28・おっさん、武器を作る
二階の一室で、小さなテーブルにマリーちゃん達が集めてくれた素材を並べる。
「よし——早速、取りかかるか」
えーっと。
【スローライフ】発動は、
『1・スキルに身を委ねること』
『2・強く願うこと』
の二つだ。
この二つを同時に達成するのは、難しいように思える。
しかし——最近【スローライフ】の使い方が分かってきたので、その点については大丈夫だろう。
「すーっ、はーっ。すーっ、はーっ」
つまり集中すればいいのだ。
周りが見えなくなるくらい集中。
そうすれば強い願いと、身を委ねる——つまり周りが見えず、まるで自分の体が自分のものじゃないかのごとく動く——が両立する。
そうすると、だんだん視界がぎゅーっとなってくる。
「お、なんだ? この文字」
テーブルに置かれた素材の上に文字が現れてきた。
《素材の詳細情報よ。まあ別にそんな情報なくても、生産することは出来るけどね》
なになに……。
『そこらへんの石 レア度G』
『そこらへんの草 レア度G』
『そこらへんの茸 レア度G』
「やっぱり役立たずだったー!」
そりゃそうですよね!
「ってか、もう少し詳細な情報を見られないのか」
《言ったでしょ。こんな情報なくても、生産することが出来るって。【スローライフ】では鑑定についても過度に実現するけど、まあ今はそんなの必要ないから実現してないだけ》
成る程。
またその効果については、追々使うとしよう。
「本当にこんなので武器を作ることが出来るのか……」
心配になってきた。
すると、女神が怒ったような口調で、
《なに言ってんのよ! わたしの作ったスキルを舐めるんじゃないわよ!》
「でも、そこらへんの石だぜ?」
《それだけあれば十分! しっかりスキルを使いなさい!》
女神にそう言われたなら仕方ない。
いつも通り、生産させてもらおうじゃないか。
俺は早速、武器の生産に取りかかった。
しかし——それがいけなかった。
無駄に心配してしまい、
「こんな石、どこをどう使えばいいんだ?」
「いや、草とかどう考えも必要ないだろ……」
「茸は捨ててもいいかな」
と邪念が混じっていた。
結果、三十分弄くり回しても、武器らしきものですら完成しなかった。
「上手くいかないな……」
《なに、やる気出しちゃってるのよ!》
なんか声だけじゃなく、女神が足踏みしているような音も聞こえた。
そういや、こいつって人間の形してるのかな?
してるとするなら、一度見てみたいものだ。
《……一度見たでしょ》
「は? どういうことだ」
《な、なんでもないわよ! やる気なんていらないわよ! そんな無駄に考えちゃったら、【スローライフ】発動しないでしょ!》
「じゃあどうすれば……」
《うーん、寝れば?》
おお、成る程。
確かにこの歳ともなれば、一点をずっと見つめていたら、目が痛くなってくる。
目頭を人差し指と親指でぎゅぎゅっと揉む。
「そうだな……ふわぁ……おやすみなさい」
《おやすみ——って! 寝るの早っ!》
——昼寝をしていたのは、三十分くらいだろうか。
「うーん、気分は爽快」
背伸びをする。
「さて……武器は出来てるかな」
そう呟いて、テーブルへと視線を移す。
すると……。
「おっ! 強そうな武器が出来てるじゃないか!」
——立派な剣が出来ていた。
刀身が赤く、燃えているように見えた。
「そこらへんの石とか草で、なんでこんなものが出来るのだろうか……」
摩訶不思議である。
『焔剣レーヴァテイン レア度A』
武器の上に文字がホップしてきた。
「レア度Aか……」
そこらへんの石とか草を素材にしたわりには、なかなか強い武器を作れたと思う。
だが、なんとなく物足りない。
勇者のジェイクはSSランクの武器を使っていたし。
もっとも、Aランクの武器を買うためには、湖の主を倒した時の端金では足りないくらい、お金が必要になってくるんだが。
《なに言ってんのよ! その素材で……しかも寝ている間に作ったものとしては、上出来じゃない!》
「そりゃそうだ」
《その剣は炎属性が付与されているわ。それに軽くて持ちやすいし、きっとあの女の子も使いこなせるはずだわ》
「あの女の子じゃない。マリーちゃんだ」
ああ、そういや護身用なんだっけな。
そう考えれば、Aランクくらいだったら丁度良いかもしれない。
「よし、早速マリーちゃんに渡してこよう」
しかし……、
『えーっ! レア度Aの武器? おっちゃん、本気出してそれくらいしか作れないの……?』
とか言われて失望されたら困る。
「レア度D……いや、Eとか言ってあんま期待させないでおこうか……」
いやー、初めてだったからさ。
本気出したから、もっと強い武器作れるんだけどねー。
的な。
「それに……大丈夫! きっとマリーちゃん、喜んでくれるはずだ!」
そう自分に言い聞かせて、マリーちゃん達が待つ一階へと階段を降りた。
◆ ◆
「おっちゃん、おかえりなのっ!」
「結構時間かかったんだな」
「良い護身用の武器は作れましたか?」
一階に降りた瞬間、三人がガヤガヤと寄ってきた。
「ああ……あんま大した武器じゃないけど……」
そう言って、焔剣レーヴァテインを三人の前に見せる。
「カ、カッコ良いの!」
それを受け取り、マリーちゃんは剣を掲げて目を輝かせた。
「斬るところが赤色なのがカッコ良い!」
「喜んでくれて幸いだよ。まあレア度Eの大したことない武器なんだがな」
マリーちゃんの喜ぶ顔を見れば、疲れも吹っ飛ぶというものだ。
……まあ疲れてないけどな!
ってかなんなら、昼寝していたので体調は万全だ。
「レア度E……! おっさん、あの石とか草でEランクの武器なんか作っちまったのかよ!」
「ああ」
「もしかして、ただの石とか草に見えて、すんごいレアアイテムだったとか……?」
「そんな訳ない。そこらへんの石とか草だったよ」
肩をすくめる。
それにしても、レア度E(本当はA)の武器で、ここまで喜んでくれるのはただただ微笑ましい。
勇者パーティーにいた頃なんて、Eなんてゴミ同然だったからな……。
お荷物の俺ですら、余り物のBランクの武器を貰っていた。
追放される時に剥がされたけど。
……剥がされたけどな!
言ってて、悲しくなってきた。
まあこれくらいで喜んでくれるのは、辺境あるあるなんだろう。
「おっちゃん! これを使ってみたい!」
「って、マリー! 剣を振り回すな! 危ない!」
マリーちゃんがブンブン剣を振り回しながら、そんなことを言った。
「マリーちゃん。言っておくけど、それは護身用なんだ。出来れば使う機会がない方が最善なんだ」
「ええー! どうしてどうして? 折角の剣なんだから、使わないともったいないの!」
「だからマリー! 危ないって!」
「ふんぎゅっ!」
マリーちゃんの頭に拳骨を落とすディック。
「そうだな……」
まあけど、新しく手に入った武器を使ってみたいという気持ちも分かる。
それが例え護身用でも、だ。
それに——このまま放っておくと、なんかマリーちゃん、
『試し斬りなの!』
とか言って、勝手に洞窟出掛けちゃいそうだしな。
元々、ゴブリンが怖いからって作ってあげた武器なのに、なにをしているんだか。
「……よし。仕方ない。ギルドに行って、冒険者の人に頼んでみようか」
「ホントっ?」
痛がっていた素振りをしていたマリーちゃんだが、それを聞いて瞳の輝きが戻る。
「ああ。モンスターに試し斬りは危険だしな……」
そもそも護身用だし。
「そんな話に付き合ってくれる方がいるでしょうか?」
頬に手を当てて、リネアがそう疑問を口にする。
「うーん、どうだろう……まあ子ども好きの優しい冒険者なら、付き合ってくれるかもしれないし……」
まあ冒険者ってのは、基本的に荒くれ者が多いから、そんな優しいヤツいないかもしれないが。
それならそれで、マリーちゃんも諦めてくれるだろう、多分。
「マリー! 冒険者の人に絶対勝つの!」
「振り回すなって!」
なら、早速冒険者ギルドに向かうとしよう。




