27. お久しぶりの魔王城
「通信用水晶を使ったことねえのか? ほれ」
ポケットから取り出して見せてくれたのは、龍の珠みたいなやつ。
だって、魔王たちは通信魔法使ってたし、煌華帝国には黒電話あるし。そもそも私はコミュ障。電話なんて無理だし、かけようとも思えない。
「とりあえずかけてみろ。ここと魔王城なら時差はねえ」
……正直、嫌。だけど、まあ、魔王だし。大丈夫よね?
言われれるがままに水晶玉に触れるとチカチカと光り出した。通信中、ということらしい。さすがに電話みたい音はならないのか。
「ただいま、留守にしております。ご用件のある方は、ピーという音の後に……」
あ、そこは一緒なのね。留守なら仕方ない、どう言おうかというところで、水晶玉が赤くビカッと光る。ちょっとびっくり。
「何があった。緊急事態か?」
もう短くなった黒髪、立派な角、真っ赤な目。どう考えても疲れてそうな顔。
なんだか久々の魔王だわ。すごくホッとするし、ちょっと気恥ずかしい感じもする。これが実家のような安心感ってやつかしら。ていうかビデオ通話なのね。
「どうした?」
色んな要素に危うく本題を忘れかけて、セシリオとキョンシーを見る。
「緊急事態っていえばそう?」
「充分、緊急事態ですよ」
セシリオに突っ込まれながらも、かくかくしかじか、要約すると向こうのやべー奴らに絡んじゃいましたどうしましょう、と報告した。魔王の顔がみるみる青ざめていった。
あ、やっぱり、さすがにまずいかしら。でも児童虐待反対だし、もう拾ってきちゃったし。キョンシーもいつのまにかこっちに来て一緒に映ってる。
「ええと、やっぱりダメ?」
「はぁぁぁぁぁ……うん、ちょっと待ってくれ、一度整理させてほしい」
深いため息。ついに魔王が頭を抱えた。ただでさえ多い心労を増やしてしまった……。帰ったらなにか詫び飯を作らなきゃ。
と、反省したそこで執務室のドアが開いた音がした。このヒールの鋭利な音と羽音。まさか。
「あ、ちょっと、エリザベスじゃない。元気にしてるかしらぁ」
「あらやだ、ほんと! ちゃんとお肌の管理はしてるわよね?」
ここにきて書類を持ったバジリスクとジュリエットが登場。二人とも相変わらずのねっとり具合。ジュリエットは野太い。
「うん、元気だし肌も綺麗……だけど、魔王はそうじゃなさそう」
あの強靭な胃に穴が開きそうになっている魔王。可哀そうの極み。
「まぁた厄介ごと持ってきたのねぇ」
「ご主人様が大変そうで、オルトロス様の尻尾が垂れちゃうわ♡」
……はい、私のせいです。ごめんなさい。
「早く解決して戻っていらっしゃいな。最近いじめる相手が少なくて味気ないんだからぁ」
「マチルダさんたちも寂しそうにしてるわよ♡」
魔王が考え込んでいる間、色々と魔王城の現在を聞かされる。オルトロスがギガンテスにうっかり尻尾ふまれたとか、夏季休暇期間とはいえ社食は盛況だけど暑すぎて文句が出てるとか。
夏だし期間限定で冷製パスタとかアイスとかを売れば、少しは減るかしら。というかそれこそ冷やし中華というか、これならラーメンよりは人気が出たりして。
まだ数週間も経ってないけど、ああ……。
「帰りたいなぁ…………って、あれ? ん? ええ?」
私が一人焦ったり首を傾げているのを見て、バジリスクたちがきょとんとしている。
だって、帰りたいって思ったの、何年振りかわからない。侯爵家はありえないし、もはや前世振り? でも、前世でも実家はもう実家じゃなくて。
「やっぱり私、魔王城の社食係なんだわ」
「……急にどうしたのよぉ?」
「ううん、なんでもない」
異世界に転生までしといて、今更ホームシックなんてって思ってたけど、そんなことなかったわ。ずっと、ホームがなかっただけ。
「早く解決して帰って美味しい中華作るから、待っててちょうだい!」
再確認して宣言したところで、画面に魔王がひょっこり映る。
「ああ、うん。それでキョンシーの件だが」
あっ……。
「ひとまず、そのまま続行でいい。少し考えていることがある」
さっきまでの苦労性魔王とは違って、淡々とした様子だ。
どこか、私たちと違うところを見ているような。
「無理だけはするなよ」
そこでぶつりと切れた。セシリオと顔を見合わせる。
ほんとに、いいの? 考えていることって、なに?
次回は来週の平日はじめのお昼頃更新の予定です。ブクマ、リアクション、コメントなど励みになります。
長らく死んでましたが、やっと、やっと帰ってこれました! ただいま戻りました!!




