6. その手はズルい
茶色い立派な大きな翼。白髪に黄色の瞳。魔王とはまた違ったタイプの整った顔。
「あ、あんた、なんで……!!」
元四天王、裏切り者の財務部総監。世界を滅ぼそうとグリフォンに擬態して魔王城に潜り込んでいた鷲の獣人、セシリオ・エル・ガルセス……!
「いちいち大声を出さないと喋れないんですか、あなたは。マンドレイクじゃないんですから」
「なっ!!」
嫌味ったらしく鼻で笑うセシリオ。いつも牢屋にご飯届けてんの誰だと思ってんのよ。まったくどうしてここに……いや魔王が呼び出したからだけど。ということは、護衛で食堂係の新入りって……。
「ちょっと魔王!?」
「セシリオは監視付きの降格処分となった。……隷属の証付きだ」
嫌そうに目を伏せる魔王に、セシリオは呆れたように手首を見せる。アーモンドのような形に横長の瞳孔。さっきの魔法陣にあったのと同じ、羊の目のような模様があった。
「契約であり、拘束魔法の一種ですよ。私は魔王様に逆らえませんし、居場所は常に知られ、行動は記録されています」
本来は死罪だろうから、それに比べれば軽いのかもしれない……けど非人道的だ。でも魔族なのにそれで傷つくところが魔王らしいっていうか。多分もっと軽い処分を言い渡そうとして、竜のおじいさんとか四天王から反対されたのだろう。
「セシリオは元四天王だ。護衛として、実力は十分だろう」
確かに、剣技で攻めてくるグリフォン戦は前世でプレイしていた時に苦戦した覚えがある。グリフォンの姿で現れたと思ったらすぐ人型になって、そこからは隙のない剣さばきで距離を取らないと大変だった。結局魔法で攻略しなきゃいけないほどに強かった。
けどそれはそれ、これはこれ。
「嫌よ、絶対行かないから!」
他に方法がないかどうかは私も一緒に考えるから。せっかく生贄という死亡エンドから解放されたのに、今度は異国の地なんて無理。
きっぱり宣言すると、慌てふためく魔王、オルトロス、ギガンテス。バジリスクは予想通りとばかりにねちっこい笑みを浮かべたまま。
「特別手当はもちろん出すっ」
「行ってもらわなければ同盟が!」
「困るゼェ!」
「頼ム」
実際は高身長共に詰められている図なのに、情けない魔王の姿や子犬姿のオルトロスのつぶらな瞳の幻覚が見える。けど、そんな可愛い顔したって私は頷かない。
そもそも私はインドアで、外出なんて買い物以外しない。お出かけと言ったらカ●ディーか成●石井を覗くのがせいぜいだったのよ。社交的はコミュ障の対義語。絶対うまくいかないし、嫌なものは嫌だ。
「……話くらい最後まで聞いたらどうです? 行けば経費で、異国の料理が食べられますよ」
頼むと嫌の押し問答の中、セシリオが口を挟む。私はピタリと固まった。
「炒飯」
黄金に輝く美しい姿が頭に浮かぶ。
転生し、しばらく作れて、いや食べられてすらない中華料理。冷ごはんでできるから前世ではお昼とかによく作ってた。どうすればパラパラになるのかの試行錯誤やアレンジが楽しい一品だった。魔王城でもきっと喜ばれるだろう。
「麻婆豆腐」
とろりピリッと辛い大皿料理。今は香辛料とか技術の問題で難しいけれど、前世では素とかで簡単に作れて、色々試していた。死ぬまでに友達が出来たら中華料理屋で食べてみたいと思ってた。思ってたけど友達ができる前に死んだ。
「エビチリ」
スーパーでエビが安くなるとつい作っちゃってた。甘くてプリプリで最高だった。きっと女性魔族も好きな味だろう。
「小籠包」
外はもっちり、お口の中でじゅわっと広がる肉汁とスープがたまらないやつ。バジリスクに蒸し器を作ってもらって大量生産を……。
「胡麻団子」
お弁当用のやつを食べるたびに、本場のカリっと香ばしいのが食べてみたいと思ってた。中華料理デーみたいなの作ったら、定食につけたい甘味。
「……い、行きます」
血涙を流しながら、そう絞りだした。
四……現在では三天王がセシリオの鮮やかさに拍手する。魔王はあからさまにホッとしながらも……なんだか変な顔をしていた。どういう感情なの、それ。セシリオは満更でもなさそうにドヤ顔してるし。
「くっ!! この人でなし!」
「獣人ですから」
あああ余裕ぶった顔がムカつく。セシリオが勝ったんじゃない、私が中華料理の魅力に負けた。
かくして、私の外務総監就任、短期出張は決定された。セシリオは食堂の新入りとなった。魔王たちは計画を進め、私は後輩の育成をしつつ待機。
しかし元裏ボスの先輩が元悪役令嬢って一体……。
「これからよろしくお願いしますね、先輩」
「ちゃんと言うこと聞いてよね、後輩」
その上、プリンを食べ損ねたジョンが盛大に駄々をこねたことによって、魔王城にスイーツブームがくることなど……この時の私には知る由もなかった。




