40・おっさん、リンゴを育てる
ワインと一緒にポテトサラダを口に入れていく。
うーん、お酒にも合う。
「おっちゃん、じゃがいもを育ててるの?」
マリーちゃんが目をまん丸くして質問してきた。
「ああ」
「マリーもおっちゃんの手伝いをしたいの!」
「ははは。ありがとう。でももうじゃがいもの収穫は終わっちゃったから……」
「そうなのぉ……」
マリーちゃんが肩を落とす。
しかしすぐに顔をバッと上げて、
「じゃ、じゃあ! 今から育てるの!」
「じゃがいもを?」
「じゃがいもも良いけど……マリー、リンゴを育ててみたいの! リンゴを一杯育てて、それでリンゴ飴を作ってぺろぺろするの!」
「成る程。それも良いな」
リンゴか……。
果物を育ててみるのも楽しいかもしれない。
マリーちゃんはじゃがいもでも喜んでくれるが、やっぱり子どもには果物とかの方が良いに違いない。
それにしても——。
「リネア。リンゴって植えてからどれくらいで収穫出来るんだ?」
「どうでしょう? でも五年くらいはかかるって聞いたことがありますが……」
「五年かぁ……」
長い。
だが【スローライフ】があれば、一日で収穫出来るようになるだろう。
だから。
「じゃあマリーちゃん、リンゴを育てようか」
「でも食べられるようになるまで五年もかかるの? それだけマリー、我慢出来ないかもなの!」
「大丈夫。そこんとこはなんとかして、一日で収穫出来るようにするから」
そう胸を叩く。
「……いや、無理だろ」
ディックがジト目をして、ぼそっと呟いた。
なんとかなるものはなんとかなるのだ。
「じゃあ種を用意して早速始めようか」
「うん!」
「ブルーノさん、私も手伝いますね」
「おう」
——というわけで、今度はリンゴを育てることに決定した。
◆ ◆
その後。
マリーちゃん、リネアと楽しくリンゴの種を植えた。
ちなみに——俺の家の前は、じゃがいもを収穫したばかりで地面が荒れているので、今回はディック家の前だ。
みんな顔を土塗れにしながら、それでも楽しく種を植えていった。
「よし、今日のところはこれで終わり!」
「早くマリー! リンゴ食べたいの!」
「ああ、明日には食べられるようになってると思うから楽しみにしてな」
と言いながら、マリーちゃんの頭を撫でた。
……というわけで翌日。
「お、おおおおおおおっちゃん!」
「ブルーノさん! 起きてください!」
「ん〜」
朝。
寝ていたら、体を揺さぶられて覚醒する。
「なんだ?」
寝ぼけ眼を擦りながら、マリーちゃんとリネア二人にそう尋ねる。
——ああ、そうだ。
昨日は疲れていたからディックの家に泊まらせてもらったんだ。
早いとこ、リンゴを収穫したいしな。
「昨日植えたリンゴの種が大変なことになってるの!」
「ブルーノさん! とにかく外に出ましょう!」
「ちょ、ちょっと待て……まだ眠い……」
まだ頭がぼーっとしている。
寝間着姿のままだし。
だが、二人に手を引っ張られれる形で外に出される。
「なっ、これは……!」
扉を開けた外を出た瞬間。
目の前に広がる光景を見て、思わず言葉を失ってしまう。
——そこには果樹園が出来ていた。
うん、そうとしか表現出来ない。
いや、果樹園っていう表現も生ぬるいだろうか。
果樹園というより一種の森だ。
「これ全部にリンゴの木なのか……?」
さらに一本一本の木に赤い果実が付いている。
俺はそのうちの一本に近付いて、赤い果実を取る。
「いただきます」
がぶっ。
かぶりつくと、リンゴの甘い味が口に広がった。
「おお! 立派にリンゴが出来てるぞ」
「マリーも食べるの!」
「私もっ!」
二人も俺に続く形で、木に成っているリンゴを手に取って口にしていく。
「「美味しい!」」
頬に手を当て、二人が歓喜の声を上げた。
「騒がしいな……って、なんじゃこりゃー!」
「ディック。おはよう」
リンゴをむしゃむしゃしていると、ディックも起きてきてリンゴの果樹園(ってか森)を見て目を白黒させる。
「……はあ? これが昨日植えたリンゴだって? なんで一日でこんなに育ってるんだ?」
ディックに説明をしたが、完全には理解していないみたいで頭上で『?』マークが跳ねているようにも見えた。
「えっ? これはなんだなんだ?」
「どうして家の前が森になってるんだ?」
「この果実は……リンゴ? どういうことだ?」
ご近所さんも起きてきたみたいで、俺達の果樹園を見て驚きの声を上げる。
「あっ、リンゴを育ててみたんです。良かったら、お一つどうぞ」
リンゴを頬張りながら、そうやってご近所付き合いも怠らない。
明らかにご近所さんも戸惑っていたが、リンゴを食べると揃って顔を笑顔にさせて、それ以上質問はしてこなかった。
「リンゴも大成功みたいだな」
ちょっと育ちすぎな気がするけど……。
収穫したリンゴも美味しいし、みんな笑顔になってくれている。
それに満足しながら、この果樹園をゆっくり散歩していると、
「ん?」
赤い果実が実っている木。
そのうちの一本に——黄金の果実が一つだけ実っていた。
「なんだこりゃ」
黄金の果実を手に取ってみる。
見た目上は完全にリンゴに見える。
しかし、こんな金ぴかに光っているリンゴが他のどこにあろうか。
「おっちゃん、なに持ってるの?」
マリーちゃんが気が付いて、とことこと近寄ってきた。
「ああ……変なリンゴを見つけてね」
「金ぴかに光ってるの! きっとめちゃくちゃ美味しいの! マリーが食べる!」
「ちょ、ちょっと! もしかしたら毒かも……」
止める間もなく、マリーちゃんにひょいっと金色のリンゴを奪い取られて、かじられる。
「ひ、ひやっ!」
「マ、マリーちゃんの体が輝きだした?」
そう。
マリーちゃんの全身が金色に光り出したのだ。
それは目を開けられてないくらい強くなって、やがて収まった後には——。
「ど、どういうことだっ?」
——マリーちゃんの面影を残した美女が目の前に現れたのだ。




