第10話 砂漠のレトロ遊園地は怪しすぎて疑問の余地はない
眼下の砂漠には大きなクレーターのような窪地が広がっている。その中央に、数世紀も昔にあったような古風な遊園地が建っていた。
おもちゃのようなゴンドラの小型観覧車。ティーカップや飛行機の回転遊具。射的やミニボウリング、球投げのコーナー。クレープやホットドック、ポップコーンの売店。遊園地の中央には赤白屋根のノスタルジックなメリーゴーランド。そして敷地全体を城壁のように囲む、ただアップダウンを繰り返すだけのジェットコースターの鉄路。
俺はカメラをパンしながら様子を窺った。レトロな遊園地が偽装なのはどう見ても明らかだ。だが誰が何の目的で造ったものなのか、全く想像がつかない。
しえるは窪地内の遊園地を発見してから装甲車を一旦後退させ、視認されないように低い起伏の斜面に停車させた。対戦車誘導ミサイルの攻撃を避けるためだ。
時刻はもう午後も遅い。数時間後には日没になる。
砂の上に腹這いになったしえるは、双眼鏡を眼から外した。
「放棄された施設かな?」
「放棄もなにも、こんな場所にあること自体怪しすぎる」
しえるの横で、ナンのように平たく延びた俺はいった。
「ナンとめんような」
しえるは俺を見て言った。
「ああ、面妖だ」
俺は言った。
「で、これからどうする?」
「進路上にこの遊園地はある。ここからレーザーが射出されているのは、まず間違いないと思う」
「そうだな」
俺は同意した。
「だが、確認が必要だ」
「うん。破壊はそれからだね」
「ああ」
俺は視覚レンズを真上の空に向けた。
「それにしてもレーザーで、何の衛星を狙っているんだ」
「ひらめみたい」
しえるは俺を見て、ぼそりと言った。
「もう軍事衛星は一つも機能していないはず」
「ひらめってなに?」
「き、君は、ボクが怒らないか試しているのかな?」
俺は声を震わせた。
「そーゆーのはよくないなぁ」
「戻ろう」
しえるは俺の言葉を無視して身体を起こし、背をかがめて走り出した。
俺は素体を回転させて後を追った。やはり歩くより楽だ。
後部ハッチから乗員室に入る。床に敷いた毛布の上で幼女は眠っている。眉根を寄せた苦しげな表情は変わらない。おそらく内臓疾患を起こしているらしいが、手の施しようがない。
「……子供は遊園地が好き」
しえるはつぶやくと、頭痛がするようにこめかみを押さえた。
「データにはそうある。この子もそうなのか?」
「さあ、どうだろうな」
俺は言った。
「おい、大丈夫か?」
「……」
「しえる!」
「え?」
俺はしえるの肩をつかんだ。
「いろんなことが起きて処理が追いつかなくなっているんだ。余計なことは考えるな」
しえるは俺の手を肩からはずし、小さく言った。
「わかってる」
しえるは床面のパネルを開き、ウエポンパックを引き上げた。バックルを叩くと圧縮ガスが抜けてパックが割れ、真新しい自動小銃と弾倉の束が現れる。しえるは防弾ベストを着込み、すべてのポケットに弾倉を詰め込んだ。
「俺も何か持とう」
しえるは一瞬考え、ずしりと重いバッグを手渡した。
「なんだこれは?」
「グレネード」
「手榴弾か」
俺は眼を見開いた。
「撃たれたら爆発するじゃないか!」
「日没と同時に侵入する」
しえるは俺の叫びを無視して真剣な顔でいった。
「目標のレーザー発射装置を確認次第撤退。それでいいね?」
「り、了解」
俺は少し緊張して答えた。まさか軍事行動に参加するとは思わなかった。
しえるは俺の様子を観察した。
「ここにいてもいいよ」
「いや」
俺は首を振った。
「おまえをバックアップする」
「ありがたいけど」
しえるは藍色の眼で俺をじっと見た。
「足手まといにならないでね」
思わず怒鳴りそうになるのをぐっとこらえた。確かに、しえるの言うことは当然だからだ。軍事訓練を受けていない者を連れて行く方がよほど危険だ。
銀髪の少女は自動小銃のスライドレバーを引いて初弾を送り込み、安全装置をかけて床に置いた。
「手慣れているな」
「これでも僕は兵士だよ」
「そう、だったな」
「でも、作業体に銃器操作させるのは、初期訓練以来だけど」
「なんだと!」
「大丈夫。僕は君を守る」
俺を見つめ、真顔で言った。
「君と帰りたいから」
しえるは俺の横に座り込むと膝を抱え、身体を密着させて寄りかかってきた。
「お、おい?」
俺は戸惑った。今までこんなことをしたことがなかったからだ。
「じっとして」
しえるは頭をもたせかけた。
「……こうしていよう」
俺達は日没までの数時間、身体を寄せ合って動かなかった。




