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96・【side 魔族ジョジゼル】

すいません、いつもの時間より遅れてしまいました。

今回はジョジゼルの視点です。

 魔族ジョジゼルは、幼い頃から同族を操る術に長けていることを自覚していた。

 まだ子どもの頃、部下であるモンスターを率いて、魔族学校の大会で優勝したこともある。


 無論、魔族ということもありジョジゼル自身の戦闘能力も高い。

 故に、今回——イノイックとかいう辺境の地は、ジョジゼルの手にかかれば一瞬で潰せるだろう。


 ……そのはずだった。


 まずは凶悪なモンスターに洗脳魔法をかけ、イノイックに行かせるという戦法を取った。

 自分の手を汚さずに、任務を遂行しようと。

 正直、最初にキングベヒモスを行かせた時点で決着は付くと思った。

 しかし待てども待てどもキングベヒモスから連絡はない。どうやら、イノイックの冒険者にやられてしまったらしい。


 その後、ポイズンベアといったモンスターも行かせたが、あまり感触は良くない。

 まあキングベヒモスとポイズンベアくらいなら、いくら辺境の地でも冒険者総出になって挑めば、なんとかなっちゃうかもしれない。


 そこで次は魔族であるサウザンド・アビス・エンペラーを行かせた。

 余談であるが、このサウザンド・アビス・エンペラーはペットの『モグラ』として可愛がっている。


 ここらへんで雲行きが怪しくなってきた。

 どうやらサウザンド・アビス・エンペラーも、とある冒険者に敗北してしまったらしい。

 とうとうおかしい、ということでジョジゼル自身が足を運ぶことにした。

 しかし——いきなり行くのはリスクもあるということで、たまたま通りがかったドラゴンの体を一時的に乗っ取らせてもらったが……。


 とりあえず。

 そこで——『すろーらいふ』を営む村人というやらに出会って、どうやらこいつに今までのことを邪魔されていたらしい、ということを知った。


「ククク……私に逆らったことを後悔すればいい」


 ——そして現在。

 戦場は停滞している。


 というか、レーザーとか電撃とか放つ『兵器』のせいで、こちらからはイノイックに近付けず。

 さらには、イノイックの方からもこちらに攻撃を仕掛けてこないためだ。


 一体イノイックはなんなのだ。

 ただの辺境の地ではなかったのかっ?

 それなのに、どうしてあんな出鱈目でたらめな兵器など所有しているっ?


 そう非難の声を上げたかったが……まあいい。

 この状況になっても、ジョジゼルは余裕の態度を崩さなかった。


 何故なら。


「お手紙書いたんだからな。私のお手紙にかかれば、人間共などすぐに『魅了』されるに違いない」


 そう口にしながら、魔狼まろうの顎の下を撫でる。


「わんわんわんっ! くぅ〜ん」


 魔狼は嬉しそうに喉を鳴らした。

 ヤツ等に出した手紙には、様々な策が張り巡らされている。


 一つ。顔文字を入れることによって、人間側はジョジゼルに親近感を覚えるに違いない。

 二つ。二十四歳巨乳美少女とアピールすることによって、男共は鼻を伸ばすであろう。

 さらに全体的にポップな文体にすることによって、これらの策が十全に機能する。

 そこで完成した手紙がこうだ。


『拝啓、イノイックの冒険者方々へ。

 わたしはジョジゼル! 前はスローライフを営む住民の人に会ったけど、はじめましてだね!

 感づいてると思うけど、わたしがこの攻撃を仕掛けてる総大将なんだ!

 でも、みんな強くて焦ってるよふぇえええ(>_<)

 そこで今回のお願いがあるんだけど……。

 このままじゃ、どっちも戦力を浪費ろうひするだけだから、総大将同士で決着付けないかな?

 ちなみにわたしの見た目は二十四歳くらいで巨乳で褐色の美少女だよ(*^_^*)

 お返事待ってます!

        魔族ジョジゼルより』


「完璧だ……」


 全く。我ながらうっとりしてしまう。


 一人で悦に入りながら、お手紙の返事を待っていると、


「ん?」


 部下の一人である狼型のモンスターが、口に紙切れをくわえて走ってきた。


「ククク……もうお手紙の返事がきたか」


 手紙を出してから、まだあまり時間も経っていないというのに。


 ジョジゼルは優雅な手つきで、手紙を手に取る。

 どうせ、ジョジゼルに『魅了』されている男共は彼女を受け入れるに違いない。

 それは手紙を読む前から明白だ。


「どんな間抜けなことが書かれているのだろうな」


 勝利を確信しあがら、ジョジゼルは手紙の封を切った。

 そこにはこう書かれていた。


『魔族へ。ふざけるな。こっちは街から出て行くつもりはない。さっさと撤退しろ』


「……はあ?」


 一瞬、思考停止に陥ってしまった。

 ジョジゼルの手紙を持つ手が震えている。


「バ、バカな……! 私の手紙のどこが悪かったのだ……!」


 無論、悪いところばかりなのだが——自信に満ちあふれているジョジゼルは、そのことに頭が回らない。


「クッ……! あいつ等、魔族を舐めるなよ。その気になれば、そちらの兵器などいつでも無効化することくらい出来るわ!」


 クシャッと手紙を握りしめる。


「わんわんわんわんっ!」


 その不穏な殺気に気付き、魔狼が強く吠える。

 ジョジゼルがとうとう重い腰を上げたのだ。


「はあっ!」


 ジョジゼルはモンスターの大群の中を駆け抜け、イノイックへと向かった。


 ふざけるな。

 こんなにバカにされたのは初めてだ。

 ふざけた返事を書きやがって。

 こちらがどのような気持ちで手紙を書いたと思う?


『うーん、この(>_<)は(*^_^*)の方が良いかな……人間共はどんなことを考えているんだろう……きらわれたらいやだな……』


 そんなことを「うーん、うーん」と考えていた私が……。


「まるで間抜けじゃないか!」


 駆けながら、思わず叫んでしまう。


 魔王から初めて直々に頂いた指令。

 辺境の地を一個潰せ。

 これくらい、余裕でこなさなければ——私は一体なんなのだっ? 有象無象のザコではないかっ?


 故にジョジゼルはイノイックへ走る。

 ジョジゼルがいるところから、イノイックまで大分距離があいていたというのに。

 手紙の返事を読んでから、一分で市壁の前まで辿り着いた。


「このような壁など——私が破壊してくれるわ!」


 逆上しているまま、ジョジゼルは壁に手を触れようとする。

 それがいけなかった。



『ターゲットロックオン。電撃を放射します』



 それによって、ジョジゼルが市壁によって完全な『敵』だと見なされてしまったのだから。


「ふんぎゃっ!」


 電撃が体に走り、ビリビリと震えるジョジゼル。

 その姿は彼女の言っていた『有象無象のザコ』にしか見えなかった。


 やがて電撃が止んだ後。

 ジョジゼルは丸焦げになり、意識を失ってしまったのだった。

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二周目チートの転生魔導士 〜最強が1000年後に転生したら、人生余裕すぎました〜

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