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48・おっさん、ゆっくり農業を再開する

 ★ ★


 おっさんブルーノを追放し、ベラミとライオネルの二人もいなくなってしまい、とうとう一人ぼっちになってしまった勇者ジェイク。


 そして現在——ジェイクは一人剣を振るって、ドラゴンと戦っていた。


「はあっ、はあっ……やはり、剣だけではドラゴンの固い鱗を斬り裂くのは手間がかかる」


 ドラゴンの息吹ブレスを避けながら、何度も剣を一閃していく。


 ——ベラミとライオネルがいれば、こんな地道な真似はしなくてもよかった。


 ジェイクとライオネルが前衛としてドラゴンを足止めしている間、ベラミが特大の魔法を編む。

 そしてぶっ放す。

 大勝利。


 ドラゴンすら、流れ作業と化してしまったくらい——楽勝であった。

 だが、一人ぼっちになってしまえばそういう訳にもいかない。



 ——結局、ドラゴンが動かなくなったのは戦闘開始から一時間後であった。



「なんでこんなドラゴンなんかに苦戦しなければならない……」


 剣を鞘にしまいながら、不満げにジェイクはそう呟いた。

 なんだかんだで単独ソロでドラゴンを討伐出来るのは——さすが勇者の加護を授かった人間、といったところだろうか。


「それもこれもブルーノが悪い」


 足手まといのブルーノ。

 ただ近くにいるだけでも、イライラしてくるブルーノ。


 そんな彼がいなくなり、ベラミとライオネルは不満を溜めて爆発。一時的だと思うが、パーティーから抜けていった。


 思えば、ブルーノは不満のけ口だったのだ。

 なにかあった時の格好の的。

 本来、ブルーノ以外は我が強い勇者パーティーのメンバー。

 ある意味これは必然の結果だったかもしれない。


「い、いや! そんなわけない!」


 ブンブンと首を振って、自分の考えを否定する。

 それを認めるということは——過ちを認める、ということだからだ。


「まあ良い……今日はご飯を食べて寝よう」


 しかしここでふと気付く。


 一体、なにを食べればいいんだ?


 ブルーノがいたら、ドラゴンの肉さえあればさぞ美味なステーキを作っただろう。

 思い出したらヨダレが溢れてしまいそう。


 しかし——ジェイクはドラゴンを解体出来たとしても、ブルーノみたいに上手く調理が出来ない。

 ならば今日のところは治療用に持ってきた薬草でも食べて、空腹を誤魔化すしかない。

 言っておくが、薬草というものは不味い。食用として使うものではない。


 ——やっぱりドラゴンのステーキ食べてー!

 地面に伏せているドラゴンをちらっと見て、ジェイクはこう思う。


 どうしてこうなったっ!


 ★ ★


 無事にワインも商人に引き渡すことが出来た。

 ワインをお金と引き替えに渡したら「うぉぉおおお! あ、ありがとうう゛ぁいまずぅ」と涙を流して、クライドは喜んでくれた。

 大袈裟なヤツだ。


 ってなわけで——それから比較的平和な日を送っていた。


「なかなか芽が出さないですね……」


 家の前に整備された農園を見て、リネアはそう呟いた。


「ああ。まあそんなに早く収穫してもつまらないからな」


 そう返す。


 まあ『整備された』といっても、等間隔に色々な野菜や果物の種を植えていただけではあるが。

 しかも今度はそこまで大規模ではなく、あくまで一部を使って育てているだけ。

 家庭菜園というヤツだ。


《なんでわざわざ時間をかけるような真似をするのよ》


 久しぶりに女神が出てくる。


「(ってか植えたものがすぐに芽を出してもつまらないだろ)」

《分からないわね……時間をかけても、品質は変わりないわよ?》

「(そういう問題じゃないのだ)」


 確かに【スローライフ】を使えば、ここに植えている種はすぐに芽を出し、収穫することが可能だろう。

 でも俺は気付いたのだ。



 ——それじゃあ農業してるってことにならない!



 やっぱ農業の醍醐味だいごみといったら、長い月日をかけてゆっくりと育てていくことにあるだろう。

 いや、本当に農業を営んでいる人にとったら、「そんな甘くねーんだよ」と怒られそうだが。


 一度試しに——今回は家庭菜園レベルで収めることにした。

 つまり【スローライフ】を発動せず、ゆっくりと長い目で育てていくことに決めたのだ。


《あんたの考えていることは相変わらず分からないわ》

「(人間には『忍耐』って言葉もあるんだよ)」

《前のワインだって……ただ美味しく作っただけだし……》

「(それのなにがいけないんだよ)」

《つまんないじゃない。あの商人気に入らなかったんでしょ? どうせならワインに猛毒を仕込んで……》

「(物騒なことを考えるな)」


 本当にこいつ女神なのか?

 女神らしかぬこと言い過ぎだろ。


《あ、あんた! なに失礼なこと言ってるのよ! わたしみたいな超絶美少女——女神に決まってるでしょ!》

「(いや、お前の姿形知らないし)」

《だからあんたは一度わたしの姿を——ああ、もう交信出来る時間が終わりだわ》


 最後にそう言い残して、女神の声が聞こえなくなった。


「ブルーノさん」

「わっ!」


 急にリネアに顔を覗き込まれたものだから、つい驚いてしまう。


「……たまにブルーノさんってぼーっとしている時ありますよね」

「そ、そうか?」

「そうですよ。なにか……他の人と声を出さずに喋っているような……そんな時があります」


 図星である。


「そ、そんなことないよ。ってかそんなこと有り得ないだろ」

「それはそうですが……脳内彼女でも飼っているのか、と思って」

「寂しいっ!」


 独身中年をこじらせたら、そういうのも出来るかもしれない。

 しかし俺にはリネアがいる。

 そんなもの飼う必要ないのだ。


 それにしても……女神のことをリネアに話そうか?

 いや、このタイミングで喋ったとしても、理解してくれないだろう。

 しかしまたタイミングを見て、リネアくらいには話したいな。



 ぐ〜っ。



 あっ。


「……今の音って」

「っ!」


 リネアが恥ずかしそうにお腹を押さえる。


「だ、だって仕方ないじゃないですかっ! 朝ご飯も食べてないですしっ! エルフだってお腹も減りますよ!」


 耳たぶまで真っ赤にするリネア。

 そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。

 でも確かに、まだ起きてからご飯を一口もしていない。


「よし。ディックん家に行って、昼ご飯でもするか」

「はぅわ!」


 リネアが変な声を出して、笑顔になる。

 ……とはいっても調理する食材がないな。


 あっ、そうだ。


「ふんっ」


【スローライフ】


 種を植えていた地面から、にょきにょきと音を出してあっという間にじゃがいもや人参にんじんが実った。


「よし、これを持って行こう」

「はい!」


 早速収穫して、ディック達の家へと向かった。


《——いきなり【スローライフ】使っちゃってるじゃない!》


 女神よ、まだ交信出来たのかよ。


 まあ、あれだ。

 細かいことは気にしない!

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