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56・おっさん、渋々ギルドに足を運ぶ

※55話の最後の方の展開を少しだけ変えました。

変更後を見なくても読めるようにはしているので、このままご覧いただいても大丈夫です。

 結局、あの後。

 リネアとベラミの喧嘩のせいで、寝付いたのはずっと後であった。

 家の中のものを投げつけ合っていた二人は、いつの間にか疲れて寝てしまっていた。


 俺は散らかった部屋を片付けして、そっから寝て——ってしたら、大分遅くなった。


 俺が一番疲れたよ……とほほ。



 そして朝。


 ドンドン。


 けたたましくドアをノックする音で目が覚めた。


「こんな朝早くから誰だ……? はーい、ちょっと待ってくださいね……」


 リネアとベラミはまだぐっすり寝ている。

 俺は慌てて起きて、二人を布団で隠してやる。


「はいはい……なんでしょうか?」


 中があんまり見られないように、ドアをちょっとだけ開けて来訪者を見る。


「おっさんでしょうか?」


 来訪者は一人の男であった。

 うーん、どっかで見たことあるような気もするが、二十そこそこの若造だ。

 体を見るに、まあまあ鍛えているようにも見えるが。


「はい。ただのおっさんです」

「おっさん……こんな朝早くからのご無礼。お許しください」

「いやいや、それは別にいいですよ。それで一体なんでしょうか……?」

「は、はいっ」


 若造は直立不動のまま、こう続けた。


「実は冒険者ギルドの方に来て頂きたいのです」

「ギルドの方に?」


 別に俺、冒険者でもなんでもないぞ。

 湖の主の時とか、リネアの件もあり関わりがないことはないが。


「どうしても、おっさんに依頼したいことがありまして。ギルドマスターから直接話したいと」


 ギルドマスター……あのデ——ぼてっとした体格の男か。


「本来ならギルドマスターから、こちらに赴くのが筋ですが、色々と立て込んでましてギルドから出られず……それにギルドに来て頂いた方が、話も分かりやすいかと」

「それは別にいいんですが……どうして俺に?」

「おっさんしか解決出来ないことなのです。お願い出来ませんか?」


 本来、俺はイノイックギルドに登録している冒険者でもないので、言われるがままに足を運ぶ必要はない。


 しかし義理はある。

 あのギルマスにな。

 リネアの件でお世話になったことだし。

 話くらい、聞いておかないとギルマスに申し訳ない。


「分かった。じゃあちょっと支度をするから、先にギルドに戻っておいてください」

「助かります。では何卒……」


 そう言って、使いの若造(おそらくギルド職員)は去っていった。

 ドアを閉めてから「ふう」と溜息を吐く。


「一体、なんなんだろう。今日は休日だから、ゆっくり体を休めようと思ったわけだが」


 いや、毎日が休日みたいなもんだが。

 スローライフ最高。


「うぅん。ブルーノさん? もう起きていたんですか?」

「なにか話し声が聞こえたわね」


 むくっとリネアとベラミも起きてきた。


「ん? ああ、ちょっとギルドの方から人が来てな」

「ギルドの方から? なにがあったんですか?」

「なんでも俺に依頼したいことがあるらしい。ギルマスには義理もあるし、ちょっと行ってくるよ。リネアとベラミは家で休んどいてくれ」


 そう口にして、軽く寝癖を直してからギルドに向かおうとすると、


「私も行くわ!」


 とベラミが元気よく立って、ハキハキと声にした。


「は? どうしてベラミも行かなくちゃならないんだ」

「だって退屈だからね。ギルドって冒険者ギルドでしょ? そろそろ魔法でもぶっ放さないと、肩が凝りそうだわ」

「昨日あれだけ散々魔法を放ったじゃないか」

「あれが? あんなの、発動したうちに入らないわよ」


 普通、あれだけ魔法を発動すると体がだるくなり、翌日も寝たきりの状態になってしまうだろう。

 しかしそこはベラミが元々持つ圧倒的な魔力の貯蔵量。

 エルフにすら劣らない魔力を保っているため、翌朝になってもベラミは元気のままである。


 農業をしている時は気怠そうだったのに、今は瞳がキラキラと輝いている。

 根っからの戦闘狂なのだ。

 別に連れて行っても構わない。


 だが。


「お前が行っちゃ、さすがにバレるだろう」


 ベラミは勇者パーティーの魔法使い。

 俺みたいな荷物番はともかく、ベラミは一応『伝説の魔法使い』的な扱いだ。


 光り輝く金髪のツインテール。

 その特徴を見られるだけで、勇者パーティーの一人だとバレても可笑しくはない。


「確かに……正体がバレちゃ面倒臭そうね。サインする気分じゃないし」

「そうだろ。だから家で待っておけよ」

「それも嫌よ。こんなに良い天気の日に部屋に閉じこもるおかしな人は、どっかの荷物番しかいないわ」

「悪いな。おかしな人で」

「うーん、それに外見くらいどうにかなるでしょう」


 そう言いながら、ベラミは髪を解きツインテールを止めた。


「これでどう?」


 軽くパーマがかっている髪。

 その髪がベラミの白い体を隠している。


「うーん、それでも心配だな……そうだ」


 良いものがあった。

 俺は部屋をゴソゴソと漁り。


「この服を着ろよ」

「これってウェイトレスとかがよく着てる服じゃない! どうして、アタシがこんなの着ないといけないのよ!」


 無論、喫茶店を開店する時に作ったものである。

 しばらく喫茶店を再開するつもりはなかったので、家に保管しおいたものだ。

 ツインテールを解いて、この服さえ着させておけばまあ誤魔化すことが出来るだろう。


「別にいいじゃないか。それに……ウェイトレス姿のベラミも見てみたいぞ?」

「嫌!」


 これはなかなか難儀しそうだ。

 と思っていたが。


「あら、これ可愛いじゃない」


 最初は駄々をこねていたベラミであったが、服に袖を通してみれば途端に上機嫌になった。


「だろ?」


 今ではクルクルと回っちゃったりなんかしている。

 こいつも一応女の子なのだ。こういう可愛らしい服を着たい、という欲求は常にあるだろう。

 もっとも、もう女の『子』っていう歳じゃないかもしれないが。

 それを指摘すると、この家一個が吹っ飛びそうなので口を閉じておく。


「じゃあリネア、行ってくるよ。お留守番しおいてくれ」

「分かりました……でも、ベラミさんと変なことになっちゃったりしないでくさいねっ。ギルドの依頼が終わったらすぐに帰ってきてくださいね!」

「分かってる分かってる」


 ベラミとなるはずがない。

 昨日はたまたま酔っていたのだ。

 ノーカンノーカン。



「なんだ、あの可愛い子は?」

「それに隣にいる男は英雄おっさん? となると、新しい愛人か?」

「ウェイトレスの服を着ているが、どっかで見たことあるような……」


 ギルドに入ると、周りからコソコソと声が聞こえてきた。


「アタシがブルーノの愛人? 心外だわ。ねえ、ブルーノ。ここ焼き払ってもいい?」

「止めとけ」


 トン、とベラミの頭を軽く小突く。

 よし、ベラミのことはバレてないみたいだ。


「待ってたんだな」


 早速受付に行くと、そこではギルマスが出迎えてくれていた。


「すまん、少し遅くなった」

「謝るのはこっちの方なんだな。わざわざ呼び出して申し訳ない」

「それで話ってのは?」

「うむ。その前に……」


 ギルマスがチラッとベラミの方を見る。


「ああ、気にしないでください。こっちでお店をやっているバイトの子ですから」

「そ、そうなんだ……それをわざわざ連れてくる必要性が感じられないが、まあ良いんだな。それで話というのは——」


 とギルマスが話を切り出そうとした矢先、


「た、大変だ! アーロンさんが猛毒にかかっちまった!」

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