だが、銃火器を持たないイエシル人は、帝国軍の遠距離からの攻撃に苦戦を強いられていた。




