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70・おっさん、ドラゴンに名前を付ける

「——ということなんだ」


 そのまま子どもドラゴンを連れて、とりあえずディックの家まで向かった。

 椅子に座って、やっとのこさここまでの説明を終える。


「成る程な……どうして、ドラゴンが人化しちまったかはよく分からなかったが、まあくらいの高いドラゴンはそういう能力もあるって聞く」


 そうなのか?

 まあ今回の人化については【スローライフ】が関わってくるわけだが。


「わあーい! お友達が出来たのー!」

「お友達? お友達ってなんなのだー?」

「遊び相手ってことなの!」

「なるほどなのだー! 私も遊ぶのだ!」


 きゃっきゃっしながら、マリーちゃんと子どもドラゴンがじゃれ合っていた。


「リネア……本当にこの子、育てるつもりなのか?」

「もちろんです!」


 リネアが満面の笑みになり、力強くそう宣言する。


 困ったな……。

 リネアが完全にその気になっている。


「まあギルドに預けて、殺処分されるのも目覚めが悪いから、当分の間はうちで預かろうか」

「やったー!」


 両手を上げて、リネアが喜ぶ。

 リネアの喜ぶ顔が見られただけでも、良いとしよう。うん。


「ただドラゴンドラゴンって言うのも、なんか味気ないしな……。名前決めてあげなくちゃ」


 この子の性別ってなんなのだろうか。


「おーい、ドラゴン。君って男の子、女の子?」

「女の子なのだー!」


 幼女——じゃなくて子どもドラゴンが元気いっぱいに返事をする。


「リネア、なんか良い案あるか?」

「ドラゴベリアロールってのはどうですか?」

「却下だ」


 長すぎるし、絶対に噛む。

 ドラゴン……ドラゴン……それに女の子……。


「ドラゴン子……ドラ子……そうだ、ドラコってのはどうかな?」

「可愛らしいですね!」

「よし。ドラゴン、ちょっとおいで」

「ふえぇ?」


 子どもドラゴンがとてとてと俺のところまで歩いてくる。


「良いか。君の名前はこれからドラコだ」

「ドラコ……可愛いー! さすが、おとーさまなのだ!」


 どうやら子どもドラゴン——いや、ドラコも喜んでくれたみたい。


 ぐぅ〜。

 そんなことをしていると、ドラコのお腹から音が鳴った。


「くぅ……お腹減ったの」

「生まれてからなにも食べてないもんな。ちょっと待ってろ」


 椅子から立つ。


 それにしても、ドラコは生まれたばっかだというのに、よく喋れるな。

 人間なら五、六歳くらいの幼女と一緒くらいか。

 それに喋るだけではなく、自分のことを分かっている節がある。

 普通ならば、生まれたばっかなんて自分の性別も分からず「おぎゃー、おぎゃー」と泣いているだけだろう。

 というか自分の意志があるのかも不明だ。

 やはりそこは——人間よりも知性を持っていると言われるドラゴンからなのか。

 それとも【スローライフ】の効果で子育てしやすくなっているのだろうか。


「まあ細かいことはどうでもいいか……」


 そう呟きながら、台所へと向かって袋を取り出す。


「マリーちゃんも……リネアも……ディックもおやつにしよう」

「「「「やったー!」」」」


 テーブルにそのお菓子を広げると、みんなが目の色を変えて喜んだ。


「これはなんですか?」

「見たことのないお菓子なのー」


 リネアとマリーちゃんが覗き込むようにして、そのお菓子を見る。


「ああ……これはドーナッツというお菓子だ」


 これも勇者パーティー時代、立ち寄った街で食べさせてもらったお菓子である。

 とはいっても、食べさせてもらったのもその街の領主の屋敷だったので、一般庶民にはあまり知られていないだろう。


「お、美味しいなのだー!」

「あっ、ドラコちゃん。早いの!」


 ドラコが「いただきます」を言う前にドーナッツを手に取って、口に入れた。

 それを見て、他のみんなも飛びつくようにしてドーナッツを食べ出した。


「甘いです!」

「これはパン……なのか?」

「ブルーノさん、これってもしかして砂糖が使われているんじゃ……」


 リネアとディックが美味しそうにドーナッツを頬張りながら、そんな疑問を口にする。


「ご名答。そのドーナッツには大量の砂糖が使われているんだ」


 ちなみに……砂糖については『そこらへんの砂』とかを上手く調合したら、いくらでも作ることが出来た。

 これもスキルの効果である。


 ただドーナッツを焼き上げる際に、オーブンを使う必要があった。

 オーブンなんてものは高価で、庶民の家に置かれていることはまずない。

 なので市街のパン屋さんにオーブンを貸してもらったのだ。


 なにか記念事があったら、これをみんなで食べようと思って置いておいた。

 まさかドラゴンが一口目を食べるとは思っていなかったが。

 みんなが美味しいと思ってくれるなら、万々歳だ。


「ふう、ごちそうさまなの!」


 あっという間にテーブルに広げられたドーナッツがなくなってしまった。

 手を合わせてそう言ったマリーちゃんを、不思議そうにドラコが見る。


「ごちそうさま……ってどういう意味なのだ?」

「え? ドラコちゃん、知らないの? これは食べ終わった後に、作った人とかにお礼を言う挨拶だよ」

「挨拶? どうしてそんなことを言わないといけないのだ?」

「うーん、だってそっちの方が気持ちいいじゃん! 作ってくれた人も、食べた人も」

「成る程!」


 納得したのか、ドラコが手を合わせてマリーちゃんと同じように、


「ごちそうさまなのだ!」


 と頭を下げた。


「か、可愛い!」


 リネアがほっぺに手を当て、ドラコの可愛さにとろけている。


「うんうん、人間のマナーも大切だよな」


 当面の間、ドラコはご近所さんとかに『ドラゴン』であることを隠しておきたい。

 いくら生まれたての子どもとはいえ、ドラゴンなんて街で抱えているとなったらパニックになってしまうからだ。

 そのため、人間の社会に溶け込めるようドラコを教育していなくちゃな……。

 俺、本当に子どもの父親になったみたいだ。


「だったら……今、俺が住んでいる小屋はちょっと狭いかもしれないな……」


 いつまでか分からないが、これから俺とリネア——そしてドラコの三人で住むことになるのだ。


「家を建てるのは高いしな……市街の方で、部屋を借りたらどうだ?」


 とディックが提案してくれる。

 だが。


「いや、それよりも……前々からやってみたいことがあったんだ」

「おう?」

「自分で家を造ってみたかったんだ!」


 自分の家。

 しかしどっかで借りたり、家を買うのはそれはそれでスローライフに反している気がするのだ。

 なんとなく、気分的なものだが。


 しかし——自分で家を造って、そこに住む。

 これぞまさにスローライフだ!


「DIYってヤツだな」


 なるべく自分で作れるものは自作していきたい。


「というわけで……早速、三人で住む家を造るぞ! リネアとマリーちゃんも行こう!」

「「はい!」」


 こうして、俺は家を造ることに決めた。

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