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レディ アンド ガーディアンズ;8

 初戦を勝利で飾った夜、“ナゴヤ・セキュリティズ”のメンバーを襲った暴徒を、魔法少女“マジカルハート・マギフラワー”が打ち倒した事件……その、翌日。 セキュリティズの試合がある日ではなかったがレンジはメカヘッドに連れられ、“ネオ・コーシエン・ドーム”にやって来た。


「うわ……」


 レンジは、いつも通りの擦り切れたライダースーツ・ジャケット姿でVIPルームに足を踏み入れる。煌めく調度の内装と贅を尽くしたオーガニック・フレッシュ・フルーツ、オードブルが溢れるように盛り付けられた様に目を丸くして、入り口近くで突っ立っていた。


「お二人とも、ようこそお越しくださいました。レンジ様は、春に少しだけお話ししたきりでしたわね。改めて、自己紹介いたしますわ」


 出迎えた娘は年齢不相応なほど悠然と、優美な振る舞いで頭を下げる。


「わたくし、ミュータントの方々を支援する“平穏なる木漏れ陽の会”を主催しております。ケイカ・ナゴノと申します。今後とも、どうぞお見知りおきを」


「ええ、ええと……レンジです。ヒーローやってます」


「はい! よく存じ上げておりますわ!」


 すっかり固まりついて、ぶっきらぼうな挨拶を返すレンジ。ケイカ嬢は相手の言動もお構いなし、という様子で目を輝かせている。


「昨夜も、レンジ様が活躍する場面をメカヘッド様とご一緒に楽しく拝見しておりましたもの! わたくし、“ストライカー雷電”と“マジカルハート”の大ファンなんですの! もしよろしければ、サインを頂けますかしら? 事件が解決した後で、構いませんので……!」


「ははは、サインなんて書いたことないですけど、それでもよかったら……」


 俺がいないところで、何やってんだメカヘッド先輩!


 引きつった笑いを貼り付けながら、非難の念を籠めて機械頭の同行者を見やる。メカヘッドは素知らぬ風で部屋の隅のソファに身体を預け、テーブルに置かれたブドウを摘まんでいた。……チクショウ、好き放題しやがって!


「あら、いけませんわ。今日はお願いがあって、レンジ様とメカヘッド様に起こしいただきましたのに! さあ、こちらに……」


 そう言いながら、レンジをVIPルームの中ほどに招き入れる。


「今、わたくしどもが置かれている状況について、ご説明いたしますわね」


 ケイカ嬢は話しはじめた。年末年始にミュータントの歌姫・チドリをオーサカに招こうと計画していることについて、そして番組を配信する権利を賭けて配信会社の社長と争っていることについて、そして“平穏なる木漏れ陽の会”に向けられている脅迫について……。 一通りのあらましを聞かされ、更には競技場内で行われているヤキュー試合そっちのけで“ストライカー雷電”の活躍映像上映会に巻き込まれているうちにレンジの緊張はすっかり解けて、メカヘッドと並んでオードブルのプロテイン・キューブを摘まんでいた。


「『サンダーストライク!』」


「『”Thunder Strike”』」


 室内に設けられた特大プロジェクターの中で、鈍銀色のヒーロー……ストライカー雷電が必殺技の発動コードを叫ぶ。全身に走った電光が足先に集中し、放たれたドロップキックは光の矢の如く、重装甲パワードスーツに突き刺さった。敵の胴体に大穴が空き、爆発四散! ……そして画面は停止し、溶けるように映像が消え去った。 リモコンでプロジェクターを停めたケイカ嬢は、1人でパチパチと手を叩いている。


「素晴らしい! この闘いも、お見事でしたわ。レンジ様、いかがでしたか?」


「はは、自分が夢中になって闘っている映像を見るっていうのは、どうにも慣れませんね……」 成り行きで始まった上映会につき合わされてすっかり疲れ切っていたレンジは力なく、ややきまり悪そうに返す。メカヘッドは自分が矢面に立っていないのをいいことに、だんまりを決め込んでいた。


「いえ、いいえ! 素晴らしいご活躍ですわ! もっと自信を持ってくださいな! ……そうだわ!」


 ぽん! と両手を大きく打つと、ケイカ嬢はニコニコしながらリモコンを操作し始める。


「今度は、メカヘッド様のご活躍も見ることができるお話にしましょう! 去年の冬、皆さまがイクシスと戦った時のお話が……」


「イクシス?」


 初めて聞く名に、レンジが声を上げる。何者だろうか? 何故だか、妙に落ち着かない名前だ…… メカヘッドも同じように感じていた様子で思わずソファから身体を起こし、ケイカ嬢に尋ねた。


「ケイカ嬢、それって、一体……?」


「あら、名乗っていなかったのかしら、あの方。……でも、そうですわね。自分から名乗るのが苦手な方ですもの……そうね、わたくしが間を取り持てばよいのだわ!」


 ケイカは独人でぶつぶつと言い、そして独人で納得した様子で手を叩く。


「わたくしの大切な友人のことを、お二人にご紹介したいのですけれども、よろしいでしょうか?」


 レンジとメカヘッドは、思わず顔を見合わせた。


「えっ? ああ……」


「まあ、いいですけれども……」


「ありがとうございます! うふふ!」


 ケイカ嬢はニコニコしながら両手を合わせる。


「その方はお二人とも、何度か闘った相手なのですが……」


「えっ! 何だって? ……“闘った”?」


 文脈を間違えているのではないか? という言葉を耳にして、思わず目を見開いて訊き返すレンジ。ケイカ嬢が説明を始めようと口を開いた時、室内にチャイムの音が響く。


「『ご来場の皆さま、本日の試合は終了いたしました。忘れ物ございませんようお気をつけて、気を付けてお帰りください。皆さま、本日試合は終了いたしました……』」


「あら、あら!」


 ケイカ嬢は困ったように微笑む。


「すっかり、話し過ぎてしまいましたわね! 名残惜しいですけれども、続きはまた次の機会ということにいたしましょう」


 そして再び、二人に深々と頭を下げるのだった。


「……それではお二人とも、“セントラル・ダービー”が終わるまで、よろしくお願いいたしますね」




「さて、成り行きでボディガードをするという事になったが……」


 ケイカ嬢を伴ってVIPルームを出ると、辺りを見回しながらメカヘッドが言う。


「問題は、どこで襲ってくるか、だな」


「“ネオ・コーシエン・ドーム”までの行き帰りの道が、一番危ないんじゃないですか?」


 レンジも周囲を警戒しながら言った。


「こういう、人の目があるところより……」


 VIPルーム前の廊下は、今日の試合観戦を終えたばかりの人々が熱に浮かれ、退館時間が迫るのを惜しむようにたむろしていた。そんな人混みの中、両手をポケットに突っこんだまま、こちらに向かって歩いてくる人影が一つ。


「ん?」


 パーカーを着てうつむき気味にフードを被り、表情は伺い知れない。両腕は肩口から、妙に太かった。ポケットからわずかに覗くのは、金属質の光沢。サイバネ義手だ。 だがこの、腕の太さは尋常じゃない。……戦闘用か! 来る!


 レンジは駆け出していた。躊躇わずに踏み切って全体重を乗せ、迫ってくる男を蹴り飛ばす。


「オオ……ラアアッ!」


「ガッ!」


 パーカー姿の男は受身もままならずに廊下を転がっていく。


「この、野郎ォオオオオオオオ!」


 怒り狂った声を上げ、腕を床に叩きつけるようにして、勢いよく跳ね起きた。


「ウオオオオオオ! 殺す! コロス! ころすゥウウウウウウ!」


 フードが落ち、血走った眼が露わになる。男は獣のように吠え、レンジに向かって駆け出した。走りながら両腕を振り回すと、肘から先の布地がウドン・ヌードルのように細切りに裂けた! 刃物を仕込んでるのか!


「やる気かよ、こんなところで!」


 レンジはそう言うと、レバーがついた鈍銀色のバックルを取り出し、自らの丹田に押し当てた。バックルの左右から銀色のベルトが飛び出して、レンジの腰にするりと巻き付く。 バックルのレバーを引き下ろしながら、レンジは叫んだ。


「変身!」


(続)

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