#45
“The Wicker Man”
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――――燃え盛る炎、炎、炎。
セレンとハカナの二人に目に見えるもの全てが、揺らめく朱と橙の色によって彩られている。
パチパチと生木の焼ける音がそこら中で鳴っている。そこに陰鬱としていたはずの迷宮の面影はどこにもない。
周囲を取り囲む樹皮は黒色に。やがて黒色から灰色へ。外の世界と変わらない色へと変化していく。
熱気と、植物と埃の焼ける臭いに鼻腔まで焼かれそうだ。四方が閉ざされ、全てが紅蓮に包まれていく様は、さながら焦熱地獄か。
瑞々しい樹皮の生い茂った外部ならいざ知らず、乾いて老化した幹ばかりの中心部からの放火。
小さな灯火は瞬く間に炎となり、四方に燃え広がり、未だ燎原の火の如く猛威を振るい続けている。
――――古代生贄人形。
編み目のように複雑に絡み付く迷宮が燃える様は、古代にあったとされる呪術人形を彷彿とさせる。数多の命と引き替えに、豊穣をもたらすとされた人身御供の檻。
その内に取り込まれた者は、決して生き残ることは叶わないだろう。
だが、ハカナとセレンの二人にはそんな生贄になるつもりなど、毛頭なかった。
『……お前、やっぱりイカレてんのか?』
数分前、ハカナの『悪い考え』を聞いたセレンは開口一番にそう言った。
『ごめん、やっぱり無理だよなぁ……。普通に考えて、真っ先に死ぬの僕らだし』
苦笑いするハカナを視て、セレンは思考を研ぎ澄ます。そして、頭の中でここまでに『視』たものを整理した。
この迷宮の材質。この場所の位置。そして、内部まで視ることによってしか気付けなかったこと。
その全てを『視認』をしたセレンは答えを導き出す。
『いや、イカレてるが……可能性はゼロじゃない』
思考をまとめ、そう言った時。自身もイカレちまったようだと、セレンも口元を歪めていた。
『ずっと疑問に思っていた。マラコーダの神仔の神性。オレが視たものとお前の話から推測できるその力の正体。それは……『豊穣』。植物の成長を操る力と言ったところか?
気軽にテメーなんかにも使ってる辺り、多少はコストパフォーマンスも良いみたいだ。が、テメーも知ってる通り、神性ってのはハイリスク、ハイリターンが基本。
ルールの一部を担っているとは言え、ここの神仔もそれは変わらないはずだ』
ならば、どうやってこの巨大な迷宮を作り上げたか。何度も使えば自らが破滅する、そんな力を使って。
『……そうだ。何度も使えなければ一回に……一つに、まとめちまえばいい。単純な話だ』
この迷宮は、ひとつの大木だ。
そうセレンは推測した。
そして、それは的中したようだ。
現在。
少年は走り続ける。それがどれほど僅かな可能性であろうとも、己が生を勝ち取らんが為に彼らは足掻く。
「……オレを気絶させたまま連れてこなかったのは、誤算だったな」
セレンは走るハカナの横顔を見て、独りごちる。
いや、言ってしまえばハカナがここにいること自体がマラコーダの連中にとっては誤算だろう。
こいつが今この時、この場にいなければ全てが完全に詰んでいた。足掻くこともなく、セレン一人では終わっていただろう。
しかし、ハカナは今、ここにいる。
(……それこそが、こいつのコナトゥスの真の意味なんだろうか?)
それとも全く別のものが、この状況を作り上げているのだろうか。あまりにも、クソッタレで。あまりにも、出来過ぎている。
そして、今いくらそれを考えたとしても彼にはどうしようもない。
(……これは、賭けだ)
シンゴは昨日、あの戦いの前にハカナがセレンたちになにかを起こすと言っていた。
初めは当てが外れたと思った。シンゴの『直観』は絶対の預言ではない。だが、今は彼にはそれが信じられるような気がした。
奇妙な力を持つ、この少年を。
『視認』のコナトゥスを持つ自分がこの場にいることも含めて、偶然だとは思えない。ラタネは当然ながら、『直観』のコナトゥスのシンゴでも恐らくは無理だ。この時、この場に自分とハカナが居ることが必然だと思えた。
それはシンゴの『直観』のように大層なものじゃない、自身のただの勘。
……だが、生き足掻くにはそれで十分だ。
ならば、後は意志を以てこの運命を転がすだけだ。
――――セレンの瞳に、揺るぎない意志が宿る。




