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93・その頃の勇者2

「勇者さんですよね?」


 後ろから声をかけられ、反射的に振り返る。


「やっぱり……勇者ジェイクさんだ!」

「……僕になにか用か?」

「は、はいっ! ボ、ボク勇者さんの大ファンでして!」


 振り返った先には、十六歳くらいの少年が瞳がキラキラと輝かせて勇者ジェイクを見ていた。


 ——ああ、久しぶりにこういう人間に出会ったな。


 若干面倒臭さを感じながらも、ジェイクはニコッと営業スマイルを浮かべた。


「そうか。それはありがとう」

「ボ、ボク……ジェイクさんに憧れて冒険者になったんです!」

「君も冒険者に?」

「はいっ! とはいっても、SSランクのジェイクさんと違って、ボクはFランクでまだまだ駆け出し中の冒険者なんですが……」


 照れたようにして、少年が頭を掻く。


「まあこれからだよ。頑張って。僕はこの辺で……」


 かなり面倒臭くなってきたので、適当に話を切り上げてこの場から去ろうとする。


「待ってください! 最後に……握手だけでもしてくださいっ!」


 だが、呼び止められ両手を差し出される。

 差し出された手を、ジェイクはぼーっと眺めていた。


「ボ、ボク! ジェイクさんに憧れていて……単騎でドラゴンやキングベヒモスを倒し、その力は既に魔王をも凌ぐと聞きます。ボクもジェイクさんみたいに、モンスターと戦いたいんです!」

「…………」

「——なんですが、一つ聞きたいことが……」

「?」


 少年は一瞬言いにくそうにしながらも、


「どうして、そんなボロボロなんですか?」


 と続けた。



 そうなのだ。

 ブルーノがいなくなり、ベラミもライオネルも抜けてから——ジェイクは荒んだ生活を送っていた。


 その荒み方といったら、尋常ではない。

 元々ブルーノと違い、生活力が皆無であったジェイク。一人では洗濯の一つも満足に出来なかった。

 結果、身だしなみに気を遣う余裕がなく、他人から見ても——『ボロボロ』——と称されるくらいの外見になってしまったのだ。



「……っ!」


 ジェイクはその言葉を聞いて愕然とする。


 確かに、最近お風呂にも入っていないかもしれない。

 ブルーノがいた頃は、お風呂を沸かせてもらったりバスタオルや着替えの用意後片付け……その他諸々を全て任せていたのだ。


 しかし、一人になってから——なんというか、お風呂に入るのが面倒臭い。


 それでも、ベラミやライオネルがいた頃はマシであった。

 同じパーティーの目というものがあったから。


「——大きなお世話だ!」

「えっ?」


 つい大声を出してしまったため、少年がきょとんとした顔になる。


「そんなこと、お前に言われなくても分かってる。それに……最近は忙しかったんだ! お前みたいな暇人とは違うんだ!」

「す、すみませんっ!」


 少年が頭を下げる。

 とはいっても、実際今のジェイクは髪はボサボサだし髭もろくに剃っていないため、まるで浮浪者ふろうしゃのようであった。


「……ケッ!」


 頭を下げる少年に、唾を吐き捨てる。


(ああ、イライラする!)


 このイライラはどうしてだろうか?

 今までこんな感情抱いたことがなかったのに……。


 そうだ。モンスターを倒そう。

 戦いは良い。戦いの時は余計なことを考えなくて済むからだ。


 クエストをこなそうと、ジェイクは冒険者ギルドの門を潜った。


「おい。なんか依頼はないか?」


 ジェイクがそう一声かけると、慌ててギルドマスターが出てくる。

 本来、ギルドマスターはそのような事務的な仕事はしないのだが、相手が勇者ジェイクだからこそ——粗相そそうがないように対応しているのだ。


「は、はい……とはいっても、ジェイク様にやってもらうようなクエストは今はなくて……」

「どういうことだ?」

「簡単なスライム退治や薬草摘みくらいしかない。そういうことです」

「な、なんだと……っ?」


 そんなの、あの無能ブルーノでも出来たではないか。


「他にないのか? ちょっとくらいランクを落としてもいい。Aランクくらいならやってもいいから」

「……最高がDランクのスライムボス退治くらいですね」

「他には?」


 ギロッとジェイクがギルドマスターを睨む。

 するとギルドマスターは焦りながらも、そこらへんの書類をペラペラと捲り、クエストを探し出す。


「あっ……! こういうのがあります!」


 そう言って、ギルドマスターは依頼票をジェイクに差し出してきた。


「……『イノイック防衛クエスト』だと?」

「は、はいっ!」

「イノイックってのはどこにあるんだ?」

「ここから遠く離れた場所。馬車で片道一週間はかかるところです」

「辺境の地というヤツか。どうして、そんな離れた土地のクエストをこっちで受注している?」


 ジェイクが尋ねると、ギルドマスターは神妙な顔つきになって続けた。


「どうやら、イノイックという街に魔族の集団が襲撃をかけに行くみたいで」

「なんだと? それは確かか?」

「イノイックのギルドマスターが嘘を吐いていなければ」

「それで辺境の地ごときの冒険者では対応しきれないから、こちらにも協力要請が来ている、ということか」


 魔族の集団……。

 面白そうではないか。

 この腰から下げている剣に血を吸わせることが出来るかもしれない。

 ジェイクは自分の血が高ぶっていくことを感じた。


 だが。


「魔族の襲撃は明日になるみたいです」

「明日? イノイックへは馬車で一週間かかると言うじゃないか。それでは間に合わない」

「はい。それこそ、大規模な転移魔法を使わなければ……ジェイク様のパーティーにいる大魔導士ベラミ様の魔法なら可能では?」

「ベラミか……」


 あいつは「ブルーノを探しに行く」と言ったきり、戻ってくる気配はない。

 ジェイクも魔法くらいなら使えるが、それも簡易的なものばかりだ。

 馬車で一週間かかるところまで移動する魔法は使うことが出来なかった。


「——そうだな。ちょっと場所が遠すぎる。このクエストは止めておくよ」


 だから——ギルドマスターからの依頼を蹴った。


「えっ? しかし……このクエストをこなせるのはジェイク様率いる勇者パーティーくらいで」

「その田舎には悪いけどね。自分の地は自分で守ってもらわないと」

「し、しかし……! ジェイク様が行かなければ、このイノイックという街は十中八九滅んでしまいます!」

「うるさいな、君。僕に逆らうつもりかい?」

「そ、そんな滅相もない!」


 ジェイクに睨まれ、ギルドマスターの口が閉じた。


「僕は『魔王を倒す』という使命を帯びているんだ。そんなところまで手を広げちゃ、キリがないよ。今日のところはクエストがないみたいだから、宿屋に帰らせてもらう。じゃあ」


 有無を言わせず、ジェイクはギルドから出て行った。

 これ以上、ベラミのことを突っ込まれれば『勇者パーティーが解散の危機にある』ということに感づかれてしまうかもしれない。

 それだけはジェイクのプライドが許さなかった。


(ああ、イライラする……)


 これも全てブルーノのせいだ。

 そう思ったら、少しだけ気が紛れる気がした。


 ★ ★


 ジェイクがいなくなった後のギルド。


「ジェイク様……変わりましたね」

「昔はたった一人の子どもを助けるために走り回っていたこともあったのに……」

「それにあの外見はなんだ? 浮浪者ふろうしゃみたいじゃないか」

「少し臭ってましたしね……少し前はとても凛々しくてカッコ良かったのに……」

「最近、クエストをこなしてその日暮らしをしているみたいだぜ」

「知ってる? パーティーの人と喧嘩した、って噂よ」

「なに? だからさっきのクエスト断ったのか? ベラミ様と喧嘩してるから頼みづらいって」

「どうせそんなところだよ。ジェイク様は変わってしまった。もう勇者と呼ばれてた頃の輝きはない。今度から媚びを売らなくてもいいんじゃ?」

「とはいっても実力は本物だからな……だが、今度から私がわざわざ出てくる必要もないか……」

「そうだ、そうだ」


 ギルドマスター、職員、そして冒険者達がジェイクの悪口を言い合っていた。


 今までの不満や鬱憤うっぷんが溜まっていたのか。

 悪口合戦はしばらく続くのであった。

新連載はじめさせていただいたので、よかったら作者ページからご覧いただけると幸いです!m(_ _)m

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