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60・おっさん、リネアとデートする(2)

 後ろ髪引かれる気分であったが、結局そのメイド服は購入しなかった。

 当たり前だ。こんなの買ってディックとかに見つかってみろ。変態呼ばわれされることは間違いない。


「むむぅ、可愛かったのに……」

「もっと機能的な服を買えよ。あんなの外で着れないだろ?」

「部屋着にします!」

「もっと止めろ」

「どうしてですか?」


 俺が我慢出来なくなる。


 というわけで——店内の物色を再開すると、


「ブルーノさん! これがいいです!」


 白色のワンピースをリネアが見つけた。


「おお、良いじゃないか」


 これだったら、外でも着て歩き回ることが出来るだろう。

 その後、リネアがワンピースを試着してもらったが、やっぱりもの凄く似合っていた。

 さっきのメイド服よりもな。


 こうして見ると、一国の王女様のようにも見える。


「よし……じゃあお会計しようか」


 ワンピースを着たままのリネアと一緒に、店員のところへ行く。


「すいませーん……これを買いたいんですか」

「はい——なっ、それは!」


 さっきの白髭の店員に話しかけたら、目を丸くして口を詰まらせた。


「どうしました?」

「……これは当店でも最高級の服なのです。素材には最高級のシルクを使い、最高級の職人の手によって作られた至高の一品。それは勝手に試着してはいけなかったんでぅぅぅうううう!」

「えぇぇええ? ダメだったのか?」


 いきなり店員が怒り出して、服を剥がそうとしたので全力で止める。


「買えば問題ないんでしょう?」

「それはそうですが……その服は八十万ベリスもします。あなたのような冴えないおっさんが買えるものでもないと思いますが?」

「本性を現してきたな、おい!」


 まあリネアと俺が不釣り合いに見えるのは、最初から分かっていたことだ。

 俺は財布から札束を取り出し、


「ほい、ここに百万ベリスある」

「……え?」

「これで問題ないよな?」


 …………。

 店員の体が固まっている。


 しかしやがて慌ててお札を数えだした店員は、


「あ、ありがとうございましたぁぁああああ! まさかこんな大富豪だと思いませんでした!」

「いやいや、百万()()()で大富豪呼ばわりされたら、恥ずかしいですよ」

「百万ぼっちなんて……! やはり相当の大富豪? もしくは王都から来た大商人……? もしくは名を馳せた冒険者でしょうか?」

「いや、俺はただのおっさんだ」

「お、おっさん……?」


 その名前に聞き覚えがあったのだろうか、店員はこめかみに指を当てて目を瞑った。


「て、店長……」


 他の店員が白髭……って店長だったのかよ! に近づき、耳打ちをした。


 すると店長はバッと目を見開いて、


「お、おおおおおっさんでございましたか! この街で神と崇められる冒険者! あなたなら、このお店のものを全部買い占めることも出来るでしょうね」

「よしてください。それに今はそんなに騒がれたくないんだ……」

「おやおや、お忍びでデート中でしたか。す、すいませんでした! 今後もこのお店をご贔屓ひいきに!」


 やれやれ、やっと店から出ることが出来る。

 ダンジョンの最奥まで潜って、やっと白のワンピースを手に入れた。

 ……って感じの疲労感だな。


「ごめんな、リネア。なんか騒がしくしちゃって」

「全然! それにブルーノさんが良く言われているのは聞いてて気分良いですから!」


 でも良かった。

 こんなに無垢なリネアの笑顔を見られるなら、何着でも服を買ってあげよう。

 また来よう。




 日も暮れてきたことなので、そろそろ晩ご飯の時間だが……。


「よし。今日は外食しよう」


 そう言って、リネアと良い感じのレストランを訪れた。

 そこでは店内とバルコニーに席があったので、そっちに座ることにした。

 ワインとちょっとしたディナーが運ばれてきて、俺達は「いただきます」と手を合わせた。

「こんな風に食べるのも楽しいですね!」


 リネアが心から嬉しそうに笑みを作る。


「そうだな」


 空も暗くなってきて、良い感じの夜空になっている。

 星空を下に、白色のワンピースを着たエルフの美人とお食事。


 ……うん、生きてきて良かったー!

 俺の人生でこんなことが起こるなんて夢のようだ。


「ブルーノさん?」


 リネアが俺の顔を見つめる。


「ん?」

「どうして、今日はレストランなんですか? いつもディック君の家に行って、ブルーノさんがご飯を作ってくれるのに……」

「まあ、たまにはこういうのも良いかなって思ってさ」


 俺がいくら料理が好きで得意だったとしても、いつもお家でご飯を取るのはリネアに申し訳なかった。


 やっぱり——リネアだって女の子なのだ。

 こうして外出したい時もあるだろう。


「ん、もう……私はブルーノさんが作るご飯でもいいのにっ」


 そうは言うものの、リネアは嬉しそうだ。


「ずっとこんな時が続けばいいのにな」


 ぼそっと俺は呟く。


「え……っ? どうしてそんなこと言うんですか?」

「ん? いや、思ったことを口にしただけだが……」

「そんなこと言うと寂しくなるじゃないですか。終わりがきちゃうのか——って思って」

「ああ、ごめんごめん。考えすぎだよ」


 勇者パーティーから追放された時はどうなることかと思ったが。

 今ではイノイックの生活も馴染んできて、リネアが常に隣にいてくれる。

 冒険していた頃よりも、ずっと充実している。


「リ、リネア。リネアが良かったらなんだけど、俺と——」


 そのままの勢いで口にしようとした時であった。


「じ、地震っ?」


 急に建物全体が揺れたのは。



 ——ゴゴゴ。



 結構大きめの縦の振動。

 俺はリネアと一緒にテーブルの下に潜り込んだ。


「収まったか……」


 三十秒くらいだろうか。

 だが、お店は騒然としておりテーブルの上の料理は散乱としている。

 他のお客さんの中には泣いている子どももいて、見ていて気分の良いものではない。


「最近、地震が多いように思えるのは気のせいでしょうか?」

「そうだな……そんな気がする」


 悪い前兆じゃなかったら、いいんだが。

 その後、店員が来てスピーディーな対応をしてくれたので、なんとか気分を持ち直してご飯を食べ終えることが出来た。

 もっとも、ほとんどお皿から地面に落ちてしまったせいで、食べられるものは少なかったが……。


 全く。

 地震というのは誰のせいでもないが、もしこれを起こしたヤツがいたら説教かましてやる!


「「ごちそうさまでした」」


 こうして地震に腹を立てながらも。

 晩ご飯を食べ終わったのだ。

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