81・おっさん、新居にワクワクする
「とうとう……俺も……家を持つことが出来たか……」
「え? どうしてブルーノさん泣いてるんですかっ?」
おっといけない。
感涙を流してしまい、リネアを心配させてしまった。
「早速、中に入ってみよう」
「入ってみるのだー!」
リネアとドラコを引き連れて、家の中に入る。
ちなみに——外観は森の中にひっそりと佇むログハウスって感じだ。
中に入ると、それだけで木の匂いがほんのりと感じられた。
まずはリビングだ。
「広いのだー! ここだったら、いっぱい走り回れるのだ!」
「おいおい、ドラコ。そんなに走り回ってたら、転ける……」
「ふんぎゅっ!」
「言わんこちゃない!」
あーあ、鼻のところが薄く赤色になってるよ。
「ドラコちゃん、家の中で走り回ったらいけませんっ」
「ごめんなさいなのだ……」
リネアが怒り、ドラコがしゅんとなって肩を落とした。
反省出来るドラコは良い子に育ってくれるだろう。
最初から分かっていたけどな!
「ククク……ドラコは広いリビングに気を取られているかもしれないが、俺の方はそうじゃない」
「ほええ?」
「とうとう念願の! 俺のキッチンが完成したのだ!」
キッチンの前で手を広げる。
赤を基調としたキッチン。魔石で火を付けるコンロもあるし……おお! 家建てるマンにリクエストしていた通り、オーブンも備えられている!
しかも流し台も調理台も広い。
これだったら、今までは作れなかった料理にも挑戦出来そうだ。
「おーいリネア、ドラコ。ちょっとリビングで座っててくれるかな」
「分かりました?」
リネアが首を傾げながらも、ドラコを抱っこして床にぺたっと座る。
「うーん……この景色……やっぱ良いな」
俺はキッチンの流し台のところに立って、その光景をしみじみと見る。
対面型キッチンのおかげで、こうやって料理しながらもみんなの姿を見ることが出来るのである。
ドラコを抱っこしているリネアはお母さんみたいで、とてもほっこりとした気分になれた。
「今晩はディックとかマリーちゃんも呼んで、新築パーティーでもしようか」
なんてことを言いながら、リビングから移動。
次はお風呂だ。
「ここも広いのだー!」
ここでも走りだそうとしたドラコ。
しかし——なにかに気付いたように後ろを見たら、リネアが腕を組んで鋭い視線を向けていた。
「うう……走らないのだ……」
「偉いですっ!」
そんなドラコをリネアはむぎゅっと抱きしめた。
でもドラコの言うように、お風呂もかなり広い。
湯船もあって、ゆっくり浸かることが出来るだろう。
リネアとドラコ……そして俺と……三人でお風呂に入ることも出来そうだな。
「まるで家族みたいだな」
ぼそっと思ったことを呟いた。
「え……ブルーノさん、今なんて?」
「ん? なんか家持って、今からの生活を想像したら家族みたいだなあって」
「家族家族家族……ほぇえっ!」
ぬお!
なんかリネアがショートしてしまったのか、後ろに仰け反ったぞっ?
「大丈夫かリネア!」
「ふぇえ……あまりの幸福度にノックアウトされそうでした」
なんだそりゃ。
まあいっか。
お風呂を後にして、次は二階へと上がる。
二階には書斎であったり、寝室が作られていた。
とはいっても書斎には本は一冊もないし、寝室にはベッドすらないんだけどな。
まあそれは、今から買って増やしていけばいいだろう。
いや、作るのもいいな? ベッドくらいなら簡単に作れそうだし。
これぞ、俺の想像していたDIYなのだ!
「バルコニーに行ってみようか」
バルコニーに出ると、そこからイノイックの景色を一望——なんてことは出来なかったけど、突き抜けるような青空を近く感じられた。
「ここでバーベキューなんかも良さそうですね」
「バーベキュー? リネア、それはナイスアイディアだ」
空を見ながら食べるお肉は格別であろう。
「わたし、いっぱい肉を食いたいのだー」
ドラコも今からバーベキューを想像したのか——口からだらしなくヨダレを垂らしている。
「まあ……今から二人共よろしくな」
「私こそです!」
「わたしもいっぱい走り回ることが出来そうで嬉しいのだー」
「ドラコちゃん! 家の中では走るの禁止ですよっ」
「そ、そうだったのだ……」
リネアとドラコのやり取りを見て、ついつい苦笑が溢れてしまう。
今からの新生活に、俺は胸を躍らせるのであった。
「家建てるマン。今回はありがとな。君達のおかげで、素晴らしい家が完成した」
外に出て、待っている家建てるマンをそう労う。
「建てるマン!」
「建てるマン!」
「建てるマン!」
家建てるマンもそれに対して、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。
だが、今回の功労者はこいつ等だけではない。
「ぐぎゃ、ぐぎゃ!」
完成した家を見て、ポイズンはクルクルと走り回っていた。
そうなのだ。急遽、俺達の新しい仲間となったポイズンベアも、今回の家造りで素晴らしい活躍を見せてくれた。
「本当に……ポイズンにも助かったよ。ありがとな」
そう言って、ポイズンの頭をなでなでする。
「ぐぎゃぁっ」
「『もっとなでなでして』って言ってる」
「ぬおっ! ミドリちゃん、どっから現れたんだ!」
「それにしても家がやっと完成したんだね。こんな立派な家、私でも憧れちゃう」
ミドリちゃんはそうは口にするものの、淡々としているため、とてもそう思っているように聞こえなかった。
「いくらでもなでなでしてやるよ……とその前に」
ポイズンの毛が紫色に戻っていった。
ホットコーヒーの効果が切れたのだ。
「ホットコーヒーを飲んで、毒を取り除いてくれよ。そうしないと、猛毒状態にかかっちまう」
肩をすくめる。
そうしてホットコーヒーを作ることに取りかかろうとすると……。
「ポイズンなのだ。もふもふするのだー!」
——家から出てきたドラコが、猪突猛進って感じでポイズンに直行していった。
「あ、危ないっ!」
止める間もなく、ドラコはポイズンのお腹にもふっと体当たりをかました。
今のポイズンは触れるだけで相手を猛毒する状態なんだ!
急いで、ドラコを解読するためにアイスコーヒーを作らないと!
そう思って、わたわたと慌てると、
「ん……あれ?」
「すーっ、すーっ……」
ドラコは安らかな寝息を立てだした。
「も、もしかして……もう体力が削られちまって……意識がなくなった?」
「うんうん。そうじゃないと思う。ただこの子は寝てるだけ」
ミドリちゃんの言う通り、ドラコはポイズンのお腹の上で眠っているようにしか見えなかった。
「きっと疲れが溜まっていたんだと思う」
「いや……それは良いんだが……どうして?」
現在の紫色のポイズンは、超危険な猛毒を振りまくモンスターのはずだ。
「この子……猛毒に完全耐性がある」
「も、猛毒耐性が?」
「うん。猛毒に完全耐性がある人なんて今まで見たことなかったけど……だから大丈夫としか思えない」
俺も猛毒の完全耐性なんて聞いたことがない。
それこそ、Sランクの防具でもそんな効果が付与されているのかは微妙だ。
「ぐがー、ぐがーっ」
「ポイズンも寝だしたか……」
ドラコと一緒にポイズンもでかいイビキをかいて、夢の中へ。
一発のパンチで木にヒビをいかせる力。
さらには猛毒への完全耐性。
……まあ、なんだ。
やっぱドラコってドラゴンの子どもなんだな、と改めて思った。
そして翌朝——。
トントン。
ん?
玄関のドアがノックされる音で目を覚ます。
「はいはい……」
寝ぼけ眼を擦りながら、一階へと降りドアを開くと——。
「おはようございますなのじゃ。湖の近くに、いきなり大きな家が建ったという報告があって来たのじゃが……この家の持ち主はどなたかのぅ?」




