34・おっさん、素材を集める
前に作ってあげた武器を作るなら、そこらへんの石とか草を集めれば十分だろう。
しかし——今度はその強い魔法使いってのをやっつけなければならない。
さらなる上位の武器が必要となってくるはずだ。
というわけで俺は——イノイック近くの洞窟を訪れていた。
「ここならもっとマシな素材が手に入りそうだが……」
そうである。
ゴブリンが大量繁殖していたダンジョン。
単身乗り込んできたわけである。
「女神」
もしかしたら自分から呼ぶのは初めてかもしれないな。
スキルの女神を呼び出してみる。
《ん? なによ。あんたからなんて、珍しいじゃないの》
女神の気怠そうな声が聞こえてきた。
「ああ、悪い悪い。もしかして、なにかしていたのか?」
《ええ。お昼寝していたのよ》
「サボってたのかよ!」
《サボってた? そもそもわたしの仕事はスキルを生み出すくらいだからね。基本的に暇なのよ》
「……じゃあ基本なにしてんだ?」
《暇な時は、神界の湖で釣りをしたり……料理をしたりして暇を潰しているわよ》
俺なんかよりも、スローライフ満喫してやがるっ?
成る程。
こいつだからこそ、【スローライフ】なんていう一見ヘンテコなスキルを生み出せたのかな。
「まあ良い……今日は【スローライフ】について聞きたくてな」
《え、え? もしかしてやっとやる気になってくれたっ?》
女神の声が弾む。
《ドラゴンでも討伐する気? いや、それとも魔王を倒して世界の英雄になるつもりかしら!》
「ドラゴン? 魔王?」
スローライフをするにあたって、どうしてその二つの名前が出てくるんだ。
「違う……今日は武器を作りたくてな」
《えー、武器か−……だったら、わたしに聞かなくても十分じゃない。そこらへんの石とか草を採取すれば》
「いや——前作ったよりも、数段上の武器を作りたいんだ。そのために、モンスターを狩ってそれを素材にしたい」
そうなのである。
モンスターは人に害をなす存在であるが、反対にそれから取れる素材やアイテムによって金銭を得ることも出来る。
一般的にはレアなモンスターから取れる素材程希少価値が上がり、それから強い武器だったり、貴重なアイテムを作ることが出来る。
だが。
「……素材ってのはランダム要素が大きい。俺も冒険者をやっていたから分かるんだ」
例えば、一体のスライムを倒したとしたら、希少素材である『スライムの核』というものをゲット出来る可能性がある。
しかし『スライムの核』を備えているスライムは、とても少ない。
大体が『スライムの液』という、そこらへんの石とか草と同価値の素材しか得ることが出来ない。
見た目で『スライムの核』を備えているモンスターかどうか、それを見極めるのはほぼ不可能と言われている。
「焔剣があったら、スライムくらいなら苦戦しないと思うが……それじゃあ時間がかかっちまうんだ。なんとかならないか?」
そう問いかけると、
《あら、簡単よ。アイテムの採取もスローライフに関することだからね》
と女神が即答する。
「じゃあなんとかなるのか?」
《なんとかなるわよ。【スローライフ】を使えば、出現する貴重な素材を100%ゲットすることが出来るわ》
なんと。
なんとなく分かっていたが、これがあったら大分時間の短縮になりそうだ。
「おっ、そんな話をしていたら……」
とことこと前からモンスターが寄ってきた。
一見、二足歩行する犬のようにも見えるモンスター。
コボルトである。
「さて……早速、狩っちまうか」
そういや、自発的にモンスターに向かっていくのは久しぶりのことだ。
キングベヒモスの時は自発的っていうより、リネアを助けるために仕方なくだったしな。
スローライフを始めるにあたって、初めてのことかもしれない。
俺はジリジリと距離を詰め、
「おりゃぁぁあああああ!」
決死の覚悟で持っていた焔剣を振るった。
ズバッ、ゴォォオオオオ。
コボルトの体が炎に包まれ、消滅する。
《……どうして、そんな気合入ってんのよ》
「はあっ、はあっ……死闘だった」
《一発のように見えたけどっ?》
さてさて。
コボルトが消滅した後に、エメラルドグリーン色に輝く石が落ちていて……。
『コボルトの宝眼 レア度S』
石の上に、文字が出現する。
「やった! 一発でコボルトの宝眼をゲット出来たぞ!」
その宝石のようなものを拾い上げる。
手の平にちょこんと乗るような小さなサイズ。
しかし侮ることなかれ。この『コボルトの宝眼』は、とても貴重で数多くの貴族達がこぞって求めるような素材なのだから。
《意外に素材について詳しいのね》
「まあ一応冒険者やってたからな」
勇者パーティーの腰巾着だったがな。
それはともかく、女神の言っていた通り【スローライフ】の効果は絶大らしい。
本来なら『コボルトの宝眼』はコボルトを十万体倒して、手に入るか入らないか……くらいのレベルだと言われている。
それが一発でゲット出来るなんて。
これを素材に武器を作れば、きっと頑丈になるに違いない。
「よし! この調子でガンガン素材を集めていくぞ!」
——二時間後。
『コボルトの宝眼×72』
『スライムの核×107』
『ゴブリンの神毛×56』
『ナイトバッドの羽毛×74』
『ミニゴーレムの魔石×26』
『オリハルコン×12』
『神の聖水ノスビット×7』
うむ。
これだけ素材を集めれば十分だろう。
ちなみにモンスターに関しては——強いモンスターがいなかったこともあるが——焔剣を一振り二振りすれば、簡単に倒すことが出来た。
「それにしても疲れたな……」
立ちくらみがする。
吐き気もしてくる。
昔はこれくらい動いても、まだまだ元気だったのに。
やっぱり歳には勝てないものだ。
《……これだけ貴重なアイテムがあったら、王都に行って大豪邸建ててメイドを百人くらい雇えるわね》
「王都に? 俺がそんなところ行くわけないだろ」
《あら。メイドハーレムが実現するかもしれないわよ》
メイドハーレム!
それは男の夢である。
ちょっとだけ心が惹かれ……。
「ダ、ダメだダメだ! あんな人の多いところで住めるか! それにリネアとかディックとかマリーちゃんを置いていけるわけもない!」
ブンブンと首を振って、邪念を消す。
《残念だわね……》
「どうしてお前が残念がるんだ」
《私、王都みたいな華やかなところで住んでみたかったのよ》
「女神なのにっ? ってかお前が住むわけじゃないんだから……」
《神界は退屈なところでね……そういう活気があって、事件が起こりそうなところに憧れているのよ……》
やっぱりこの女神、俺よりスローライフしているかもしれない。
「まあいっか……」
袋に素材を詰める。
一度では持って帰れないので、何度か往復しなければならないかもしれない。
「これだけあったらメッチャ強い武器が作れるはずだ」
たった一つの武器を作るために、この山ほどある素材を使えるか疑問であるが……。
まあ少ないよりはマシだろう。
《……これだけ貴重なアイテムで武器作れば、魔王すら一撃な気がするけどね……》
女神の声が小さく、よく聞こえなかった。
おそらく、交信出来る時間とやらがなくなってしまったんだろう。
その後、俺の家と洞窟の間を三往復して、全ての素材アイテムを持ち帰った。




