5. ちゃんと説明して
「……何を勘違いしているんだ?」
「馬鹿ねぇ」
静寂の後、魔王やオルトロス、ギガンテスは首を傾げ、バジリスクはクスクスと笑う。予想外な反応に、胸を張ったまま固まる私。
まさかあの会議は私の妄想だった? とつい二、三時間前の記憶がフラッシュバック。どう考えても現実だったし、じゃないとバケツプリンを作ってない。
「だ、だって言ってたじゃない! 大陸に送るとかマフィアとかモツとか!!」
途端に弱くなった気がして慌ててそう叫ぶと、魔王たちは顔を見合わせて、少し考えた後笑った。バジリスクは「やっぱりねぇ」とか言ってる。
あんたたち、人の死活問題で何笑ってんのよ。
「ふはっ……記録用水晶玉を見てみるといい」
こっちが混乱しているのも知らず、会議室の真ん中に置かれた水晶玉を呑気に叩く魔王。けど何も映らない。どうやら古い品物らしい。再度叩いたり落としたり、格闘の末にバジリスクがビリビリした魔力を流すと、水晶玉に魔王達が映った。
『大陸は人間の規制が緩いとはいえ……本当に送るべきなのですか?』
『危険だぜェ』
まずはオルトロスがアップで映る。いつもは舌出して阿呆面してるチャーリーまで真面目な表情だ。
『そうねぇ、あそこはマフィアが横行してるらしいじゃない。若い臓器を持ってるエリザベスなんて危険よぉ』
次にバジリスクが映る。今は上着を脱いで帽子も外してるからわかんなかったけど、今日はバジリスクも軍服……正装だったのか。なんか鞭とか似合いそう。……じゃなくて、ん? なんだか思ってたのと逆方向な会話だ。
『しかし幹部クラスを連れていけば死ぬことはないんじゃないか』
『外国に行ける幹部はいないはずダ』
眉間を抑えた魔王が苦肉の策のように言うけれど、ギガンテスが静かに補足する。一同は黙って悩み、そこで映像は消えた。
……たし、かに、数時間前に私が聞いた声だった。
「ということは、私のモツは無事なの?」
「モツ……はよくわからないが。エリザベス、お前には外務総監に就任してもらう」
外務、総監?
謎の悪寒が走る。ねぇ魔王。今、外務とか言った? コミュ障の食堂係とは一生涯縁のないであろう役職に就任とか言った?
「食堂を立て直せたら幹部にするという約束だっただろう」
確かにそんなこともあった。あのシチュー作った初日に取引をした。けど、それは魔王城で安全な生活を送る上で欲しかっただけで、今や私を襲うような馬鹿なんていないし。
助けを求めるようにバジリスクの方を見るも、意地の悪い笑顔で首を振られる。オルトロスは昇進だぞってこっちに祝いの圧をかけてくるし、ギガンテスなんて目も合わせてくれない。
「無理ってことは大前提として。どういうことなの、ちゃんと説明してちょうだい!」
きょとんとしている魔王に詰め寄る。喜ぶわけないでしょ。私はてっきり食堂係の一番上とか想像してたわよ。
「いや、今まで外務はほぼ無かったこともあり、行政部が兼任していたんだが……」
この世界には、こことは別の大陸がある。私たちが住んでいるのは西の大陸で、その対極である東の大陸は、人と妖魔が縄張り争いをしていて、似た状況らしい。
魔王たちの結論として、殿下が説得したところで人間が侵攻をやめることはないという。だから、ひとまず聖女を倒した今、人間側が次の手を用意してくる前にその東の国と同盟を組みたいのだとか。
けど、東の国は数百年前から鎖国していて、繋がりがあるのは貿易の要、中央の大陸の皇帝のみ。だから、まずは中央の大陸とやりとりをしないといけない。
「だが、皇帝が嫁探し中なせいで、中央大陸に妖魔の出入りが厳しくなっているのが現状だ。約束を取り付けるだけで数十年はかかるだろう」
バジリスクがわざとらしくため息を吐く。人間なら逆に緩いのにって。
魔王城関係者で人間なんて……あ。
「……ま、まさか」
「ああ、魔王城を代表して中央大陸に行ってきてほしい」
「はぁ!?」
話を聞く限り、中央の大陸が危ないところであることには変わりがない。そんなところに、ただの人間且つコミュ障の私が行く? 無理だけど?
「安全面で問題が心配なのは俺たちも同じだ。だから、護衛を付ける。なんなら食堂係の新入りだ」
某ポケットから便利道具を探すような軽い感覚で、スッと魔法陣を展開する魔王。眷属を呼び出す時と似てるけど、真ん中に大きな羊の目のような模様がある。それに、なんだか禍々しい。
「……なんです、急に」
てってれーとばかりに現れたのは、シンプルなシャツとズボンを履いた青年……って、ん? この声、聞き覚えが……。




