52. 物語は変わる
「何をする気ぃ?」
バジリスクが片眉を釣り上げた。でも調べてくれてもいる。
「兵糧を作って、配りに行くのよ」
全然そんな気はしていないけれど、私の料理には絶大な回復作用があるらしい。これは四天王たちで証明済みだ。今あれば、必ず役に立つ。
持ち運びやすくて、簡単に作れるものと言ったら、おにぎりだ。バジリスクのおかげで季節関係なく生産できるチートな炭水化物だし。
「ねぇ、大きなお釜ってないかしら?」
私だって在庫については大まかに知っているし、作ることは決定事項。返事を聞く前に進めていると、調べ終わったらしいバジリスクが大きなため息をついた。
「……自分が人間だってこと、わかっているの? 死ぬわよ」
冷たく、蛇の威圧を持ってそう言われる。
ええ、そうね。でも残念。私はもう腹を括ってるの。
「だからこそよ。聖女サマは人間の私を殺そうとはしない。兵糧を届けるのにはうってつけじゃない」
言いたいことはわかるわ。
バジリスクはきっと、魔王がどんな気持ちで私をここに送ったか知っている。それに、魔王と同じ気持ちでいてくれたから、ここに匿ってくれていることも。
「魔族全員があんたに好意的なわけじゃない」
「最初に比べれば随分増えたわよ」
……最初はあんな態度だったのにね。あ、それは私もか。
とりあえず、マンドレイクのおばあさんの家の戸を叩く。おばあさんは快く大釜を貸してくれた。
しかし大釜を一人で持つことはできず、迷っていると四つの影が。
「マチルダさん! クロエさんにタバサさん、ハナさんも!」
「やっぱりあんたもここにいたのかい」
ホッとしたようにそう言うマチルダさん。……なんで食われてないんだ、とは言わないのね。
「でも、帰ったはずじゃ……」
「家にいるよりこっちの方が安全だからね」
「んもー、通帳と印鑑が見つからなくて大変だったわ!」
「タバサさんったら……あのね、避難指示が出ているのよ」
いつも通りのおばさま方を見てると気が抜けてくる。
そうなんだ。魔王が負けたらどこまで人間が侵攻してくるかわからないものね。確かに。
「おにぎりを作って配ろうと思うんです、手伝ってくれませんか?」
「なぁに言ってんだい!」
腰に手を当てて凄むマチルダさん。怒られ……。
「そのために来たんだよ」
ああなんて頼もしい太い腕。大釜や机を軽々と運んでくれた。私も塩とかいろいろを用意していると、マンドレイクのおじいさんが怖い顔でこっちにやってくる。
「……火の準備、してあっから」
え、ええ!?
思いもよらない言葉に目を見開く。
「あ、ありがとうございますっ!」
「言っとくがな、儂はおめーを認めとらんからな」
おじいさんに感謝しつつ、大釜に升の量の米を入れる。もう合じゃない量にも随分と慣れた。川の水と言っても人工だから安全な水を汲んできて、軽く研ぐ。1.2倍くらいの容量の水を入れて、このまま浸水させておく。
待っている間に持ち運び用のかごや包む笹の葉を用意する。冬だからカサついていて色も悪いけど使えないわけじゃない。
「もうすぐ炊けそうだよ!」
水で手を濡らして、塩をまぶして、ふんわりと握る。どうか、みんなのお腹が満たされますように。……そう考えると、おにぎりって祈りと似てる。
「ちょっと!! アタシを呼びなさいよ!」
なんてふと思ったところに野太い声が。
「ジュリエット!! 生きてたのね!!」
「勝手に殺すんじゃないわよォ!!」
ごめんて。でもこういう状況なんだもの。
「でも呼ぶって?」
「あら、アナタ知らないの? あんだけ契約結んでおいて?」
どうやら雇用契約であろうとなんだろうと契約だから、眷属……使い魔扱いらしい。そんな簡単に契約結んでよかったのか。
「だから呼び出せるわよ」
でもピクシーの手じゃ小さすぎて握れないだろうし。いや、そういえばお椀で作る方法があったような……。
「どうやるの?」
「魔法陣にちょっと血を流せばいいわ」
飲食関係者が手を傷つけるのは衛生的に……というわけで借りたナイフで足を切りつけた。痛いけどひとりぼっちの怖さに比べたら全然マシ。
「あんたって大胆よね」
「何が?」
魔法陣は描けないからジュリエットに描いてもらって、いざ。
「エリザベスの名において命ずる。汝、仕えし者、ここに顕現せよ。……うぇっ、凄い数」
魔法陣がオレンジ色に光ってピクシー達がどかっと現れた。あまりに大量すぎて、ちょっとグロッキー。
でも、一気に効率化した。みるみるうちに大量のおにぎりが出来、笹の葉に包まれ、カゴの中に入っていく。食堂の厨房と変わらない光景だ。
重いけど、ギリギリ背負える。残りは避難してきている人たちのために。
「じゃあ……行ってきます!」




