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39・おっさん、じゃがいもを収穫する

「農業ってのもなかなか大変なんだな……」

「楽だったらみなさん農家になってますよ」

「そりゃそうだ」


 農業を舐めていたのかもしれない。

 これからは心を込めて「いただきます」と言うことにしよう。


「……今からなにをしましょうか?」


 突然、やることがなくなったからなのかリネアがそう尋ねてくる。


「うーん……まあいつも通り釣りでもしようか」

「はい! 私、釣り大好きです!」


 そうやってなんでも楽しんでくれるリネアは超可愛い。


 ここで抱きしめたくなる。

 抱きしめようかな?

 止めとこうかな?


 いや……。


「リネア!」


 もう我慢出来ない!

 リネアの体を抱く。


「ブ、ブルーノさん? 急にどうしたんですかっ?」

「いや、リネアを好きという気持ちに歯止めがきかなくなってな」

「もう……私もブルーノさんのこと好きですよっ」


 予定変更だ。

 釣りを止めて、今日一日中リネアといちゃいちゃしておこう。


 リネアをお姫様抱っこして、家へと戻る。


「それにしても……もっと早くじゃがいもが育ってくれたらな」


 百日はかかりすぎだ。

 出来れば()()とかに出来てくれればいいが、そんなの無理に決まっているだろう。


《また【スローライフ】を無駄遣いしてる……》


 女神がぼそっと呟く声が聞こえた。


 だが、俺はリネアを可愛がるのに忙しいんだ!

 家に入る前、種芋を埋めた地面をちらっと見てから扉を閉じた。


 ——美味しいじゃがいもが出来ますように。




 ちゅんちゅん。


「う〜ん、結局昨日はあれからリネアといちゃいちゃしてただだな……」


 背伸びをしながら、上半身を起こす。


「あっ、そうだ! じゃがいもがどうなっているか見に行こう!」


 リネアも起こして、早速家の外へ出ようとする。


「いやいや……ブルーノさん。まだたった一日ですよ? なんの変化もあるはずが——」


 外に出て。

 その光景を見て、リネアが口元に手を当て絶句する。



 一面に——地面からじゃがいもの葉っぱが生えていたのだから。



「おお! ……もしかして出来たのか?」


 俺はしゃがんで、一枚の葉っぱを手に取ってみる。

 

「じゃがいもの葉っぱが黄ばみだしたら、収穫時期……というのを聞いたことがあります」


 よく見るとじゃがいもの葉っぱが少し黄ばんでおり、へなっとしている。

 リネアの言うことが確かなら、もうじゃがいもを収穫しても大丈夫だろう。


 そのうちの一つを引っ張ってみる。


「うっ、固い……リネア。一緒に引っ張ってくれないか?」

「は、はいっ!」


 リネアが俺の腰を持つ。


「いくぞ——よいしょぉぉっ!」


 力強く引っ張ると、すぽーんと気持ちよく抜けた。

 あまりにも力が強すぎて、一緒に地面に倒れ込んでしまった程だ。


「痛たたた……すまん、リネア。大丈夫か」

「私は大丈夫です——ってブルーノさん!」


 頬に黒土を付けたリネアが、前を指差して震える声を出した。


「おっ、ちゃんと出来ているじゃないか!」



 ——そこには一つの根に百個以上ものじゃがいもが引っ付いていた。



 実際、ちゃんと数えてみたら百二十六個付いていた。


「よし、この調子でどんどんじゃがいもを収穫していくぞ!」

「はい! ……でもどうして、一日で収穫出来るようになったんでしょう」

「愛情がこもっていたからじゃないか?」

「成る程! さすがブルーノさんですね」


 リネアが俺の肩を持って、小さくジャンプしながらはしゃぐ。



《ってそんなわけないでしょぉぉおおおお!》



「……チッ。やっぱりそっか」


 いや、なんとなく感づいていましたけどね。

 本来百日かかるじゃがいもの収穫が一日で済んだら、さすがの俺だって疑問に思う。

 頭を掻きながら、


「(これも【スローライフ】の効果か?)」

《当たり前じゃない! 一日でじゃがいもが育つなんて有り得ないでしょ!》


 ——まあ例えそうだとしても、あまり問題ではないだろう。


 スローライフに関することを()()()実現する。


 俺が「一日でじゃがいも収穫出来ないからなー」と考えたら、その通りになる。

 確かに収穫出来るまで待つこともスローライフの醍醐味かもしれない。


 しかし——じゃがいもはあんま水をやらなくてもいいらしいし、そう考えたら少々退屈すぎる。

 なので一日でじゃがいもが収穫出来るようになったのは、ただただ有り難いことだ。


「よし! この調子で全部収穫するぞ!」

「はい!」


 リネアと一緒にじゃがいもを抜いていく。


 すぽーん。

 すぽすぽすぽすぽーん!


 心地良いリズムと一緒にじゃがいもを収穫していく。


 やがて。


「ふう……こんなもんか」


 山のように積み重なったじゃがいもを見て、俺は額の汗を拭った。


「どれくらいあるんでしょうね?」


 リネアがじゃがいもを一つ掴んで、そう疑問を口にする。


「うーん……正確には数えていないが、一万個くらいかな」

「一万個っ!」


 目を見開くリネア。

 途中、腰が辛くなってきたと思ったら、案の定じゃがいもの葉っぱが目の前まで伸びてきた。

 しかも片手で抜けるようになってくれたし。


「よし、今日はディックの家でじゃがいもパーティーをしよう」

「うわあ、美味しそうですね! お酒のつまみにも良さそうです」

「リネアはホント、お酒が大好きだなあ」


 それにしても、これだけのじゃがいもどうしようか。

 さすがにこれを食べきる前に、腐ってしまいそうだし……。

 まあ余った分はディックとか、ギルドマスターとかにお裾分けすればいいだろう。


 俺は袋にじゃがいもを詰めながら、そんなことを考えていた。


 ◆ ◆


 大量にあったじゃがいもはぐちゃぐちゃに潰して、ポテトサラダにすることにした。


「旨いっ!」


 ディックがスプーンで口にポテトサラダを運びながら、そう絶賛してくれた。


「マリー、ポテトサラダあんまり好きじゃなかったけどこれは美味しいなの!」

「本当ですね! こんな甘いポテトサラダ始めて食べましたよ」


 マリーちゃんとリネアも続いてくれる。


「うん……みんなに喜んでもらえて良かったよ」


 みんなが言った通り。

 確かに、俺の作ったポテトサラダは美味しかった。

 いくらでも食べられそうだ。


 これは調理の仕方が云々(うんぬん)というよりも——素材が良かったのだろう。

 ポテトサラダを調理している際にも、じゃがいもの匂いでお腹が一杯になりそうだった。


「おっさん。それにしても……いきなりじゃがいもなんてどうしたんだ? 買ったのか?」

「いや、栽培したんだ」

「おお! いつの間にそんなの始めてたんだ!」

「昨日だ」

「……はい?」


 ディックが追及しようとしてきたが、軽く流すことにした。

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