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32・おっさん、ぶらぶら歩く

 ゴブリンが全滅したことを確認したアシュリーは、


「いや! まだだ! まだ分からない! そうじゃないと、戻ってきた私が間抜けみたいじゃないか!」


 と言って、しばらくイノイックの宿屋に滞在することなった。

 あっ、ちなみに……滞在しているのはアシュリー一人だけだ。

 全員泊まらせるわけにはいかないんだろう。

 なにやってんだか……。


 ってなわけで。

 翌日。

 今日もディックの家に寄ってから、釣りに出掛けようと思ったら、


「マリー! 買い物に行きたいの!」

「私も……服を買いたくって」


 マリーちゃんとリネアが、俺にそうお願いをしてきた。

 俺としては、久しぶりのスローライフを満喫しようと思ったわけだが……まあこの二人に頼まれれば、仕方がない。

 釣りの予定を急遽変更し、三人で買い物に行くことになった。



「おっちゃん! あれ、食べたいの!」


 三人で歩いていると、とある屋台を指差してマリーちゃんがそう言った。


「ん……? あれは?」

「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! こちらでは王都で大流行のリンゴ飴を売ってるよ! 一度お召し上がりくださいませ!」


 リンゴ飴。

 それは棒の先にリンゴを突き刺し、さらにそれをシロップでコーティングしている食べ物である。


「へえ……こんなのも売ってるんだ」


 懐かしい。

 王都にいた頃は、何回か食べたことがある。


「リネアも食べるか?」

「はいっ!」


 俺は財布からお金を取り出し、三人分のリンゴ飴を買った。

 ちなみに——ほとんどタダみたいな値段ではあったが——護身用の武器をイノイックの住民に売り払ったおかげで、財布の中身はまあまあ潤っている。

 そのまま三人でリンゴ飴を舐めながら、市街を歩き回ることにする。


「う〜ん、甘くて美味しいの!」

「本当ですっ! 私、こんなの食べたことありません!」


 二人がリンゴ飴をペロペロしながら、そう声を弾ませた。


「ブルーノさんは食べるの初めてじゃないんですか?」


 とリネア。


「あ、ああ……昔、たまたま王都に観光した時に食べてね」

「おっちゃんだけずるいのっ!」

「なにがっ?」

「こんな美味しい食べ物……どうして教えてくれなかったのっ?」

「イノイックにあるとは思ってなかったんだよ」


 ペロペロ。


 うーん、甘い。

 癖になってしまいそうだ。


 三十路のおっさんだろうが、甘いものは大好きである。


「これ……どうやって作るんでしょう」


 リネアが食べかけのリンゴ飴をじーっと見つめ、ぼそっと口にした。


「うーん、作り方までは知らないな」

「作り方さえ分かれば、私でも再現出来そうなんですが……それでブルーノさんにご馳走出来ると思うんですがっ!」

「おっ、それはなかなか魅力的な提案だな」


 リネアがリンゴ飴の作り方さえ分かれば、これ程美味しい食べ物が毎日食べられるかもしれない。


 ペロペロ。

 ペロペロペロペロ。


 ペロペロしている自分を想像したら、口からヨダレがこぼれ落ちた。


「お姉ちゃんはリンゴ飴の前に、目玉焼きを作れるようにしないとダメなのっ! 前、卵を割ろうとしたらお皿が割れちゃったよね」

「は、はぅ〜ん……」


 マリーちゃんのご指摘に、リネアの体が小さくなっていく。


 ——まあ。

 そんな感じで、楽しくイノイックの市街を歩き回っていると、ギルドの前を通りかかった。


「ん?」


 なんだ、あれは。

 建物の壁に張り紙が貼られている……。


「指名手配……か」


 なかなか物騒になったもんだ。

 一体、どんなことをやらかしたのか分からないが、顔くらいは拝んでおこうじゃないか——。


「えーっと……エルフ娘リネア……捕まえた者には2000万ベリスを与えか……か。へーっ、エルフなんて珍しいな」


 そんなエルフがここ平和なイノイックでなにをやらかしたんだろうか。


 ……。


 …………。


 え?


 リネアだってっ?


「な、なんでこんなもんが貼られてるんだ!」


 顔が引っ付くくらい、張り紙に近付く。

 一緒に載せられている写真は、正真正銘リネアの顔であった。


「え? え? なんで私、指名手配なんかに?」

「お姉ちゃん、食い逃げでもしたの?」

「そ、そんなことしてませんよ!」


 リネアが否定する。

 仮にリネアが食い逃げをしたとしても、それくらいで指名手配としてギルドに張り出されたりしないはずだ。


「と、とにかく詳しい話を聞かなければ!」


 でもリネアと一緒に中に入ったら、危険じゃないだろうか?


 ……いや、仮にリネアに危害がくわわりそうだったら、全力で守ってやればいいだけだ。

 俺に出来るかは分からないが、スキル【スローライフ】でハイポーションはいくらでも湧いてくるんだし。

 今は護身用の武器だって、たずさえている。

 外に二人を待たせておくのも、それはそれで危険だし。


 そんなことを考えながら——半ば衝動的に、ギルドの入り口を潜った。


 ◆ ◆


「お邪魔します」


 そう言って、ギルドに入った瞬間——中にいる冒険者やギルド職員が、さっと俺の方にキラキラとした瞳を向けてきた。


「おお! 英雄おっさんじゃないですか!」

焔剣えんけんを作ってくださり、ありがとうございました! 良かったら、剣にサインしてくれませんか?」


「すいません。今は構っている暇なんてないんです」


 寄ってくる人達を適当に流して、大股で受付まで行く。


「あっ……おっさん、こんにちは。今日はどのようなご用でしょうか?」

「指名手配について聞きたいことがある」

「指名手配ですか……? 確かに、張り紙を貼っていましたが——」

「まずはこれを見てくれますか?」


 とリネアを前に出す。


 すると受付のお姉さんは目を丸くさせて、


「こ、これは! 指名手配のエルフじゃないですか! あの指名手配の張り紙を出したのは今日なんですよ。さすがおっさん! いや、おっ様!」


 おっ様って、なんだそりゃ。


「早速、報酬金を持ってきま——」

「ちがぁぁぁぁあああああう! リネアは俺の知り合いなわけなんですが、どうして指名手配になっているのか聞きたくて来ただけです!」

「えっ……おっ様が指名手配と友達?」


 ギルドに緊張が走った。

 ……ような気がする。


 その後、受付の人は奥に引っ込み、なにやら何人かの職員で話し合っているみたいだった。

 その間、リネアに好奇の視線を向けてくる連中がいたが、一瞥したらどっかに消えていった。

 やがて。


「むむむっ? 英雄がエルフと知り合い? どういうことなんだぁ?」


 巨漢の男が俺の前にやって来た。


「……えーっと、誰ですか?」

「ボクはギルドマスターなんだな」


 ——こいつがギルドマスター?


 俺の四倍くらいの体積をしているんじゃないだろうか。

 基本的にギルドマスターなんてものは、現役を退いた冒険者がなることが多い。

 しかも有象無象の冒険者ではない。

 例えば——イノイックなら、アーロンさんのように人望も実力も兼ね備えた人であることが一般的だ。

 ……はずなんだが。


「……嘘を吐くな。お前がギルドマスターなわけがない!」

「んが! なにを失礼なことを言っているんだ。ボクは確かにイノイック冒険者ギルドのマスターだ!」

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