51. 食い食われ
「嘘なんて関係ないのですよ。社員食堂なんてもの、無くな……」
セシリオが全てを言い終わる前に、魔王は魔法陣を出して転移させてしまった。
……社員食堂が、魔王城がなくなってしまうかもしれない。それは、私がやってきたことは無駄だったということで、私はもう食堂係じゃなくてただの生贄で。
『四天王に伝令する、聖女襲来。各自持ち場につき、非戦闘員を避難させろ』
魔王はもう動き始めているのに、私は呆然とすることしかできない。
聖女が来るって言ってたけど、ジョンは大丈夫なの? 負けたってギガンテスが? さっき帰ったマチルダさん達は大丈夫かしら。ジュリエットとかピクシーは? オルトロスやオーガのお兄さんたちは戦ってるの? バジリスクや研究員だって……。
「とりあえず牢へ送った。エリザベスは地下へ逃げろ」
連絡を終えたらしい魔王がこちらを振り返って魔法陣を出す。
「え、で、でも……」
私を食べなきゃいけないんじゃないの?
「俺は、お前を食いたくないんだ」
魔王は最初から変わらない。人間を食べない、魔族を狩る人間とは同列にならない。でもだからこそ、今は魔族を優先するべきなのに。
「お前はずっと、俺のことを怖がっていたな。自分を殺す存在だと」
魔王が苦しそうな顔で言う。
「だが、お前が魔族を嫌わず、魔族に寄り添って、魔族のために料理を作っているのだと知るうちに、お前を食うことなんて考えられなくなっていたんだよ」
そういえば、初めてごはんを作ったあの日、魔王のことが若く見えた。何考えてるかわからなくて、でも優しい魔王。何考えてるのかわかんないわけじゃなかった。甘いことを見抜かれぬよう、わからないようにしていたんだ。
「……な、なんでよ。食べなさいよ、私のこと。じゃないと、みんな死んじゃうじゃない」
私だってそうだ。魔族が私たちとあんまり変わらないことを知った。人間と同じく食べて、寝て、働いて。あれ食べたいって思うこともあれば、おいしいって幸せを感じることもあって。
もちろん人間だからって嫌な思いをすることもいっぱいあったけど、優しくしてもらったことも同じくらい、いやそれ以上にあった。
「第三形態になったところで、勝てるかどうかはわからないんだ」
馬鹿なお人好し。弱い奴。人間と同列になりたくないっていうのも本音だとはわかってるけど、優しいから殺せなくて、弱いから失いたくないだけじゃないの。
「……みんなにごはんが作れないなら、死んだっていい」
魔王が負けたら、みんな殺されて魔王城は壊されるだろう。そして、人間だからって私だけ生き残る。そんなの絶対に嫌。
「俺が、死んでほしくない」
キッと睨みつければ、魔王は困ったように眉を寄せて、優しく笑った。
────眩しい光に包まれて、暗転。顔を上げれば、そこは地下空間だった。
責任者のバジリスクが指揮を執って、弱い魔族が避難を進めている。食堂の食糧確保のために作ってくれた場所が、避難場所になるなんて。
「こ、小娘。何ぼうっとしているのよ。小娘がここにいるってわかったら、騒ぎが起きるじゃない。早く他の子たちとは別の場所に……」
バジリスクが私に気づいて、慌てた様子で駆け寄ってくる。
ああ、何してくれやがったんだろう。あの馬鹿魔王は。勝手に決めつけて、人の言うこと聞かないで、安全な場所に送って。
「ねぇ、お米の備蓄ってどのくらいあるかしら?」
絶対許さない。思い通りになんて動いてやるものか。まだ正式に解雇って言われてない。私は食堂係だ。




