7. ジョンのふくしゅう
「オイラもたぁべたかったぁぁぁ!!!」
ガシャン、カラン、ゴン、バン!!
やかましさに耳を塞ぐ。次の日の昼営業後、食堂の床の上でジョンが元気に駄々をこねていた。ジタバタ暴れては骨がぶつかるから騒音も騒音。
「主人が主人なら、下僕も下僕ですね」
あまりの煩さに厨房で皿洗いをしていたセシリオが悪態をつく。
「こんなのと一緒にしないでちょうだい。ジャガイモの皮も剥けないくせに生意気なんだから……」
セシリオは無事に新入りとなったものの……ポンコツだった。さすがは元王子様といったところなのか。包丁を持ったことがなければ、野菜すらわからなかった。加工された姿でしか見たことないってどういうことよ。
おかげで元々よく思っていないマチルダさん達の目が余計に冷ややか。私や魔王を殺そうとしたのを根に持っているらしい。
「うわああああああああ」
なんて、後輩の行く末をゆっくり憂させてくれないのがジョンだ。涙を流して鼻水垂らして最終的には床にうずくまっている。その執念はどこからくるんだ、骨のくせに。
「しょうがないでしょって言ってるじゃない。今度の休みの日に普通のプリン作ってあげるんだから」
「ばぁけぇつぷりんがいいんだよぉぉぉ」
「無茶言わないでよ……」
助けを求めるようにジュリエットを見つめるけど、バチコーンとウィンクで返された。こっちもこっちで食わせなかったのを根に持っているらしい。実は言うとセシリオも食べられてなくて、文句は言いつつ助けてはくれない。いや、元から助けてくれるわけないけど。
「……ふ、ふくしゅうしてやる」
ピタリと泣くのをやめたジョンが、すくりと立ってそう宣言する。私の頭にはハテナしか浮かばない。
「ジョン、あんた復讐って言葉の意味わかってる? 馬鹿にはできないやつよ、それ」
思わず伝えたけれど、ジョンは焦点の合わないまま食堂から出て行った。急にどうしたんだあのアホは。
「……なんだったのかしら」
「さぁ? それよりも早く食堂係の手本を見せてはいかがです、先輩なんでしょう?」
「ストレートにサボるなって言いなさいよ……」
まあ考えていてもしょうがないし、実際サボってることに変わりはないけれども。ちょっと不安に思いつつも腕まくりをして、洗い場へ向かった。
……それでいい、はずだった。
「スイーツはいつからメニューに加わるんですか?」
翌日の昼営業、久々に食堂に現れたバジリスクの秘書さんがニコニコと尋ねてきた。これでもう十六人目だ。
「あー、えっとそのうち? ですかね?」
ジョンの作戦自体は凄く馬鹿だった。みんなにアイスがどれだけ美味しかったのか、プリンが美味しそうだったのかを伝え、味方につけ、大勢で駄々を捏ねようと思っていたらしい。
常識的に、まともな大人は床に這いずり回るどころか駄々すら捏ねない。
「楽しみにしてますね!」
ただ、ジョンが紹介しているうちに食堂の新メニューと噂されるようになってしまった。
今までの魔族たちといえば、ろくにご飯を食べずに干し肉やパンで過ごす仕事人で、その意識を変えたのが私だった。基本的に「食べたい」は叶えてあげたい。
というわけで曖昧に返事をしつつ、休憩時間に相談してみることにした。ジョンは叩いた。
紅茶を片手に狭い休憩室のテーブルを囲む。
「甘いもんはそりゃみんな好きさ」
「でもスイーツだなんて作っている暇がないよ」
「あたし達も太っちゃうわよねぇ!」
「タバサさんったら。確かに、お菓子は作るのに時間がかかるわ」
とマチルダ、クロエ、タバサ、ハナの食堂おばちゃん四人組。発言権のないセシリオは黙々とクッキーを齧っている。
「ですよね……」
正直お昼営業だけで精一杯。スイーツは計量が命だし、失敗した時のリスクが大きい。ベーキングパウダーとか乳化とか、まさに料理は化学。そんな難しいことをしている暇はないし、ただでさえ人手が……。
「は?」
正直持て余している新入りがいた。包丁や焼き加減の調整とかはできないけど、死ぬほど数字に細かくてめんどくさい奴がいた。
料理とお菓子作りってちょっと違うし、ちゃんと原理とか教えたら、もしかしていけるんじゃない?
「待ってください、あなたもしかして」
前世で行きたかった場所に、スイーツの食べ放題があった。コミュ障故に一人では入れず、画像でしか見たことないけれど、おっきなケーキが小さく等分されて並べてある素敵な空間だった。




