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プラネットAI  作者:
10/15

第10話 砂漠のレトロ遊園地は怪しすぎて疑問の余地はない

 眼下の砂漠には大きなクレーターのような窪地が広がっている。その中央に、数世紀も昔にあったような古風な遊園地が建っていた。

 おもちゃのようなゴンドラの小型観覧車。ティーカップや飛行機の回転遊具。射的やミニボウリング、球投げのコーナー。クレープやホットドック、ポップコーンの売店。遊園地の中央には赤白屋根のノスタルジックなメリーゴーランド。そして敷地全体を城壁のように囲む、ただアップダウンを繰り返すだけのジェットコースターの鉄路。

 俺はカメラをパンしながら様子を窺った。レトロな遊園地が偽装なのはどう見ても明らかだ。だが誰が何の目的で造ったものなのか、全く想像がつかない。

 しえるは窪地内の遊園地を発見してから装甲車を一旦後退させ、視認されないように低い起伏の斜面に停車させた。対戦車誘導ミサイルの攻撃を避けるためだ。


 時刻はもう午後も遅い。数時間後には日没になる。

 砂の上に腹這いになったしえるは、双眼鏡を眼から外した。


「放棄された施設かな?」

「放棄もなにも、こんな場所にあること自体怪しすぎる」

 しえるの横で、ナンのように平たく延びた俺はいった。

「ナンとめんような」

 しえるは俺を見て言った。

「ああ、面妖だ」

 俺は言った。

「で、これからどうする?」

「進路上にこの遊園地はある。ここからレーザーが射出されているのは、まず間違いないと思う」

「そうだな」

 俺は同意した。

「だが、確認が必要だ」

「うん。破壊はそれからだね」

「ああ」

 俺は視覚レンズを真上の空に向けた。

「それにしてもレーザーで、何の衛星を狙っているんだ」

「ひらめみたい」

 しえるは俺を見て、ぼそりと言った。

「もう軍事衛星は一つも機能していないはず」

「ひらめってなに?」

「き、君は、ボクが怒らないか試しているのかな?」

 俺は声を震わせた。

「そーゆーのはよくないなぁ」

「戻ろう」

 しえるは俺の言葉を無視して身体を起こし、背をかがめて走り出した。

 俺は素体を回転させて後を追った。やはり歩くより楽だ。


 後部ハッチから乗員室に入る。床に敷いた毛布の上で幼女は眠っている。眉根を寄せた苦しげな表情は変わらない。おそらく内臓疾患を起こしているらしいが、手の施しようがない。


「……子供は遊園地が好き」

 しえるはつぶやくと、頭痛がするようにこめかみを押さえた。

「データにはそうある。この子もそうなのか?」

「さあ、どうだろうな」

 俺は言った。

「おい、大丈夫か?」

「……」

「しえる!」

「え?」

 俺はしえるの肩をつかんだ。

「いろんなことが起きて処理が追いつかなくなっているんだ。余計なことは考えるな」

 しえるは俺の手を肩からはずし、小さく言った。

「わかってる」


 しえるは床面のパネルを開き、ウエポンパックを引き上げた。バックルを叩くと圧縮ガスが抜けてパックが割れ、真新しい自動小銃と弾倉の束が現れる。しえるは防弾ベストを着込み、すべてのポケットに弾倉を詰め込んだ。


「俺も何か持とう」

 しえるは一瞬考え、ずしりと重いバッグを手渡した。

「なんだこれは?」

「グレネード」

「手榴弾か」

 俺は眼を見開いた。

「撃たれたら爆発するじゃないか!」

「日没と同時に侵入する」

 しえるは俺の叫びを無視して真剣な顔でいった。

「目標のレーザー発射装置を確認次第撤退。それでいいね?」

「り、了解」

 俺は少し緊張して答えた。まさか軍事行動に参加するとは思わなかった。

 しえるは俺の様子を観察した。

「ここにいてもいいよ」

「いや」

 俺は首を振った。

「おまえをバックアップする」

「ありがたいけど」

 しえるは藍色の眼で俺をじっと見た。

「足手まといにならないでね」

 思わず怒鳴りそうになるのをぐっとこらえた。確かに、しえるの言うことは当然だからだ。軍事訓練を受けていない者を連れて行く方がよほど危険だ。

 銀髪の少女は自動小銃のスライドレバーを引いて初弾を送り込み、安全装置をかけて床に置いた。

「手慣れているな」

「これでも僕は兵士だよ」

「そう、だったな」

「でも、作業体に銃器操作させるのは、初期訓練以来だけど」

「なんだと!」

「大丈夫。僕は君を守る」

 俺を見つめ、真顔で言った。

「君と帰りたいから」


 しえるは俺の横に座り込むと膝を抱え、身体を密着させて寄りかかってきた。


「お、おい?」

 俺は戸惑った。今までこんなことをしたことがなかったからだ。

「じっとして」

 しえるは頭をもたせかけた。

「……こうしていよう」


 俺達は日没までの数時間、身体を寄せ合って動かなかった。

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