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90・おっさん、市壁築くマンを召喚する

「な、なんだこの斧は……まるで木がバターのようだ!」

「しかも軽くて使いやすい。今までオレ達が使っていた斧はなんだったんだ?」


 周りから驚きの声が聞こえる。

 どうやら俺お手製の『斧』は好評みたいで、なによりだ。


「さすが、おっさん……ただ木を切るだけの斧でも、レア度SSの武器を使うか……」


 そんな大袈裟じゃないって!


 でも俺とリネア、ドラコの三人で木を伐採していた時と効率が違う。

 森の至る所に、ギルマスの命令で集まってくれた人達(以下、お手伝いさん)が散らばっており、木をよっこらっせと伐採してくれっていっている。


「俺も……頑張らないといけないな……」


 なんせ、木を切っただけじゃミドリちゃんに怒られるんだ。

 後でミドリちゃんに言って、苗木を貰わないといけないな。


「おいっ! お嬢ちゃんみたいな細い腕の女の子が、斧を振り回しちゃ危険だぜ?」


 お?


「そんなことより、俺達とお茶しようぜ?」


 見れば、リネアがお手伝いさんの何人かにナンパされていた。


「え、えーっと……わ、私も……」


 リネアは斧を持って、困り顔をしている。


「私も斧で木を切るの得意なんですからっ」

「嘘を吐け。そんな見栄を張らなくてもいいんだぜ?」

「本当ですっ」

「じゃあやってみなよ」

「はい——えぃ!」


 リネアが斧を振るう。木がばっさーと倒れた。

 それを見て、お手伝いさんが眼球が飛び出るんじゃないかというくらい、


「「な、なんだそりゃぁぁああああ!」」


 と驚いた。


 俺が作った斧で木を切ることに関しては、リネアの方が先輩なのだ。

 リネアは器用に斧を使って、お手伝いさん以上の速度で木を切っていく。

 それを見て、お手伝いさん達は「た、大したもんだ……」と再び驚いた。というか引いてた。


 うん。

 でも、リネアがナンパされているのは嬉しいようなイライラするような。


「複雑な気分だ」


 そう呟いた。


 さて、ドラコの方はどうしているだろうか?


「そこの子ども。ここは危険だ。さっさとどっか行ってろ」


 邪魔扱いされていた−!


「むむむ−! わたしも木を切るの得意なのだー」


 ドラコがプンプンと怒っている。


「嘘を吐け。そんな見栄を張らなくてもいいんだぜ?」

「本当なのだ!」

「じゃあやってみなよ」

「分かったのだ——えぃ!」

「な、なんだそりゃー!」


 リネアの時と同じような光景が繰り広げられていた。


 しかもドラコに関しては、


「斧を使わなくても……パーンチ!」

「おいおい、パンチで木が倒れるわけないじゃないか」

「痛いのだ……」

「ほら、見ろ。言わんこっちゃない……ってパンチした木にヒビがいっている? お、おいっ! 倒れるぞー!」


 余りある力も見せつけている。

 リネアもドラコも十分働いてくれているようだ。


「それにしても賑やかだな……」


 明日魔族が襲撃をかけにくる、とは思えないくらいみんなには危機感がない。


 でも俺はこれで良いと思った。

 ただ黙々と作業するよりも、みんなでワイワイとやりながら進めていく方がきっと楽しいと思うのだ。

 俺の三十余年の経験上、嫌嫌やった作業というのは得てして悪い結果に繋がる。

 だが、自分のやりたいこと。楽しいことを優先させた方が良い結果に繋がりやすいのだ。


 無論、それをするためには技術や経験もいる。

 しかしそういう面倒臭いことは、俺の作った『斧』で短縮出来るのだ。


 ならば——こうやって賑やかにしながら、イノイック防衛のための準備を進めることは、きっと間違いじゃないはずだ。


「お頭!」


 お手伝いさんの一人から声をかけられる。


「お頭って俺のことか?」

「おっさん以外に誰がいるんですか!」

「まあいっか……それで?」

「切った木はどうやって運べばいいんですか? これだけあったら、手分けしても相当時間がかかると思いますが……」


 お手伝いさんの何人かが、途方に暮れたような顔をして切られた木に目をやっていった。


「大丈夫。それなら心配いらないから」


 そう言って、俺は「市壁を築きたいなー」と念じる。


「市壁築くマン!」


 すると、ポン! ポン! と音を立てて、家建てるマンによく似た『市壁築くマン』が何人か出現した。


「素材はこっちでいくらでも作ってやる! だから、みんなで市壁を築くぞ!」

「市壁築くマン! 築くマン!」


 そう指示を出すと、ちょこちょこと市壁築くマンは動いて、みんなで切った木を向こうの方へ持っていった。


「お頭」

「だからそのお頭っていうのは止めろって」

「このちっちゃいのはなんですか?」


 俺達の足下でちょこちょこと動いて、次から次へと働き者の市壁築くマンは木を持っていく。

 お手伝いさんはそんな市壁築くマンを指差して、そう当たり前の疑問を口にした。


「それは……市壁築くマンだ!」

「市壁……築く……マン?」

「そうだ」

「モンスターの一種かなにかですか?」

「市壁築くマンをモンスターにするな。うーん、市壁を築く専門家だと思ってくれたら」

「召喚魔法ということでしょうか?」

「それに近いものだと思っていてくれ」


 細かいところは面倒臭いし、みんなを納得させるのもわずらわしかった。


「だからみんなは気にせず、どんどん木を伐採してくれ」

「「「はい!」」」


 お手伝いさんは元気な声を出して、木の伐採を再開し始めた。

 順調だ。


「お頭!」


 そう思ってたら、お手伝いさんの一人が俺のことを呼んだ。


「今度はなんなんだ……」


 お手伝いさんは足をもつれさせながら、血相を変えてこう言う。


「モ、モンスターが出ましたっ!」

「な、なんだとっ? モンスターだと?」

「はいっ。しかもかなり凶暴なモンスターです。そのせいで、みんなが怖がって木を切れません」

「それは大変だ……」


 全く。次から次へとトラブルが舞い込んでくる。

 それにしても、決戦は明日なのに凶暴なモンスターとな?


 俺はこの場を一旦離れ、お手伝いさんの案内で『モンスターが出現した場所』とやらに向かった。


「なっ……!」


 確かに、そこにはモンスターがいた。

 かなり巨大なモンスターで、猛威を振るっている。

 凶暴なモンスター、というのも嘘ではないだろう。何故なら、彼(彼女?)に触れれば生死に関わるのだから。


「ぐぎゃ、ぐぎゃ」


 そいつは俺達が苦労して切った木を、軽々と持ち上げた。


「「「ひぃぃいいいいいいい!」」」


 その余りあるパワーを見て、周囲にいるお手伝いさんが悲鳴を上げる。


 お手伝いさんはガタイも良くて、スライムくらいのモンスターなら退治出来るだろう。

 しかし、突如現れたモンスターに為す術なく、少し離れたところで手をこまねいているだけだ。


「ぐぎゃ! ぐぎゃ!」


 嬉しそうに、そのモンスターは地面に放置している木を次から次へと持ち上げていく。


 そいつの正体は……。


「って、ポイズンじゃねーか!」

「ぐぎゃっ、ぐぎゃっ!」


 俺がその名前を呼ぶと、ポイズンベア——いや、俺達の仲間であるポイズンは嬉しそうに鳴いた。

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