第9話 俺はだだ漏れの告白をしてしえるは絶叫する
機動戦闘車は一晩中走り続けたが、レーザー射出装置の位置は掴めなかった。三発目の発射はなかったからだ。
「充電しなきゃ」
太陽が昇ると、しえるは装甲車の速度を落とした。夜間走行で電力を使いすぎていた。
「方向はあっているよな」
俺は地図画面を確認した。昨晩レーザー射出を目撃してから、装甲車は真っ直ぐ南南西の方角に進んでいる。
「夜にならないとレーザーは見えない。でも、今晩発射されるかどうかはわからない」
しえるは耳を押さえた。
「だめだ、船と繋がらない」
耳から雑音が洩れて来る。しえるは無線をOFFにした。
「昨夜からだな」
俺は言った。
「妨害電波だ。レーザーと関係あるのか」
「わからない」
「あの垂直の光は、多分人工衛星破壊兵器だ」
俺の言葉に、しえるは問いかける眼差しを向けた。
「高出力レーザーで軍事衛星を破壊、または無力化する。遥か高空を高速移動する衛星に当てられる時間は短い。だが」
俺は立てた手首を折り曲げた。
「地上の目標なら照射時間も長く当てられる。近距離で水平に照射されれば戦艦の装甲も貫くだろう」
「ほうっておけないね」
しえるの腕の中で、幼い女の子が微かに身じろぎした。薄く眼を開けて、自分を抱いている少女を見上げる。
「お姉ちゃん、誰?」
小さな声でつぶやく。
「お兄ちゃんは、どこ?」
「地下施設にいるよ」
俺は横から言った。嘘ではない。
「ガラスがしゃべった!」
幼女は驚いた顔をした。
しえるは女の子を見下ろし、微笑みを浮べて言った。
「これから病院に連れていく。でも時間がかかる。がんばれる?」
「うん……」
幕が下りるように眼を閉じる。
「がん……ば……」
胸に貼ったバイタルセンサーはオレンジのままだが、脈拍と血圧の数値は安定している。
「無線通信は妨害されている」
しえるは言った。
「レーザー射出装置を確認したら、すぐに帰艦しよう」
「そうだな、それがいい」
俺は同意した。
装甲車はゆっくりと砂漠を進んだ。
気まずい沈黙は、朝になっても続いていた。
昨晩俺は心を込めて謝罪し、しえるもそれを受け入れてくれたと思ったが、いったん傷つけてしまった感情はそう簡単には元には戻らない。いや、もしかしたら深く刻まれた不信感は絶対に消し去れないのかも知れない。俺はしえるに対する自分の心ない言動を激しく後悔したが、もう完全に、後の祭りだ。
「こんな俺はいったい何者なのか。どこでどうしてどうやって生まれたのか。俺は自分の出自を考えた。しかし自分の過去について全く思い出せない。艦長は閉鎖された研究所の地下で俺を発見したといったが、それが真実である保証はない。人類最高のテクノロジーと言える半永久的エネルギー回生システムを備えながら、しえるを悲しませてしまうような歪んだ性格を持つ俺は不完全な存在だと言うしかない」
そこで俺は、はっと気付いた。
「だから失敗作として廃棄されたのか……?」
俺はぶるぶると頭を振った。
「いやいやいや。いくら残念品質とはいっても、そこまで自分を卑下することはない。俺は後世に残るべき英知の結晶ではある。まぁいろいろ暴言は吐くけど」
俺はがくりと肩を落とした。
「まったく自分の性格が嫌になるぜ。ローラマリーは俺を戦艦に持ち帰ったが、俺は船の中で誰からも嫌われていた。傲慢無礼な上に艦長の与えてくれた上位階級をかさに着てパワハラしていたら誰だって毛嫌いして当然だ。こう自分で考えていても驚くほどの最低野郎だぜ俺は。ああびっくりした。でも」
俺は手を握り締め、身悶えるように言った。
「あいつだけは別だった。あいつは俺と普通に話をしてくれた。どんなにひどいことを言っても、けなげについて来てくれた。ローラマリーには嘘をついた。俺はあいつを初めて見た時から気に入ってしまったんだ!」
俺は拳で自分の頭を殴りつけた。
「きっと前世の記憶に違いない。あいつは俺にとって特別な存在だったんだ。そのうえ廃品寸前でも可愛かったのに、まっさらボディになった時の綺麗さといったらなんだ。あまりの美しさに俺は言葉を失った。心の中でかわえええ弾幕を張りまくった。本当に心臓を撃ち抜かれたかと思った、心臓はないけど。それなのに、俺は……」
俺は祈りを捧げるように合掌した。
「自分の一番大切な者を傷つけるなんて、俺はどうしようもない馬鹿で、くずで、間抜けな最低野郎です。でも俺は自分の歪んだ心に気がつきました。今は深く反省しています。死にたいくらい後悔しています。でもこのボディは半永久機関なんで下手したら永久の半分くらい生き続けます。だから俺は悔い改めます。俺はあいつを大切にします。守ります。あいつの耐用年数の限り整備し磨き続けます。だからもう一度見せてください」
俺は叫んだ。
「しえるの笑顔を!」
「うわあああああああ!」
しえるは絶叫して顔を両手で覆った。
「もももう止めて! は、恥ずかしい!」
「え?」
「君は誰に向ってしゃべっているのさ!」
「は?」
俺は首を傾げた。
「モノローグだったけど?」
「だだ漏れだったよ!」
「げっ! 間違えた。発話モードになってる!」
俺は直近のメモリーを検索し、凍りついた。
「これ全部しゃべったのか?」
「もうやだ!」
しえるは顔を隠したまま叫んだ。
「それ以上恥ずかしいこと言ったら砂漠に立たせて105ミリ砲をぶち込むよ!」
「半端なくこええええ!」
俺は震え上がった。
「もうやだあああああ!」
しえるは悲鳴を上げた。
「……あのう」
幼女が眼を開けて、かすれた声でいった。
「二人とも、うるさいんだけど」
俺としえるは同時に頭を下げた。
「どうもすいません!」




