#53
“Therefore Enjoy Pleasure”
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シンゴが部屋から去った後、ハカナは呆然と宙をみていた。休めとシンゴからは言われたが、そのまま寝るにはどうにも落ち着かない。
気絶することが多かったからだろうか、寝不足は何処かに行ってしまった。こんなものは決して喜べるものではないが。
何かする当てがあるわけもなく、ベッドの中でぼうとしていたところに部屋の扉が開かれた。
「あっ……」
そこから見えた顔に、一息遅れてハカナは反応する。
「やれやれ。起きたって聞いたから来てみりゃ……まだ夢の中か?」
「セレン! ッと……」
「ハカナ君ッ!! よかったー!! 心配したんすよ!!」
皮肉げに言うセレンと満面の笑みを浮かべるラタネ。顔色は少し悪いがセレンも一人で立っているところを見るに、既に受けた傷は治されたようだ。ハカナは改めて安堵した。
続けてハカナは彼の傍らに居るラタネに目を向ける。
「ラタネ、ありがとう」
「おー?」
「怪我、また治してくれた」
「うへへー、お安い御用ッすよー!」
「……あんまり、そいつ褒めんなよ。すぐ調子に乗るから」
なにをー! と大袈裟なジェスチャーを交えて抗議するラタネに、やれやれと肩を竦めるセレン。あぁ、普段はこんな風なんだなとハカナは微笑ましく思った。
「……まっ、よかったじゃねーか。お互いに生き残る事が出来て」
「あぁ……本当に、よかった。あっ、あー……」
ハカナは脱出の間際にしたセレンとの会話を思い出す。そんな彼の様子から察したセレンはニヤリと笑った。
「安心しな。殴るのは今度にしといてやる」
「はは……」
そんな二人のやり取りをみて、ラタネはにやにやと笑う。
「あれー? セレン君、朝まではハカナ君に塩対応だったのに、どういう心境の変化ッすか?」
「……朝のことは忘れろ」
「ええー? きーにーなーるー!」
詰め寄るラタネをセレンは人差し指で押し戻す。
セレンに軽くいなされたラタネは少し小難しそうな顔をしてから何か思い当たったという顔をする。
「ハッ! もしかして! ダメッすよ! ハカナ君、セレン君を攻略対象にしちゃ! それか……もしや、既に攻略済み……?」
「なわけあるかッ!! 意味わからねーこと言うんじゃねぇ!」
わなわなと震えつつも興味津々といった様子のラタネにツッコむセレン。
そんな様子を見て……
「あははは……はは……ははは……」
「ハカナ?」
「ハカナ君?」
「ごめ、ちょっとツボに……はは、入った……ははは」
笑いの発作を抑えられず、ハカナは破顔する。思えば、こんな世界に来てから彼が楽しいという意味で笑うのはこれが初めてだ。緊張の糸がほどけたハカナは感情の奔流に逆らえずに笑い続けた。
「……テメーが変なこと言うからだぞ。どーすんだ、これ」
「えー? アタシのせいッすか?」
と、再びセレンとラタネの二人は言い合いを始めるのだった。
「ははは……ん?」
ようやく笑いの発作が収まったハカナは二人を横目に、入り口からの視線に気付く。首を巡らすと、そこにはレキナがいた。期せずして二人の目と目が合う。
しかしそれは一瞬のことで、彼女は無表情のまま、何も言わずに部屋から遠ざかっていった。




