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82・おっさん、冒険者試験を受ける

 そうだ、昨日のことを思いだそう。

 昨日はディックとマリーちゃんを家に呼んで、新築パーティーが行われたのだ。


 いつも招かれる方なので、ディック達を招くのはなかなか新鮮であった。

 そしてたらふくお酒を飲んで。

 リネア、ドラコ三人肩を並べて寝たのだ。


 そして起きてみたら……。


「この家の持ち主はどなたかのぅ?」


 白髭を生やしたおじいちゃんが、来訪していた。


「持ち主? 俺ですけど……」


 一体、なんの用があるというのだろうか。


「失礼ですが、あなたは?」

「ややや、まだ名乗っていなかったな。ワシはイノイックの町長をしているラードと言うのじゃ」


 町長!

 初めて見たー!

 イノイックに移り住んでから結構なるけど!

 そういや、まだ挨拶の一つもしてなかったな。


「町長さん、はじめまして。少し前にイノイックに住まわせてもらっているブルーノと申します」

「これからよろしくなのじゃ……と、それもあるのじゃが……この家は? 三日前には影も形もなかったと思うのじゃが?」

「ええ。三日で建てましたから」

「はあ? お主はなんと言っているのじゃ?」


 建てちゃったものは建てたんだから仕方ない。

 その後、俺は町長さんに家建てるマンやポイズンベアのおかげで、DIYが早く済んだんだ、ということを説明した。


 しかし。


「……さっぱりなにを言っているのかよく分からぬ。家建てるマン? それにポイズンベアといったらモンスターだったと思うのじゃが……」


 あまり納得してくれてないみたいである。


「まあそれは良い。ひとまず置いておくとしよう。この家の持ち主がお主ということが分かって、手続きを一つしてもらう必要がある」

「手続き?」

「家を構えるとなったら、イノイックの住民票が必要になってくるのじゃ」

「住民票ってなんですか?」

「お主がイノイックの住民ですよ……ということを証明する書類じゃ。家を構えない冒険者だったら、いつ街から出て行くかも分からぬから必要ないんじゃが……お主はしばらくの間イノイックに住むつもりなんじゃな?」

「もちろんです」


 永住したいとも考えている。


 それにしても住民票か……。

 今まで勇者パーティーとして冒険者やってたから、初めてそんな単語を聞いた。


「ならば住民票を発行してもらう必要がある」

「どうすれば発行出来るんですか?」

「身分を明らかにする書類かなにかを持って、ワシの家に来るのじゃ。そうすればすぐに手続きしてやるから……」

「あー……」


 身分証明書——なんも持ってねええー!


 いや、本当だったら王都で作った冒険者ライセンスがそれになるんだけども。

 そんなの出したら、さすがに元勇者パーティーの一員であることがバレるから、簡単には出せない。


 となると……。


「す、すいません……身分書どこに置いたか忘れたんで、見つかったらすぐに町長さんのところに行きますね」

「うむ。待ってるのじゃ」


 そう言って、町長さんは俺の家を後にしていった。


「ブルーノさん?」

「おとーさま、どうしたのだー? てきなのか?」


 身分書に頭を悩ませていると、リネアとドラコも起きてきた。


「いやさ……住民票を発行しないとダメみたいで……そのために、身分証明書が必要なんだ」

「なんなのだ? そのみぶんしょうめいしょというものは」

「うーん、例えばドラコが確かにドラコであることをはっきりとさせる書類なんだ」

「ドラコはドラコなのだー!」

「俺とリネアだったら分かるけど、他の人だったらそうじゃないかもしれないだろ?」


 ちょっとドラコには早い話だったか。


「私も身分証明書持っていないですし……故郷まで戻ればあるかもしれませんが……」

「リネアの故郷って遠いんだよな?」


 そう問いかけると、リネアがコクリと頷いた。


「新しく作った方が早いかもしれませんね」

「そうだな……仕方ない。ギルドに行って冒険者ライセンスでも発行してもらうか」


 ライセンスを貰うためには、おそらく試験かなにか受ける必要があると思うが……。

 仕方ない。背に腹は代えられないのだ。


「じゃあギルドに行ってくるよ」


 服を着替え、ギルドに向かおうとすると。


「わたしも行くのだー!」

「え、ドラコも?」

「なんだか楽しそうなのだ」


 冒険者ギルドには一般的に無骨者が多い。

 端的に言うと、気性が荒いヤツが多いため治安が悪いのだ。

 今後の教育のためにも、あまりドラコを連れて行きたくないが……。


「行くのだ! わたしも絶対に行くのだ!」


 俺の足にしがみついて、テコでも動きそうにない。


「仕方ない……でも俺から離れるんじゃないぞ?」

「分かったのだー!」


 ドラコはそう言って、天真爛漫な笑みを俺に向けた。

 ……こいつ、本当に分かっているよな?




 そうしてギルドに行って、事情を軽く説明すると。


「成る程……身分証明書をなくしてしまったので、代わりに冒険者ライセンスをね……」


 忙しそうにしているものの、丁寧に話を聞いてくれた。


「というより、おっさん神」

「神っていうのは止めてくれ。俺はただのおっさんだ」

「だったら、ただのおっさん神……」

「……好きなように呼んでくれ」

「あなた、冒険者じゃなかったんですかっ?」


 そのことに何故か驚かれた。


「ああ……ただのおっさんだからな」

「本当は試験が必要なんですが——おっさんは特別です。すぐにSランク冒険者ライセンスを発行しましょ……」

「そう特別扱いは止めてくれ。普通に試験を受けるよ」


 それに、冒険者を止めてから運動不足だったのだ。

 どれだけ自分の体力が落ちているのか確認するのも、たまには大事だろう。

 農業は【スローライフ】のおかげであまり苦労してないし、家造りは家建てるマンに頼りっきりだったからな。


「そうですか……だったら、早速試験を執り行いましょう」

「ちょっと待つのだー!」


 受付の人がどっかに行くのを止めて、ドラコが割り込んできた。


「わたしも受けるのだー! わたしも冒険者になりたいのだ!」

「ド、ドラコっ?」


 また変なことを言い出した。

 受付の人は、メガネをくいっと上げてドラコを怪しむように見る。


「……その子は……? もしや、おっさん神の子ども……?」

「うーん、まあそんな感じかな」


 ドラコの親代わりであることには間違いないし、素直に肯定する。


 すると周囲がざわつきだした。


「お、おっさんの子ども……? 結婚していたのか?」

「バーカ。おっさんは一人の女に収まるような男じゃない。隠し子の一人や二人くらいお手の物さ」


 なんか酷いことを言われてる気がするな。

 まあ言わせたいヤツには言わせておけばいいだろう。


 俺はそんなヤツ等に反応せず、ドラコと同じ目線までしゃがんで、


「ドラコ……お前にはまだ冒険者は早すぎる。それに……もしドラコが大きくなっても冒険者になって欲しくないんだ」

「嫌なのだー! わたしは冒険者になるのだ!」

「そもそも冒険者ってなんなのか知ってるのか?」

「知らないのだ。でも面白そうなのだ」


 ダメだ、こりゃ。

 ドラコは床に寝そべって「冒険者になるのだ冒険者になるのだ!」と駄々をこね出した。

 受けさせるだけ受けさせようか。試験に受かっても、クエストを受けなければ危険なことはないんだし。


「じゃあ……すいません。この子も一緒に試験を受けさせてもらっていいですか?」

「本当はそんなちっちゃい子には受けさせられないんですけどね。おっさん神の頼みです。良いでしょう」


 受付の人優しい。

 その後、受付の人は水晶を二個持ってきて俺達の前に置いた。


「ではまずは魔力を計測したいと思います。こちらに魔力を送ってみてください」

「わ、分かった……」


 嫌な予感がしながらも、俺は水晶に右手を当てる。

 そして搾りカスのような魔力をひねり出し、水晶に送り込んだ。


「……あれ? もしかして壊れてるのかな? 水晶の色が変わってない……?」


 だが、受付の人が言う通り、水晶は魔力を送る前から一つも変わっていなかった。

 いや、正しくはほんのりピンク色になっているような気がするが……光の加減でそう見えるだけかもしれない。


「これで間違ってないと思う。俺はほとんど魔力がないからな」

「そ、そんなことは……! 今までイノイックの数々のピンチを救ってきたのに……あれは魔法じゃなかったと言うのですかっ?」

「んー? まあそういうことだな」


【スローライフ】を使っているだけなのだから、魔力は少したりとも使っていない。


「で、では……魔力『ごく僅か』と記入しておきます……」


 腑に落ちない顔をしながらも、書類になにやら書き込んでいく受付。


「次はわたしの番なのだー!」


 勇ましく、ドラコが水晶をがしっと掴んだ。

 微笑ましいなー。荒々しいギルドの中で一輪の花が咲いたように感じる。


「てぃやっ!」


 とドラコが気合の一声。

 すると……。


 パリンッ。


 そう音を立てて、水晶がヒビ割れた。


「あれれ? この水晶、壊れているのだー?」

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