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36・おっさん、後手に回る

 二人組の男だ。

 そいつ等はローブを羽織り、フードを頭に被っているため顔がよく見えなかった。


 魔法使い共はギルマスに近付き、声を弾ませてそう言った。


「ああ、ボクは嘘は吐かないんだな」

「これでやっと我らの悲願が達成出来る!」

「悲願?」

「ククク……犯罪者を追って長旅をしていたからな。やっと我らが手に入れることが出来る、ということを言いたいだけだ」


 よく言ったもんだ。

 リネアを捕らえ、実験動物として飼うことしか考えていないだけなのに。


「——おっさん。怒りを静めるんだ」

「分かっている」


 拳をギュッと握りしめ、我慢する。

 冷静さを失ってしまっては、作戦が失敗してしまうかもしれない。

 表面上は怒っていても、内はクールに。


 すーっ、はーっ。すーっ、はーっ。

 深呼吸して気を落ち着かせる。


「……よし!」


 聖剣を握りしめ、現れた魔法使い共の前に姿を現そうと足を踏み出した瞬間、



「ふんっ! ウォーター・ウォール!」



 ——魔法使いの一人が手を掲げて、そう叫んだ。


 その瞬間。

 足下から水が噴射する。


「なっ——!」


 驚いている暇もないまま。

 あっという間にその水は——リネア達と俺を阻むようにして——巨大な壁を形取った。


「リネア!」


 俺はそのまま壁にぶつかるようにして、前進しようとする。

 だが——その壁は水のはずなのに固く、先に進むことが出来なかった。


 くっ!

 このままじゃ、リネアと魔法使い共のところに行けないじゃないか!


「ククク。ギルマスよ。お前がなにか企んでいるであろうことはお見通しだ」


 魔法使いがフードを頭から取る。

 するとそこには——邪悪な笑みに浮かんだ中年くらいの男の顔があった。


「ウォーター・ウォール……! 水の壁を作り、相手の行動を制限する魔法かっ!」


 ギルマスは俺と魔法使い共を交互に見て、焦りを含ませた顔となった。


「ご名答——本来なら、エルフなどギルドで引き渡せばいいだけのはずだ。それなのにわざわざこんな人気ひとけの少ない場所に呼び出すとは……なにか企んでいると思わない方が不思議だろう?」


 もう一人の魔法使いもフードを取って、勝ち誇ったような顔をして言う。


「分かっていたのに、どうしてわざわざ誘いに乗ってきた?」


 ギルマスがリネアの前に割って入るようにして立ち、そう疑問を口から出す。


「決まっている。お前がなにを企んでいようが、それ以上の力で我々が返せると思っていたからだ」

「……つまりボクを舐めているということだな」

「ハハハ! その通りだ!」

「こんな外見で説得力はないと思うが、ボクだって昔はSSランク冒険者だったんだが?」

「ハッ! それくらい調べはついている! しかしそれも、十数年前の話だろう? 現役から退いて、そのような無駄な贅肉まで付けて、満足に戦えないはずだ」

「仮に現役当時の力が残っていようとも、我らは元Sランク冒険者。今でも魔法の力は衰えていない。二人いれば、貴様一人ごとき倒せるんだがな?」


 魔法使い共の余裕綽々の表情。

 反対にギルマスは苦しそうに顔を歪ませている。


「クッ……それだけウォーター・ウォールを高速で展開出来るくらいだ。どうやら()のボクでは敵わないみたいなんだな」


 ——どうやら図星のようだ。


「「ハハハ!」」


 それを見て、魔法使い共が愉快そうに笑い声を重なり合わせる。


「ククク——おっ? 一人は知らないおっさんだが、もう一人は王都の女騎士ではないか」


 ピンチになったからなのか——アシュリーが物陰から出てきていた。


「くっ! このような壁など……ハァッ!」


 アシュリーが腰から剣を抜き、魔法で作られた水の壁に斬りかかる。


 ズバッ!


 一瞬、水の壁は両断されたように見えた。

 しかし。


「やはり——元に戻るかっ!」


 アシュリーが言ったように、一瞬にして水の壁は元の形へと戻ってしまった。


「ハハハ! 無駄だ! どのような素晴らしい剣技を持っていたとしても、我の圧倒的な魔力が内包されているウォーター・ウォールは斬り裂けない!」

「くっ!」

「貴様等はそこでエルフがさらわれるのを眺めておくんだな」


 その後、何度かアシュリーはウォーター・ウォールを破壊しようとするが、全て不発。


「わ、私の剣技はこの程度だったのか!」


 悔しそうにアシュリーは歯軋りをする。


「キャッ!」


 そうこうしている内にギルマスの手元から鎖が奪われ、リネアの肩を魔法使いが抱く。


「ククク。ではギルマスよ! なにを企んでいたか知らないが、助かったぞ! 報酬については心配するな! 後日、使者がギルドの方へ持って行くだろう!」


 完全に勝ったと思っているのか。

 魔法使いは気持ちよさそうに勝利宣言をした。


「お、おっさんよ! まずい……このままでは、あのエルフがさらわれる」

「分かっている」


 ——確かにあっちの方が上手うわてであった。

 俺の考えた策などお見通しだったのだ。

 俺達は完全に裏を取られ、後手ごてに回ってしまっている。


「おい、そこの魔法使い」


 時計塔から去ろうと背中を向けた魔法使いに、俺はそう声を放つ。


「なんだ?」

「お前等、完全に俺達を出し抜いたと思っているな」

「その通りだろう! 貴様等の策を見破った上で、わざと罠にかかり打ち破ったのだ! ククク……悔しいだろう?」

「はあ……。さっきお前等が言った言葉、そのまま返してやるよ」


 もう少し楽にいくと思ったんだがな。

 こうなったら()()()()だ。

 溜息を吐きながら、聖剣を抜いて一刀。


「えい」


 ズバァァァアアアアッ!

 ドシャァァアアアアアアッ!


 軽く振るっただけなのに。

 なんかもの凄い音を立てて、ウォーター・ウォールが破裂した。


「へ?」


 魔法使いの動きが止まり、その様子を見てぽかーんと口を開ける。

 再生しないところを見たら、水の壁は完全に無効化出来たらしい。


「——例えなにがあっても、 それ以上の力で返せると思ったからお前等をここに誘き寄せたんだ」

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