↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな箱庭の壊れた世界  作者: Ratte
Interlude - 道外偽曲
60/72

Ex6

“A Lie Cannot Live”




 ――――その光景にフルエフルは見覚えがあった。数時間前、何も出来るはずがなかった少年のコナトゥスによる幻視。まるで冗談のような光景。だが、これは紛れもない現実だ。


「あ……あ……」


 身を裂くような痛みが彼女の心を襲う。自身の侵食とは別に、まるで病(・)のように全身を駆け巡る。


「キミは本当に何も知らない。それもそうだ。キミはあの陰鬱な揺り籠で眠り続けていただけなのだから」


 ラトは睨めるようにフルエフルを見る。妖艶な笑みで熱を浮かせ、彼女に語り始めた。


「あぁ、あぁ、この地獄は本当に楽しかった! 血に血を混ぜ幾百年、悲劇に悲劇を重ね幾百年! 本当は終わらせるには少しばかり惜しいかも知れない!

 ……だが終わらせる。楽しかったのはもはや過去。人はなんであれ、いずれは飽きるものだ。どこまでも輝かしい宝石も、慣れれば、飽和すれば、見飽きれば、ただの石ころに成り果てる。輝きは何一つ変わらないはずなのに。どんな素晴らしいものも、当たり前のものになれば、それだけで価値を失う。

 そういうものだ。今のワタシがまさにそれだ。そしてキミは終わり、ゲームも終わり、この地獄のような世界は終わる。言わなかったかい? 運命は既に紡がれている、と」


 ラトは言葉をそこで区切り、手に持つ突撃小銃(アサルトライフル)の銃口をフルエフルに向けた。


「この地獄は神々の壮大でおぞましい、冒涜的な遊戯(ゲーム)。遊戯(ゲーム)で、あれば……いつかは終わるモノでなければならない。そうでなければゲームは面白くないだろう?

 では、さようならお嬢様。よい旅路を……ッ!?」


 ラトの指が銃爪(トリガー)へ掛けられた直後、彼女はおもむろに後ろへ飛び退く。

 次の瞬間、風切り音と共にラトがいた場所へボウガンの矢が突き刺さった。




 *




「…………ハッ」


 異常な成長をした植物に紛れ、ザンカは苦し紛れに笑う。息を切らせながらも、彼はボウガンの矢を装填させた。


「あぁ……クソッ! あの野郎……!」


 ザンカは自分を倒しておきながら、命を奪わなかった少年の顔を苛立たしげに思い浮かべる。毒を所持するからには当然、解毒薬を彼は持っていた。全快とは言い難くとも体は動かせる。

 使用した後に二人を追いかけるという選択もあった。だが、ザンカは倒した敵に止めを刺さない、『穢れ』を背負おうとしなかったハカナに苛立ち、同時に毒気(・・)を抜かれてしまったのだ。

 その選択は間違っていなかったのであろう。だが、間に合ったとは言い難い。


「姐さん……あいつら……」


 仲間たちの遺体を覗き見て、ザンカは自分の行いを後悔する。ツバメを殺した相手だ。自分がいたところで何か出来るとも限らなかったかもしれない。

 しかし、それでもその場に自分が居なかったことが何よりも許せなかった。


「クソ……クソッ!」


 だが、最悪の一歩前で辿り着く事が出来た。フルエフルはまだ生き残っている。彼女さえ助けることが出来れば。ザンカは再びボウガンをラトに向けた。


「ザンカッ!」


 フルエフルの声が彼に届く。今にも途切れそうなか細くも透き通る声。

 今、助けてやる。そう言おうとしたザンカに聞こえた言葉は、彼の予想とは違うものだった。


「……逃げなさい!」


 植物の影から身を出そうとした彼の動きが止まる。その様子を見て、ラトは声を上げて笑った。


「フフフフフ。アハハハハハハ! キミのお嬢様はこう言っている。何故、君が生きているかわからないが、その行為の美しさに免じてキミがこのまま逃げるのであれば、ワタシはキミを追わない。どうする?」


 見え透いている。雑な挑発で逆に熱くなった彼の頭が冷えていった。あぁ、こいつは確かに。お嬢とは相性が最悪だな、なんて変に冷静にザンカは思った。


「ハッ。『ワタシは』ってことは横のそいつは追っかけてくるってことだろ?」


 ラトの横にはいつの間にか学生服の少年が立っていた。突剣(レイピア)に付いた血を拭い、殺気を隠そうともしていない。


「ハハッ。バレてたかい?」


 ラトはわざとらしく肩を竦める。意味のない挑発だ。ザンカにそんな選択肢は最初から無いのだから。やれやれ、とザンカはラトに答える。


「それもわざとだろうが」

「フフ、ならばどうするんだい?」

「ハッ。決まってんだろ。やることは変わらねェ。お前らをブッ殺して、お嬢を助ける。それだけだ。

 ――――生きるってのは汚れることだ。……ここで逃げたら。俺が何のために生きてきたか、わからなくなっちまう」


 ザンカはボウガンを構えて身を乗り出し、走り出す。

 あぁ、そうだ。と彼は独りごちた。


 ザンカのコナトゥス、『汚穢(おえ)』

 この力(コナトゥス)は、こと戦いにおいて決して役に立たない。戦いで受ける汚れは、己のそれとは別質のものだからだ。ザンカは誰よりもそのことを理解していた。

 屠殺(とさつ)されるべきは自分。

 本来不要なのは自分。

 自分こそ、切り捨てられるべきもの。

 そうすれば、役立たずな自分よりずっとマシな誰かが現れるだろう。


 だが、フルエフルはそれを否定した。

 彼女は、彼が自身が役立たずであると言ったとしても、ザンカに生きて欲しいと常に願った。

 ならばせめて。

 せめて、彼女の為に汚れる(いきる)と、彼は自身に誓ったのだ。


 数十分前、ハカナのコナトゥスによって彼が見た自身の『恐怖』を思い浮かべる。この時ばかりはあの家畜野郎に感謝するべきかもしれない。あの『恐怖』を知らなければ、フルエフルの指示のままに逃げていたかもしれない。今は、そんな自分を考えるだけでおぞましい。


「……あんなのは、二度とごめんだ」


 そうこぼして息を呑み、ザンカは覚悟を決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=550156845&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。