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92・おっさん、市壁を完成までこぎ着ける

 皆の活躍もあり、市壁造りはそこそこ順調に進んでいった。

 半分くらいが出来た時だろうか……。


「な、なんでこんなに出来ているんだっ!」


 突如、響いた声に反射的にそちらの方を振り向いた。


「おっ、ギルマスじゃないか」


 デ……巨漢のギルドマスター(=ギルマス)である。


「うむ……様子を見に来たわけだが、こんなに出来てるとは思ってなかったんだな」

「これくらいは簡単だよ」

「一体どんな魔法を使ったんだ?」


 とギルマスが市壁をポンポンと叩く。


 現在、イノイックの半分くらいを囲むようにして、市壁が築かれている。

 工事は急ピッチで進められ、市壁築くマンを百体まで増やして、市壁を築いてもらっているのだ。


「市壁築くマンのおかげだよ」

「市壁築くマン……なんだそれ——うわっ!」


 そこで、足下でちょこまかと動く市壁築くマンにギルマスが気付く。

 驚いたようにして、片足を上げて視線を下に落とした。


「……こ、これが市壁築くマン?」


 しゃがんで、市壁築くマンの一人を持ち上げるギルマス。


「おいおい、ギルマス。市壁築くマンは一生懸命働いているんだ。離してやれ」

「築くマン! 築くマン!」

「おっと、それはすまなかったんだな」


 ギルマスの手から解放された市壁築くマンは、また元気よく作業に戻っていった。

 可愛らしい。


「……で、市壁築くマンとは一体?」

「ああ、市壁を築いてくれるんだ」

「いや、名前がまんまだからそれはなんとなく検討つく」

「だったらこれ以上説明はいらないんじゃないか?」

「それで全ての説明を終えたと思っているおっさんが恐ろしいんだな」


 俺のなにが恐ろしいんだか。


「それにしても……立派なものなんだな」


 ギルマスが俺から視線を外し、辺りを俯瞰的に見渡す。


 お手伝いさんやリネア、ドラコ、ポイズン……といった人・モンスター達が力を合わせて、木やら石を運搬している。

 それを使って、市壁築くマンが加工し、せっせと市壁を築いていく。

 こうしている間にも、とてつもない速度で市壁が築かれており、当初の予定通りに工事は終わりそうだった。


「……とはいっても、今日中にイノイックを囲むようにして市壁は築けないだろう?」


 おっ?

 なに言ってんだ、ギルマス。


「ちっち。舐めてもらっちゃ困るぜ」


 人差し指をクイックイッと左右に動かす。


「もうそろそろ夜になるんだな。朝からやってこれなら……ペース的に間に合わない計算になる」

「そんなことない。というか、朝は本気を出してなかったからな」

「はい?」

「もう少しで——市壁は完成する。それをギルマスに見せてやるよ」

「はっ!」


 ギルマスはお腹を突き出して笑い、


「ハハハ! いくらなんでもおっさん、それは無理だ。ここまでやれたのは驚愕に値するが……完成までこぎ着けたとなったら、ボクの晩ご飯を抜きにしてくれてもいい!」

「おっ、言ったな?」

「男に二言はないんだな」


 デ……巨漢のギルマスにとって、たった一食でも抜くことは苦痛なんだろう。

 面白いことを聞いた。


「おーい! みんなー、ラストスパートだ!」


 そう呼びかけると、


「へい! 任せてくださいませえ、おかしら!」

「もう少しで完成なんですね! 楽しみです!」

「わたしもがんばるのだー!」

「ぐぎゃ、ぐぎゃ!」


 みんなが応えてくれる。

 すると、皆の動きが今までにも増してスピードアップし、目に追いつかない程の速度で市壁が築かれていった——。



 三十分後。

「ハハハ。いくら神とうたわれたおっさんでも無理に決まってるんだな」



 一時間後。

「…………」



 一時間半後。

「そ、そんなバ、バカな!」



 そして本気を出してから二時間後。

 とうとう市壁を完成までこぎ着けたのだ。


「どうだ、ギルマス!」


 俺は腰に手を当て、築かれた市壁を見上げる。


「…………」


 ギルマスは唖然とした感じで、言葉を失ってしまっていた。


 イノイックをグルリと一周するような市壁。

 木よりも高く築かれており、少々のことで崩れたりしなさそうだ。


「おーい、ギルマス?」


 いくら呼びかけても反応しないんので、ギルマスの顔の前で手を振ってみる。

 すると「はっ!」と意識が戻ったようにして、


「ど、どうしてたった一日で市壁が築かれているんだぁぁぁぁああああ!」


 と叫び出した。


「約束は守ってもらうんだからな」


 ニヤリ、とギルマスに向けて笑みを作る。


「むむむっ……」

「まあ健康のためにも、一食かそこらは抜いた方が良いと思うぜ?」

「健康のために死んでしまうかもしれないんだな」

「たった一食抜いただけでっ?」


 ぐ〜っ。

 そんな間抜けな音が、ギルマスのお腹から聞こえた。


「……そうだ。こうしよう」

「ダメだ」

「まだなにも言ってないんだな」

「どうせ、ろくでもないことを言うに決まっている」

「そんなことない。お菓子なら有りとしよう。お菓子は晩ご飯じゃなくて、間食——」

「ダメだ!」


 叱りつけると、ギルマスは見るからに悲しそうな顔になって、


「そ、そんな殺生な〜」


 とへなへなと座り込んだ。


 一食抜くだけで大袈裟なヤツであった。





 ★ ★


 暗くじめじめした場所。

 魔族ジョジゼルは、千体ものモンスターの群れを前にして、声高らかにして宣言する。


「明日——イノイックに総攻撃を仕掛ける!」

「「「「ムゴォォォオオオオオオ!」」」」


 すると地が震えんばかりにして、モンスター達から咆哮が上がった。


(そうだ、負けるはずがないんだ……)


 ジョジゼルはそれを見て、満足げに何回か頷く。


 すろーらいふなる謎の術を使う人間は気になる。

 しかし、いくらあれでもこれだけのモンスターを前にしては、太刀打ち出来ないに決まっている。

 あんな田舎村、四方八方から攻撃を仕掛ければ一時間以内で陥落するに違いない。

 そうすれば、ジョジゼルがなによりも欲している『人間の悲鳴』が聞けるに違いない。


(ククク……人間共を根絶やしにしてくれるわ!)


 ジョジゼルの口元は自然と弧を描いていた。


 ——こんなことをしている間にも。

 イノイックでは着々と市壁が築かれていき、モンスターの総攻撃に備えていることを。

 悦に入っているジョジゼルは知る由もなかった——。

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