40. 私はエリザベス
「私たちは西の国……であってるんだっけ? あ、あってるのね。西の国の魔王城の使者としてここに来たの」
正直シリーズⅠのクリアまでしかやってないから自信がなくて、セシリオで確認する。そんな呆れなくていいじゃない。なりたくて外務担当になったわけじゃないのよ。
「皇帝陛下に謁見させてもらって、鎖国してる東の国に書簡を送ってもらうために」
魔王城が人間に脅かされないよう、仕方なく。あと、セシリオに中華で釣られた。
「百面相やな」
白露さんは特に驚いた様子はなかった。ただ静かに煙管を吹かしていた。
「……ほななんで龍黒会の下っ端をしばいたん?」
「そ、それは偶然っていうか、知ってるでしょ!?」
料理にわざと虫を入れて、あまつさえ投げ飛ばしたんだから。しかもそれを被った私が正気でいられるはずもなく。殴り飛ばしちゃう条件が揃いすぎてた。けど、やらかしたのは事実。
思い出して怒って反省する私を見て、こらえながらも笑いが漏れてる白露さんを、キッと睨む。
「ふっ……ふふっ……かんにん、許してや」
どうやらおもしろいらしい。まあでも、あの雰囲気のままじゃないだけマシかしら。
「改めて、私はエリザベス。元々は貴族令嬢で王子の婚約者だったけど……聖女を虐めた主犯として断罪されて……魔王への生贄にされた……とにかく魔王城の食堂係よ!」
自分で言っといてなんだけど、変な経歴。あとなにか紹介できることあったかしら。
「えーっと、家族は……父と母と養子の従弟がいたわ。婚約破棄された時点で家族されたから、今はいないけど」
「……初耳ですが?」
「あれ、セシリオに言ってなかった?」
なんなら前世も家族はいない。父は再婚して、腹違いの弟が生まれて、家にいづらかったから、ずっと一人暮らししてきた。
「でも、魔王城の社食が家みたいなものよ。ちょっと生死に怯えてはいたけど、充実した日々を送ってきた」
今は寮暮らしだけど、働いて、休みの日はジュリエットやバジリスクとお茶して、新しいメニューを考えて、前世よりも令嬢時代よりも楽しい毎日を過ごしてる。あとは……。
「好きな食べ物はオムライスとカステラ」
ふわふわでとろとろなやつが好き。カステラはスキレットで作るやつ……と、ここでもう何も浮かばない。プロフィール帳とか流行ってたけど、途中からグループからはぶかれて空気扱いだったから、もう内容とか覚えてない……。
と、ここで奥で紅玉と一緒にいたジョンが出てくる。こういう時にじっとしてられないやつだから。
「オイラはねー! ジョン!」
「……知ってるわよ」
「家族とかよくわかんないけど、エリザベス様の下僕!」
「カレーを床にぶちまけて踏んづけた罪でね」
私はまだ許してないからね。罪を憎んで人を憎まず。されど許すとは言ってない。
不穏な空気を感じ取ったのか、ジョンは明るく骨を叩く。
「オ、オイラはねー! エリザベス様の作るやつ全部好き!!」
「ぐっ!」
反射的に嬉しいと思ってしまう自分のチョロさが憎い。こいつはただの食いしん坊なのに。
ジョンのツルツルでちょっと汚い、ちいさな一本角の生えた頭をぐりぐり撫でた。ジョンがきゃあきゃあ言ってるけど聞こえない。白露さんはその様子を見て、小さく息をついた。流れを察したのか、セシリオも口を開く。
「……はぁ。私は」
「ああっと、あんたはええよ。もう、ええよ」
白露さんが立ちあがる。
「なぁ、ボクを信じることはできる?」
怪しいとは思ってる。けど、だからと言って、信じずに、本人に伝えるのは違うと思う。
「ええ、信じるわ」
「ちょっ、これだから貴女は!」
「いいから黙ってて!」
白露さんは紅玉の元に行き、片膝をついて視線を合わせ、紅玉の札に手をかざした。ブツブツと何かの術が聞こえてくる。淡い光と共に漢字が浮き出てきて、紅玉の胸元に入っていく。
「これでヨシ」
浮かんだ文字はすべて消え。立ったままだった紅玉がすとんと座る。珠が、光らなくなった。
白露さんはこっちを振り向いて語る。
「落ち着いて聞いてや。内通者は、この子ぉや」
「今日ボクがきたのは、この子ぉの術を惑わしの術で上書きするため」
「あんたたちみたいに全ては言えへん。言うたらあんたたちは必ず止める。ほんでも、ボクはやらなあかんことある」
紅玉が内通者? 惑わしの術? やらなきゃいけないこと?
「あんたたちが龍黒会に接触する……ここの事情を引っ掻き回すこと、ボクは望んでるさかい」
……どういう、こと?
次回は明日のお昼更新です。リアクション、コメント、ブクマなど励みになります。
追記 今日は夕方にさせてください。




