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95・おっさん、殲滅する

「な、なんだ。オレ達はなにを見させられているんだ?」

「うわあ、モンスターがどんどん地面に落ちていってるよ……まるで虫みたいだ」

「あの飛び道具みたいなのはなんだ? 魔法でも使ってるのか?」


 以上、市壁でモンスターを食い止めている光景を見て、集まってきた冒険者の方々一同の声である。


「うおーっ! すごいのだー! これも、わたしが作った壁のおかげなのだー!」


 ドラコが両手を挙げて、キャッキャッとはしゃいでいる。


「『防衛』ってこんなに激しいものだったんですね。私、『防衛』を舐めていました」


 空を見上げ、リネアが感心したように呟く。


 防衛……食い止めている……。

 そんな言葉より、この状況を的確に表せる言葉があるだろう。


 それすなわち——『殲滅せんめつ』。

 しかもかなり一方的な殲滅だ。


《ほーっほほほほほ! 見たかしら? これがわたしの作った【スローライフ】の真価よ。見てみなさい、モンスターがゴミようよ! このままモンスター達を殺し、あなたがモンスターの帝王となるのよ!》


 相変わらず、悪役みたいな女神の声が響いてくる。

 さて、落ち着いたところで、現在の状況をもう少し詳しく説明しよう。


『ターゲットロックオン。レーザー発射』


 市壁から、そんな淡々とした機械的な音声が流れる。


 すると、どうであろうか。

 市壁から紫色のビーム光線みたいなものが発射し、イノイックに近付いてくるモンスターを殲滅していくではないか。

 市壁いわく、その『レーザー』というものが空・地面に向かって発射され、何人たりともイノイックの地に足を踏み入れることが出来ない。


 ここから見てても、圧倒的な状況であった。

 なにもしなくても、モンスターが次々と倒れていく光景を見て、街のために戦おうと集まってきた冒険者達が戸惑いの表情を見せる。


「もう帰ってもいいかな……」

「オレ達がなにもしなくても、モンスター達混乱しているし……」

「なんのためにオレ達、来たのかな……?」


 そんな声もちらほら聞こえてきた。


「そりゃそうなるよな……」


 俺はあくまで、モンスターの足止めを食い止めるつもりで市壁を築いた。

 少しでもモンスターの動きを阻害し、戦況を有利に進めようと思ってだ。


 しかし——俺達が一日で築いた市壁はとんでもない兵器でした。


 レーザーや電撃が嵐のように吹き荒れる。

 モンスター達の陣形が崩れ、混乱に陥っている。


 だからこその殲滅。

 俺達は市壁から一歩も外に出ていない。

 当たり前だ。一歩も外に出る必要がないのだから。


「うおー、行くのだー! レーザー飛ばすのだー!」


 ドラコが拳を前に突き出し、市壁を応援する。


『ターゲットロックオン。前方一キロ先に巨大な物体発見』


 市壁よ。その巨大な物体はワイバーンだ。

 ドラゴンよりは力が劣るものの、一体でも現れれば十分街が崩壊してしまう程の脅威。


『……レーザー発射。殲滅。巨大な物体を破壊しました』


 なのに、一発でワイバーンをっちゃいました!

 もう好きにしてください。俺はイノイックが守れればそれで十分なんで。


「このまま順調だったら良いんだけどな……」


 それを見て。

 俺はなんだか不安な気持ちになってくる。

 いや、戦況はこちらに圧倒的に有利。今のところ、モンスターはイノイックに一歩も足を踏み入れられていない。


 しかし——本当にこのままいくのだろうか?

 突然、そんな正体不明の気持ちに駆られたのだ——。


 ★ ★


 モンスター側。

 次から次へと、市壁から発射されるレーザーや電撃でモンスターが打ち落とされている光景を見て、総大将の魔族ジョジゼルは焦りを感じていた。


「一体どうなっているっ!」


 モンスターを攻撃しているものは、市壁から発せられているように見える。


 しかし——市壁自身が発射しているはわけではなく、近くに魔法使いが控えているのだろう。

 そして近付いているものを、ことごとく打ち落としている、と。

 無論——ジョジゼルのその考えは全く的外れのものであるが、意味不明の状況に立ち入っている以上、そう考える方が自然であった。


「おい! お前等! 今、どうなっている? 数はどれくらいまで減った?」

「わんわんわんわん!」


 ジョジゼルの問いかけに、近くに控えていた魔狼まろうが、吠えて答える。


「うむうむ。なにっ? 千体いたモンスターが、五百体まで数を減らしただとぉっ?」


 いやいや、ちょっと待って。

 まだ街に一歩も足を踏み入れてないんですけど?

 なんで、半数になっているんですか?


「ちっ……イノイックを甘く見過ぎていたか? いや、今回連れてきたモンスターは粒ぞろい。そんな簡単にやられるものとは思えない。いや——王都に襲撃をかけても、半数がやられる頃には街が壊滅状態になっているはず……」


 知らず知らずのうち、ジョジゼルは自分の爪を噛む。


 チューン、ドーン。

 チューン、ドーン。


 こうしている間にも、戦況はどんどん悪化していくばかりで、愚直に市壁に突っ込む仲間モンスター達が地面に堕ちていくだけだ。


「ああ……ワイバーンちゃん……ベヒモスちゃんも……キングスライムも打ち落とされた? くっ……! ちょっと、待て待て貴様等! ただなにも考えずに突っ込むのは止めーーーーーーーー!」


 ジョジゼルがそう叫ぶと、各隊の指揮官が部下に伝えていく。

 このまま、策もなしに街に突っ込んでもやられるだけだ。

 一度、ここは体勢を整えよう。


 ジョジゼルが号令を発してから、全員に命令が行き渡るまで少し時間はかかったが、やがて動きが停止し戦場の音が止む。


「わんっわんっわんっわんっ?」


 参謀として名高い魔狼まろうがジョジゼルに問いかける。


「うむうむ。ジョジゼル様、どうするおつもりですか? と言いたいんだな」


 ジョジゼルは自分の気を落ち着かせるため、魔狼の顎の下を撫でた。

 魔狼はとても気持ちよさそうだ。

 人語は操れないものの、魔狼は我が軍の参謀かつジョジゼルの癒し要員なのだ!


「ククク……心配するな。それについては、こちらにも考えがある。要はあちらの大将を叩いてしまえばいいだけだ。まずは——」


 そう仰々しく言って、ジョジゼルはペンと紙を取り出した。

 そして魔法でテーブルを出現させ、どこからともなく取り出したメガネをかけてこう続ける。



「お手紙書く」


 ◆ ◆


『拝啓、イノイックの冒険者方々へ。

 わたしはジョジゼル! 前はスローライフを営む住民の人に会ったけど、はじめましてだね!

 感づいてると思うけど、わたしがこの攻撃を仕掛けてる総大将なんだ!

 でも、みんな強くて焦ってるよふぇえええ(>_<)

 そこで今回のお願いがあるんだけど……。

 このままじゃ、どっちも戦力を浪費ろうひするだけだから、総大将同士で決着付けないかな?

 ちなみにわたしの見た目は二十四歳くらいで巨乳で褐色の美少女だよ(*^_^*)

 お返事待ってます!

        魔族ジョジゼルより』


「ええぇ……」


 ジョジゼルからドン引きする手紙が届いた。

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