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48. 嘘……



「こんにちは」

「え、ええ。こんにちは」


 メガ盛り週間が終わって、混雑も落ち着き、通常営業に戻った頃。冬に近づいてきて肌寒い日々。お昼営業終わり間際の人の少ない時間に、グリフォンはよくやってくるようになった。マチルダさん達はグリフォンも丸くなっただの言ってたけど、私にはどうも、受け入れられない。


「ええっと、見ての通り日替わりは終わっちゃって……残っているのはパスタ系なんですけど」

「それは残念ですね。ではミートパスタでも買うことにします」


 今日もおすすめが書かれた黒板を書き直していたところにやってきて、言葉では残念がりながらもまったく動じていない。まるでここで食事をして、敵じゃないのをパフォーマンスするために来ているような、そんな風に感じる。

 とはいえ、話に入れない代わりに顔色を窺うコミュ障ゆえの考えすぎかもしれないけど。とりあえずパスタを食べる所作はとっても綺麗。お堅いイメージ通り。


「え、エリザベス様ー!」


 怪しみながら観察していたところでジョンが騒がしくやってきた。いつも通り二番手に来て食べて戻ったはずなのに。おやつ貰い忘れてたとかどーせまたしょうもないことを言うんだろう。


「あんたそろそろ持ち場に戻らないとやばいんじゃ……」

「いやいやいやいや大ニュースだから!」


 歯をカチカチ鳴らして大げさに手を振るジョン。一体なにがあったんだ。まさか念願の骨の白い彼女ができたとか? まさか。

 

「聖女がオイラの戦場エリアの近くまで来てるらしいんだって!」

「……もう?」


 ちゃんと大ニュースだった。グリフォン戦こと天空の頂エリアが終われば、忌みの沼地や仲間割れイベントが起こるはずだ。なのに、そこを抜けてもうやってきたの? さすがに早くない?


「ウェー、オイラ聖女を影に引きずり込める自信ないよォ」

「私のチキンカレーを粗末にしておいて今更何言ってんのよ。人間が嫌いなんでしょ?」


 足元から崩れてなんかピーピー喚いているジョンにそう言ってやる。カレーの恨みは忘れない。


「だって、これがエリザベス様だったらって考えるとー」

「聖女が来たら私だって魔王に食われちゃって困るんだから、ほら頑張って」


 なんて適当にあしらうと、オイラ下僕だし、言うこと聞くだけだし、なんてブツクサ言いながら持ち場へ戻っていった。

 そういえば最近全然魔王を見かけない。やっぱりストーリーの進行が速いから忙しいんだろうか。


 私もお昼休憩を取って、午後の仕事をして、相変わらず食堂に残っていた。とはいえ聖女のことで私にできることはないから、もちろん食堂について。一番大事な施設ボロい問題が残ってる。


「とはいえなぁ……」


 グリフォンが予算アップしてくれるとはいえ、この広い施設を立て直すほどのお金はない。それにその間は休業になってしまう。客足の良くなってきた今閉めてしまえない。

 鉛筆を回し始めたところでドアの開く音がした。やっと会いに来て……。


「こんばんは。昼間はどうも」


 そこにいたのは魔王ではなく、グリフォンだった。驚いている私に向かってにこりと笑ったまま食堂に入ってくる。


「な、何の用?」


 予期せぬ客は、大抵悪いと相場が決まっている。ましてやグリフォンなんて……。

 睨みつけてそう聞いたものの、グリフォンは無視して、鼻で笑った。


「結界に、マチルダさんとは……魔王様もたかが生贄に手厚いことですね」


 は? 結界?


「おや、その様子ではご存じありませんでしたか? この食堂には悪意あるものが入れないよう結界が張ってあるのですよ」


 初日から張られていたせいで随分と苦労しました、と続けるグリフォン。

 魔王ってば、あんな態度だったくせに……。やっぱり最初から優しかったんだ。


「さて、世間話はここまでにしまして」


 グリフォンの雰囲気が変わる。


「そろそろ死んでいただきましょうか」


 そうしてグリフォンの手は黒い魔力を帯びた。

 まさか、そんなのって……。予算アップは、嘘だったの。でも、だって。

 

「こ、殺したら、困るのはあなたの方よ」


 聖女が来るかもしれないというのに、魔王が最終形態になれなくなってしまう。今私を殺せば、他の魔族が黙っちゃいない。


「ええ。聖女に勝つのは難しくなり、魔王様は負ける。しかし、私としてはとても都合がいいのです」


 肩が焼けるように痛い。こっちって確か、あの時触られた……。

 じわじわと何かに浸食されていく。手には唐草のような模様が浮かんでいた。


 もしかして、本当に、死ぬ?

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