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45・おっさん、ワインを卸す

 自慢のじゃがいもや果物、そしてワインも一本だけリュックに詰め、早速市街へと出た。


「さて……どこにおろそうかな」


 ぶらぶらと市街を散策してみる。

 いちいち一つの店と交渉するのは面倒臭い。

 出来れば、一つにまとめて卸せるような便利な店があればいいんだが……。


「おっ……食べ物屋『カリンフード』?」


 こじんまりとしているが、どうやら営業しているらしい。

 食べ物屋、っていうくらいだから野菜とか果物に限らず、色々な食べ物を売っているということなのか。


「ここに入ってみるか……ごめんくださーい」


 そう言いながら、店内へと入る。


「いらっしゃい!」


 入った瞬間、快活な声。

 外から見ている通り、どうやらそこまで広いお店ではないらしい。


「自由に見ていってくれよ! なにか欲しいものがあったら、カウンターまで持ってきてね!」


 ——そう元気に声を出しているのは、頭から狐のような耳を生やした女の子であった。

 小柄で幼い顔立ちはしているものの、堂々とした佇まいであった。


獣人族じゅうじんぞくか……」


 様々な種族が入り交じる王都ならともかく、こんな辺境の地でお目にかかることのない種類の子だ。


 俺がまじまじと眺めてしまったせいか、


「う、うん? どうしたんだい? もしかしてナンパかいっ! ナンパならお断りだよ!」


 耳がぴーんと立ち、女の子が警戒色が濃くする。


「ああ——すいません。実は客じゃないんです」

「やっぱりナンパなのかい!」

「い、いや……ナンパでもないんだが……」


 大股で近付いてくる獣人族の女の子に、ついたじたじになってしまい口が上手く回らない。


「実は……俺は野菜とか果物とか栽培しているんだが、良かったら買ってもらいたいと思って」

「ほ、ほう? 業者の人ってことかい」


 女の子の耳がぴこんぴこんと動いた。


「えーっと、ここは……色々な食べ物を売ってるんですよね?」


 改めて店内を眺める。

 そこまで広くない店内ではあるが、所狭しと果物や野菜が並べられている。


 おっ、お酒もあるみたいだぞ!

 どうやら、俺の求めていたお店らしい。


「そうだよ! っていうかそんなことも知らずに、営業かけにきたってことなのかい!」

「す、すいません……」

「いいよいいよ! 気にしないで! アタイはカリン! あんたは?」

「俺はブルーノと言いまして……」

「ブルーノ聞いたことがないね」


 獣人族の女の子——カリンが首を傾げる。

 どうでもいいが、この子がちょっと動くたびに頭の耳が動いて、とても可愛らしかった。


「この街にやって来てのは最近のことですから……」

「成る程。なら仕方ないね!」


 話が分かる子だ。

 変な人に騙されないか心配になった。



 その後、カリンは他にいた店員に接客を任せて、店の奥へと俺を案内してくれた。



「さて……アタイにどんな食べ物を売ってくれるんだい? 自分で言うのもなんだけど、アタイは食べ物に関しては厳しい方だよ」


 カリンの目が鋭くなる。

 だが、耳がぴこんぴこんと動いたままなので、なんというかなごむ。


「ええ……実は色々あるんですが」


 そう言って、じゃがいもやリンゴといった食べ物をテーブルの上に出した。

 しばらく、カリンは「ほほう」と言いながら注意深く見て、


「成る程……とっても良い野菜や果物達だね! さぞ育てるのに時間がかかっただろう!」

「あ、ありがとうございます!」


 自分が丹精込めて育てた食べ物が褒められたものだから、ついつい嬉しくなってしまう。

 ……いや、一日かかってないくらいだが。


「じゃあ買い取らせてもらうよ! あるのはこれだけかい?」

「い、いや……まだ余ってるヤツがあるんですね……」

「とっても良い食べ物だから、出来れば全部うちに卸して欲しいな!」

「あー、全部はちょっと……自分で食べる用にも置いておきたいから……」

「だったら、売りたい分だけ持ってきてくれれば——」


 やり取りは比較的スムーズに進んだ。


「あっ、そうそう。売りたいのは食べ物だけじゃなくて、ワインもあるんですが……大丈夫ですか?」

「ワインなんかも作ってるのかい! よほど、大人数で育てたり作ったりしているんだね。もしかして、王都からやって来た大富豪とか?」

「いえいえ。俺はしがないおっさんですから」

「おっさん? なにか聞いたことがあるような……」


 そういや——誤解とはいえ、名前が『おっさん』として街では英雄扱いになっていたんだな。

 気付かれると面倒臭いから、さっさとワインを出そう。


「これです」


 リュックからワインが入った瓶を取り出し、カリンに渡す。


「こ、これは……! ちょっと一口飲ませてもらってもいいかな?」


 それを見た瞬間、何故だかカリンの目つきが変わった。


「どうぞどうぞ」


 カリンは手の平にワインを一滴垂らし、匂いを嗅いでから口にして——、



「う、旨いぃぃぃぃいいいいいい!」



 と椅子の上に立って、絶叫した。


「な、なんだいこのワインはっ? 初めて飲んだよ、こんなに美味しいのは! 濃厚で渋みがありながらもどこか爽やかさを残してる味! 口から鼻へと通り抜ける野の花のような香り! 思わず頬が緩んでしまうね……い、一体こんなワイン! どうやって作ったんだいっ?」


 興奮気味でカリンが身を乗り出して、口早にそう尋ねてきた。


「えっ、いや、ぶどうを手で潰してそれで発酵させて……」

「そんな基本的な作り方あたいでも知ってるよ!」


 怒られた。


「細かいとこは秘密ってことかい……」

「ま、まあそんなところかな」

「じゃあ一つだけ聞かせてくれ! これはどれだけ寝かせたんだい? 五年? 十年? それともそれ以上……」

「十五分だ」

「十五年! なかなか長い年月をかけてるんだね!」

「いや違——」


 否定してみるものの、カリンは興奮しており、とても冷静に耳を傾けてくれそうにない。


「でも……こんな美味しいワイン。あたいのところで売れないよ。そんなお金もないし」


 しょぼん。


 そんな感じでカリンが肩を落とした。

 耳もぺたーっとなっていってとても可愛い。


「ん? お金? 別に少しでいいぞ」

「いやいや……200……いや、300万ベリスくらいしてもおかしくないワインだ。もし仕入れたとしても、それ以上で売れるツテもない。あたいの店は庶民の味方だからね! 大富豪の知り合いもいないのさっ!」


 300万ベリス……ワイン一本と考えれば、なかなかの値段だな。

 勇者パーティーにいた頃も、さすがにそれくらいの酒は王を交えた親睦会くらいでしか見たことがない。


「そんなにいらないよ。なんなら100ベリスくらいでも——」

「な、なにっ? 100万ベリスで売ってくれるって? そんなの……あたいのプライドが許さないよっ!」

「いや、だから100ベリス——」


 この子、最後までちゃんと話を聞いてくれないなあっ?


 やれやれ。

 溜息を一度吐き、


「じゃあ……ワインは別にいいよ」


 まあワインくらいなら、リネアがさらっと飲み干してしまうだろう。


 リネア。結構お酒に強いことが判明しているしな。

 エルフは全員そうなのだろうか?

 ……いや、そんな話聞いたことがないので、きっとリネアが特別なだけだろう。


「ちょいっとお待ち!」


 席を立とうとすると、カリンが手の平を掲げ、


「あたいんとこで仕入れることが出来ない! でも知り合いに商人がいるんだ。その人ならきっと君のワインを買ってくれるはずだよ」

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