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38・おっさん、農業を始める

 おっさんが英雄としてイノイックで崇められている一方。



「こんな不味い飯——食えたもんじゃねえよ!」


 勇者パーティーの武闘家——ライオネルは皿をひっくり返して、そう叫んだ。


「おいおい、ライオ。いきなりどうしたんだい?」


 勇者ジェイクが尋ねる。

 表面上は冷静なように見えるが、内面は荒波のごとく慌てふためいていた。


「……このダンジョンに潜って何日目だ」

「十日目だ。だが、そんなに珍しいことではないだろう」

「オレが不満に思っているのはそんなところじゃない! この十日間——不味い飯ばっか食わされて、オレはもう限界だって言ってんだ!」


 ライオネルが怒号を上げる。

 武闘家のライオネルは——スキルの恩恵もあるが——パーティーの中で最も体を鍛えている男である。

 そのため体躯たいくは大きく、そのような大男が怒鳴り声を上げているのだから、ジェイクであっても圧を感じてしまっていた。


「そ、そんなに不味い飯かな? ダンジョンの中で食べる『ダンジョン飯』においては一般的な部類だと思うけど」

「はあ? そんなの知らねえよ。ただパーティーを組んで旅を始めてから、ダンジョンの中でも旨い飯が食えてたじゃねえか」

「そ、それは——」


 ジェイクの言葉が詰まる。


「……昔はブルーノがいたからねぇ」


 ——ライオネルが怒りによって暴れている中。

 少し離れた小石の上に腰掛けている女。

 魔法使いのベラミがぼそっと口にした。


「ベ、ベラミ? さっきなんて言った?」

「だってブルーノは——戦闘の実力はからきしだったけど、料理はメチャクチャ上手かったじゃない。そのおかげで、ダンジョン内においても高級レストラン並の美味しい料理が食べられたし」


 ——そんなことは分かっていた。

 だが、それをわざわざ口にするとは。


(……チッ)


 ジェイクは心の中で舌打ちをする。



 ——ブルーノがいなくなってから、パーティー間の仲は荒んでいた。



 ちょっとしたいざこざであっても、大きな喧嘩に発展する。

 今までブルーノがその喧嘩を途中で止める役割を担っていた。


 ……まあ弱すぎて止められていなかったが、そんなブルーノの間抜けな姿を見ていたら頭の血も下がっていった。

 さらに——今、ライオネルが怒っているところもブルーノがいたらなかった話である。


(ブルーノがいたら……? いや、僕はなにを考えているんだ!)


 ジェイクはブンブンと首を振る。

 それを認めてしまうことは、自分自身の敗北に繋がると思ったからだ。


「よいしょっ」


 見れば、ベラミがそう言って小石から降りていた。


「……どこへ行く?」

「ブルーノを探しに行くのよ」

「は、はあ? ブルーノを? な、なに考えてんだ!」

「アタシもあの時は賛成したけど、やっぱ間違ってたみたい。こんなギスギスしたパーティーにはいたくないけど……まあ強いのは確かだし、脱退するのは後ろ髪引かれるなー、って。だからブルーノがいたら、元に戻るかなあって思ってね」

「ちょ、ちょっとベラミ!」


 ベラミは元々さばさばした女であった。

 ブルーノを追放しようと思う、ということを打ち明けた時も「いいわよー」とやけに軽いノリであった。


 ベラミを呼び止めようとするジェイクであったが、


「オレもブルーノを探しに行くぜ! 不味い料理ばっか食べてたら、死んじまいそうだ!」

「ちょっ、ライオネルまでか?」

「おい! ベラミ。一緒に行こうぜ」

「嫌よ。アタシは一人で行くから、付いてこないでよね」

「相変わらずつれない女だな……仕方ない。どっちがブルーノを最初に探し出せるか競争だな!」

「勝手に言っときなさい」


 二手に分かれて、ベラミとライオネルがどっかに行ってしまう。


「ベラミ! ライオネル! う〜、どっちを追いかけたらいいんだ!」


 二人のうち、どっちが抜けたらパーティーとして致命傷か。

 立ち止まって計算を始める。


「ベ、ベラミだ! ベラミの魔法がなければ、僕の剣技も100%活かされな——」


 やっとのこさ結論が出て、ベラミを追いかけようとしたら。


 とっくにベラミもライオネルの姿は見えなくなっていた。


 ★ ★


「農業をするぞ!」


 リネアと一緒に家を出て。

 湖を眺めながら、俺はそう宣言をした。


「いきなりどうしたんですか?」


 リネアが自分の髪を撫でながら問う。

 葉っぱから朝露がリネアの髪に落ち、それが芸術的なまでの金色の光を発した。

 リネアを見ていると、今日も活力が湧いてくる。


「うん。やっぱりスローライフといったら、農業かなと思ってな」

「農業っていうと、やっぱり野菜とか栽培するんですか?」

「ああ!」

「でも一体なにを……」


 彼女が全て言い切る前に、俺は自分の家から箱を持ってきて地面に置いた。


「まずはじゃがいもを作ろうと思う……」


 箱にはぎっしりと詰められたじゃがいもの種芋。

 あんまり作り方は知らないが、これを地面に植えることから始めるらしい。


「リネアも手伝ってくれるかな?」

「もちろんです!」


 リネアが花のような笑みを咲かせた。

 さて……まずは地面に種芋を植えていけばいいのだろうか。


「よいしょっと」


 種芋を一つずつ取って、丁寧に地面に植えていく。


「意外に簡単だな」

「本当ですね! もっと農業って疲れるイメージがあったんですけど……ここの地面は柔らかくて、とても埋めやすいです」


 もぎゅっ。

 地面に種芋を押しつけると、そのまま入り込むようにして埋まっていった。


 もぎゅっもぎゅっもぎゅっ。


 リズム良く、リネアと並んで種芋を埋めていく。


「スコップとかも一応用意してたんだけどな……」


 でもこの様子だったら、使う必要がないだろう。

 俺より非力であろうリネアですら、順調に種芋を埋めていっているのだから。


「うーん、これぞまさにスローライフ!」


 朝の光を浴びながら、快適に農業。

 これぞ俺の求めていたスローライフだ!


《……本当ならこんな簡単に埋めていけないんだからね。【スローライフ】発動しているの自覚ある?》

「おお、女神。おはよう」

《おはよっ! ——ってそうじゃなくって!》


 つい女神に反応してしまっていたら、


「ブルーノさん?」


 リネアが手を止めて、こちらを向く。


「今、女神とか——聞こえたんですが?」

「ああ、それなら気にしなくていい。独り言だから」

「そうですか」


 あまり話を掘り下げてこないリネア。

 全く良い嫁だ。

 いや、結婚とかしていないけどな。


「ふう、こんなもんかな!」

「楽しかったですね!」


 じゃがいもの種芋を全て埋め終わる。

 家の前に広がる地面一帯に、とにかく埋められるだけ埋めてみた。

 面積的には結構なもので、足の踏み場に困る程だ。


「さて……これからなにをすればいいのかな?」


 腕を組んで、首をひねる。


「毎日、水とかやっとけばいいのかな」

「じゃがいもを栽培するには、あまり水をやらなくていいと聞いたことがありますが……」

「そうなのか?」

「はい。水をやりすぎると逆に腐ってしまうだとか」


 植え付けてから、あまりすることがないんだな。

 ……ってか全くないと言っても過言ではない。


「じゃあ後は出来るのを待つだけ? じゃがいもってどれくらいで収穫出来るんだろう」

「私もあまり詳しくないんですが……百日程と聞いたことがあります」

「百日!」


 長っ!

 種芋を植え付けていくのは楽しかったが、これから特にすることもなく百日も待たなければならないのか。


「農業ってのもなかなか大変なんだな……」

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