46. 地獄からの呼び出し
「大変大変、大変だー!」
「何よそんなに慌てて、ほら、肋骨の一本落としたわよ」
昼営業前の忙しい時間にジョンがやってくる。骨しかないはずなのに顔面蒼白といった感じの様子にちょっぴり嫌な予感がした。
「グリフォン様が、財務部に来るようにって……」
その瞬間、熱気で暑いはずの食堂は氷点下になった。
「えっ……」
思い当たる節は山ほどある。それこそバジリスクに甘えて研かつ部の予算で地下菜園作ってコストカットしたとか、ラーメンで新メニュー開発費が底を尽きかけたとか、正規ルートじゃなく香草をぶっちぎってきて振る舞ったとか。つつかれれば埃しか出ない。
「あたしが行くよ」
マチルダさんが戦場へ向かうかのように雄々しい顔で三角巾を取る。今日ほどマチルダさんの熊のような背中が大きく見えたことはない。
「いや、それがエリザベス様指名で……」
オーマイゴッドってこういう時に使うんだな、と思った。ここは魔王城だけども。
「いいかい、気を強く持つんだよ」
「骨は拾ってあげるからね」
「いや私さっき拾った方なんですけども……」
マチルダさんが背中を叩き、クロエさんが可哀そうなものを見る目で慰めてくれた。
「何があっても私たちは味方だからね」
「ほら、飴ちゃん持ってって!」
ハナさんが手の甲を撫でてくれて、タバサさんから飴ちゃんを持たされる。優しくされるたびに恐怖が増していくのはなぜだろう。
いちゃもんをつけられないようになるべく早くということで、昼営業が終わったらすぐに直行。魔除けにジョンを添えて。
「オイラまだ死にたくないーー」
「あんたアンデットでしょ、大丈夫よ」
財務部は魔王城の中心、隠し通路の先にあった。古めかしく豪華な扉には魔法で鍵がかけられていて付いている鐘を鳴らす。震えが止まらない。すると扉が開いてハーピーの秘書さんが現れる。七三分けで、シャツもピッチリしてて……とてもお堅い雰囲気。研かつ部とは大違い。
「エリザベス様でございますね。グリフォン総監がお待ちです」
一寸たりとも乱れのない部屋で、誰もが魔道具で計算している。なんか、恐ろしい。
その一番奥の席にグリフォンはいた。初日に見た通りの真っ白な軍服に身を包み、書類に目を通している。こちらに気が付くと立ち上がって……。
「まずは非礼をお詫びさせてください」
頭を下げた。え、バジリスク、マチルダさん、聞いてた話と違うんですけども!?
どうすればいいのかわからず、とりあえずジョンと一緒に頭を下げ返す。
「ああ、そう身構えないでください。今日お呼びしたのは食堂の存続の件についてお話しすることがありまして」
思っていたよりも柔らかい口調。優しい雰囲気。だからこその、違和感。この人は、何を企んでいるの。いやでも、疑ってかかってはよくないし……。
「ここ数か月のデータを見ましたが、食堂は確かに利益を出しており、あなたはその要ともいえるでしょう。私は貴女を認め、次の評議会において食堂を存続させる方に票を入れます」
窓なんてないのに、グリフォンに後光が差している気がした。
「あ、ありがとうございますっ!」
オルトロスやバジリスク、ギガンテスは存続の方に票を入れてくれるだろうとは思ってた。けど、グリフォンも入れてくれるなら、満場一致だ。食堂は存続できる。
「ですので、適切に扱えるならば予算の増額をと考えているのですが、いかがでしょうか」
「ぜ、是非お願いしますっ」
その上まさかこんないい話だと思わず、心の中でガッツポーズをする。食い気味に返事をして、九十度に頭を下げた。
肩にポンと手を置かれ、期待していますよと言われる。……あれ、今なんか悪寒が。
「話は以上です」
グリフォンは笑みを浮かべて退出を促した。また秘書さんに案内されて、廊下まで出る。なんだか肩の荷が下りたような、増えたような。
「やったじゃないですか~」
「え、ええ」
そんな私のもやもやもつゆ知らず、ジョンは能天気にスキップしている。
……ただの思い込み、よね。
「どうかしましたか?」
「ううん、より一層頑張って新メニュー作らないとって」
「味見係は任せてくださいよ~」
まあとにかく、できることをやるしかないか。食欲の秋だし。




